第3話 さよなら、みんな


「なっ……な、な、なんで……う、うそだ……」


 そう、蛍だけは何も無かった。『異世界翻訳』以外何も無い。価値のない無能。居る意味もない無価値な存在。与えられた力が何もなかった。


「ちっ、ゴミか……」


 王様が、聞こえるか聞こえないかぐらいの音量でボソッと呟く。それに合わせて、両壁際に立っていた家臣や騎士達、ついにはクラスメイト、仲の良かった友達までもが嘲笑っていた。


「あははは!! おい、蛍! お前だけなんもねーのかよ!」


 クラスの内の誰かが、大声で秘密にしたい結果をバラしていく。

 リーダーの井上も「たまたまだよ」と慰めの言葉を掛け、労うように軽く肩を叩いてくる──が、内心で笑っているのが嫌でもわかった。


「えっと……そう、これは何かの間違いだ。そうに決まってる。こ、こんなのはありえ──」

「たしか、夜星 蛍だったな。特別に部屋を用意する。今宵はそこで休んでくれ。皆の者も同じように部屋を用意する。今日はゆっくりと休んで、明日から始まる訓練に備えてくれ」


 もう一度、やり直しを要求する前に、王様の言葉で遮られた。


 クラスの連中は、これから戦争に参加させられることも忘れ、自分のステータスに酔い、王様の言うことを二つ返事で聞いている。後ろの大きな扉が開き、ゾロゾロと出て行く。


 そんな中、1番最後の蛍だけが騎士に手を掴まれ、止められた。そして、全員が出ていったのを確認して、扉が締められる。


「なにするんだ!?」

「蛍……だったな、貴様これから死んでもらう。使えぬゴミは死ね」

「!?」


 突然の言葉に蛍は動揺が隠せない。だが、そんなことはお構い無しに王様は話を続ける。


「冥土の土産に教えてやる。これからお前を送る場所は、そこは魔物の巣窟。脱出は不可能。使えぬゴミよ、後処理をしなくていいようにそこで死ね。それがお前が召喚された意味だ! ふははははは!!!」

「お、お前、それでも人間か!」


 王様が笑い出したのをきっかけに、周りも嘲笑うかのように笑う。


「ははは……はぁ、よし連れて行け」


 掴まれている手を振り払って、逃げようとしたが騎士に囲まれ、あっさりと捕まった。そして、首に手刀を当てられて、意識を無理矢理に途切れさせられた。



 蛍が目を覚ました時、直径1mの淡い赤色に輝く円があるためだけのような部屋の前だった。その円の中には、何層か小さな円が描かれており、間には小さな文字が刻まれている。


「ま、待ってくれ!」

「じゃあな、ゴミ」


 背中を押され、円内に完全に入ってしまった。脱出を試みたが、部屋の扉が閉められたため、逃げ場所を無くした。踏んだことで起動したのか、円は光をさらに輝かしながら上昇し、昇りきる頃には、蛍は光に包まれて姿を消した。


 光が収まり、目を開けると大樹が囲う不気味な森の中にいた。そして、蛍の目の前には全長8mはあり、灰色の毛並みを持ち、全身に淡く青い光の線が入っている大狼がそこにいた。

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