第35話 再構成のもう1つの能力
雨は次の日には止んだ。ぐちゃぐちゃになった大地では裸足の2人にははキツかった。
「うっわ……まじか、これ」
「……気持ち悪い」
洞窟を出て、1歩目に出た言葉がこれだった。同時にジャンプして、断層の上に着く。魔王様に会いに行くのは、断層の上に続く道を歩かなければならないのだが──
「まさかの芝生……か……」
「……う〜ん、ケイ、おんぶ。土より気持ち悪い〜」
「いや、何しれっと要求してるの!?」
「……おんぶ! おんぶ!」
「あぁ!! うるせぇ! やればいいんだろ、やれば!」
最近、ユイに甘いと感じつつ、なんだかんだでケイはおんぶをする。水に濡れた草の感触は、泥とはまた違った気持ち悪い感触を出していた。
だが、それでも堪えて歩くことが出来たのは、抱きしめるようにケイにしがみつくユイの2つの柔らかいおっ──胸が当たって、悪い気はしないと思ったからであった。しかし、ケイはバレないように、欲望に負けないようにと、必死で耐えて、心の矛盾を抱えたまま歩いていた。
そして、歩くこと3時間。
「……ケイ、好き♡」
「ユイ、それを何度言えば気が済むんだ?」
「……ケイが私と…………子供を作ってくれるまで?」
「ッ! 待て待て待て!……って、なんだあれ?」
「……さぁ?」
2人の目の前に現れれたのは、牛の姿に翼が生えた不思議な生き物だった。
「あれは……」
「……ん、ご飯」
「そう、飯だ。まともそうな食材だ」
「……どっちが仕留める?」
「俺がやろう」
牛みたいな不思議な生物は、地面に生えている芝生を無我夢中で食べているため、ケイ達には気がついていない。
辺りには木がちらほらとしか生えていなく、それ以外は全て芝生なため見渡す限り、的は捉えやすかった。
「期待してるぜ、牛もどき!」
「……ん、ケイ、頑張って」
ケイはポケットから角砂糖程の小さな正方形を2つ取り出す。そして、『再構成』を使って1本の大きな槍に変える。インターバルの5秒が過ぎた直後、『精密射撃(中)』と『怪力(中)』を同時に発動して、思いっきり投げた。
飛ばされた槍は、見事に頭を撃ち抜いて、その命を一瞬で根絶やしにした。
「やったぜ!」
「……さすが、ケイ」
「さぁ、昼食にするか」
「……ん! ご飯!」
2人が近づくと、牛は動き出した。正確には投げた槍が動き出した。
「「!?」」
「……ユイ」
「……大丈夫、わかってる」
2人が警戒態勢をとる。それと同時に槍はモゴモゴと動き出し、形を変形させていく。そして、弾けるように槍は2本のホーンラビットの角の形へと戻った。
「元に……戻った?」
「……ケイ、とりあえずご飯にしよ」
「あ、あぁ、そうだな」
近づいて確かめに行くと、元に戻った2本のホーンラビットの角は、牛の脳を無数にある棘でぐちゃぐちゃに刺さっていた。取り出すために再構成して、再び角砂糖のような正方形の粒に戻す。
「……まさか」
ケイは1つ、粒を軽く投げた。すると、3秒後には再び粒が動き出し、元の形に戻って行った。
「これは思ってたより使い勝手がいいな……」
「……ケイ、これ焼いていい?」
「ユイ、今大事なところ。焼いていいぞ」
ケイの驚きが、ユイのおかげで台無しになったが、フェンリン戦で得た能力は想像以上の代物だったことをようやく実感した。
そして、これまでの検証から手元に置いてる限りは重さは変わらないが、形も変わらないというデメリットを大きく覆すメリットが生まれた。
「……いただきます」
「え? あ、おい! ずるいぞ」
また1歩、確実に隣の化け物と釣り合える実力が身についたと実感しながら、牛もどきの肉を口に入れた。
「……おいしいね」
「……魔獣と変わらねぇ」
本日もケイはおいしいと感じることはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます