第21話 それぞれの1日

「……ケイ」

「あぁ、わかってる」

「「……なんだこれは!?」」


 ケイが魔法を使うホワイトモンキーズを食べて得た技能は『魔法』関係ではなくて、『精密射撃』だった。それは文字通り、射撃の精密さを上げるだけのクズ能力に他ならない。


「……やっぱりケイはおっちょこちょい?」

「なんでだよ!……ユイはなんか変わったのか?」

「……ん、魔法耐性が着いた。あと、全体的に力が増した……と、思う?」

「なんだと?」


 ユイにはスタータスを見るプレートはないが、ケイの鑑定眼で見ることが出来るので、鑑定眼を使い、調べてみる。


 名前 ユイ

 種族 フェンリル(人狼種)

 称号『魔族の嫌われ者』『魔族の迫害者』『恋する乙女』

 技能 『悪食』『空爪(小)』『気配察知』『全魔法耐性』『気配隠蔽』


「……どう?」

「色々とツッコミがやめておく……」

「?」


 ケイはこの時を悟ってしまった。今の調子だといつまで経ってもユイの方が強いと。


 ケイが、ユイの気持ちに気が付きながら無視をするのは、今の自分では釣り合わないとわかっているからだ。だから、ケイは敢えて突き放す。

 これは迷惑だからとかではなく、己の不甲斐なさと男としてのプライドがケイをそうさせている。


「……とりあえず寝るか」

「……ん」


 いつも通り、背中洞窟の壁に背中を預けて目を閉じる。上半身は裸だが、半魔人になったせいかあまり冷たさは感じない。

 ユイもいつもの場所と言わんばかりにケイの右横にチョコんと座り、頭をケイの肩に預ける。


「……ケイ、撫でて?」

「またか?」

「…………今日はこれで最後……」

「……はいはい」


 ケイは左手でユイの頭を撫でると徐々に目が閉じていく。洞窟の暗闇の中で3つの内、2つ赤い目が消える。ケイの隣で、ユイが静かにすぅーすぅと寝息を吐くのを確認する。

 1時間ぐらい待ってから、ケイはユイが起きないように体を退け、立ち上がる。


「……今のまんまじゃダメなんだよな。必ず、お前に追いついてやる。……いってきます」

「…………」


 そして、ケイは修行に明け暮れる。

 その場で目に入ったやつを殺しては食べ、殺しては食べ続けた。持ち物は湖の水が入った水筒型の土器のみ……つまり素手だ。

 ケイの使える技能は『威嚇(中)』のみ。他の技能はサポートや食事の時にしか使えない雑魚ばかり。戦うのは己の肉体ただ一つ。それでも自己進化を続けた肉体は奈落の底でもある程度だが、通じている。


 殺しては食べ、殺しては食べを続ける。途中、肉体を鍛えるために過度の筋トレをしたり、イメージトレーニングで全力で体を動かしたりして、消化を早める。


 出会って食べる魔獣は、熊みたいなやつや猪みたいな奴らばっかりだ。傷ついては水で癒し、食す。しかし、食べても食べても、体の骨や筋肉がより強くなっていく感じず、技能は何も得られなかった。


「……クソ! なにか……もっとインパクトのある奴じゃねぇーと!……とりあえず、今日はこれで終わりか」


 ケイはユイに追いつくため、ユイを認めたあの日から毎日毎日(といっても数日だが)、夜な夜なに修行を重ね、明け方頃にはユイが目覚めるであろう時間に帰る。そして、横に座って目覚めるまで仮眠を取るというそんな生活を続けている。


「た、ただいま〜」


 小声で帰ったことを知らせつつ、ユイの横に座って目を瞑る。そして、今日の反省と明日にどうするかを決めながら、徐々に意識を遠ざける。


「……お…かえ、り」

「!?!?!?」


 慌てて目を開け確認するが、ユイは未だにすぅーすぅと寝息を立てている。


「……寝言か」


 寝ようとするケイに問題が生じた。ユイの寝相の悪さなのか、ケイの右腕に抱きついてくる。

 ついつい忘れてしまいがちだが、ユイの着ているカッターシャツの向こうには、全裸である。そのため、直に体温と柔らかい肌や胸が当たってしまう。


「……ッ!体と目に毒すぎる……」


 ケイは、興奮する精神を無理やり理性で収めて、目を瞑り、意識を遠ざけ、眠りに入る。


 ──これがケイの1日。


 朝日が洞窟を照らしだすと同時に、ユイは目覚める。そして、自分の横でケイが寝ているのを目を擦りながら確認すると──


「……ケイ、今日もかっこいい……」


 寝ているケイに、そっと頬にキスをする。そのまま唇に行きたい気持ちを押さえ込む代わりに、目覚めないケイを少し見つめてから、肩を揺すって起こす。


 こうして、2人の1日が始まる。

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