第2話 無能は俺でした
魔法陣の先には、見知らぬ天井、下には赤いカーペットが引かれた床。カーペットの先には、白髭を胸元まで伸ばし、頭が真っ白な白髪の老人が、玉座とも言える背もたれの部分が長い椅子に座っていた。
「ほっほっほっ、よく来たな」
老人が発した言葉に、クラス全員が釘告げになった。ここにいる誰もが空気を読んでか、黙っている。もしかしたら、いきなり過ぎて声が出ないのかもしれない。
そんなことはお構い無しに、老人は続けて話す。
「ようこそ、我がデュルデート王国へ。わしがこの国の主、ブルデン・グラーツ・カミュート5世である。早速だが、君たちには戦争に参加して欲しい。わしらはそのために貴殿たちを呼んだのだ」
王様が言い終えた。誰も何も言わない中、クラスのリーダー的な存在である
「ちょっと待ってくれ! いきなり戦争ってなんだ! そんなこと出来る訳が無い! そんなことより俺たちを返してくれ!」
流石はクラスの代表だ。誰もがそう思ったに違いない。みんなが思っていることをぶつけた。周りの奴らも同調するように首を縦に降る。しかし、王様は想定済みと思わさるような言い方で淡々と答える。
「それは今すぐには出来ん。君らが召喚されたのは神の意志であり、運命なのだ。もし、君らが戦争に参加し、勝利を収めたなら神に元に戻してくれることを頼んでみよう」
脇に立ち、1列に並んで挟むように周りを囲っている家臣達も深々と頷く。
「もし、断ったら?」
「そうだな……よし、この場で死んでもらう」
全員の後ろ側にあった大きな扉が、勢いよく開き、銀の鎧を被った騎士達がクラス全員を囲う。
「これは断ればの話だ。それに君らには、特殊な力が神より備えられている。おい、持ってこい」
王様が命令した家臣の1人が、サッカーボール程の大きな水晶玉を全員の目の前に置いた。
そして、家臣が丁寧に説明していく。
「これはステータス測定器でございます。ここに手を乗せていた頂くと、ステータスが現れます。このステータスは、これから配布する特集なプレートにかざすことで、記憶させることが出来ます。これは身分証明にもなるので無くさないでください」
家臣に渡された板は、軍人の証明プレートのようなものだった。首に掛けれるようにしっかりと紐付きだった。全員に渡ると順番に並んで水晶玉に手をかざし始める。
と、その前に井上が質問した。
「あの……その、先生は?」
「ここに召喚されたのは君らで全員だ。残りは失敗、つまり死んだ」
「なっ!?」
この事実にクラス中が揺れる。動揺が隠せないのか、手を口に抑えたり、顔を伏せるもの、口が開きっぱなしの者が多く現れた。しかし、騎士達が剣を抜き、構える動作に怖がり直ぐに静かになる。
「……結構。では、始めよう」
井上を筆頭にその取り巻き連中、女子たち、残りはあまり目立たない生徒の順に並ぶ。蛍は目立たない連中の枠に並ぶ。
まずは井上が、水晶玉にかざすといきなり「おぉ!」という声が漏れた。その反応に、クラス全員が注目する。水晶玉に浮かび上がっていたのは──
名前 井上 真司
称号『英雄』
技能『異世界翻訳』『聖剣』『流し矢』『神の加護』
だった。
「英雄が……英雄が今、生まれたぞ! しかも技能を4つ、いや、実際は3つか! 歴代でも上位クラスがいきなり出たわ! ワハハハハ!!!」
王様は、まるでガチャでSSRを引いたかのように激しく喜んだ。
技能の3つ持ちは、この世界に置いて稀にしか見ない希少な物らしい。大抵は1つ、多ければ2つだけなのだ。だから、3つ持ちは100年に1人の逸材と言われるほどだ。井上の場合、『異世界翻訳』も数えると1000年に1人の逸材だろう。
井上の取り巻き連中も『異世界翻訳』は当たり前として2つ以上持っている。女子や目立たない組も『異世界翻訳』以外にも1、2個以上持っている。しかも『賢者』や『剣士』や『魔法使い』といったファンタジーならではの様々な称号を欲しいままに欲していた。
──ただ、1人を除いて。
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