第26話 いかづち
肉体をまとう光は、以前よりさらに一回りほど大きくなり安定した形状で、竜特有の思わず見蕩れるほどに美しい筋骨隆々たる肉体を再現するかのようにはち切れんばかりに盛り上がり、元より大きな翼は更に大きく広げられ、へりは爪のように鋭く尖っている。
竜はセルリアンに突進した。セルリアンは、五本ある触手の三本を地面に突き刺し、残りの二本を前方に構え防御の姿勢を取った。
弾丸のごとく駆け抜ける青い光が、触手の化け物とぶつかった。
化け物は、舗装された地面に凄まじい勢いで傷跡を残しながら後退していたが、どうにか踏みとどまり前方に構えた触手で弾き返した。
休む暇など与えずに、遊ばせていた触手が竜目掛けて放たれた。竜はそれを口で受け止め鰐口の縁を食いちぎり、そのまま飲み込んだ。触手の化け物は、忌々しげに先に何もついていない触手を引っ込めた。
異形の獣は巨大な翼をはためかせ空に舞い上がり、急降下しながら鉤爪を突き立てた。当然易々と攻撃を食らうはずもなく四つの鰐口に遮られたが、その拍子に鰐口を一つ引き裂いた。
地面に降りたち続けざまに凶悪な爪を振りかざしたが、前方に構えられた触手に勢いを殺され、鰐口の化け物は余った勢いで後方に逃れ、後ろに退くと同時に獣の肩に鰐口を一つ噛ませた。
しかし、めり込む鰐口を強引に剥ぎ取り、またしても投げ飛ばした。噛ませるだけでは悪手だと勘付いたのか触手の化け物は宙に浮き動きを止め、青い獣も赤い双眸を光らせるのみだ。
「グルルルァァァァ!!!!!」
突然、咆哮と共に竜の腹にセルリアンが持っていたものと同じ形をした触手が生えてきた。
触手はそのままセルリアンの丸い体に食らいついた。拘束から逃れようと身をよじるが、鰐口は深く食い込んでおり、全く外れる見込みはない。
「グルルゥ……!」
青い獣は唸りながら力み始めた。周囲からはバチバチと火花が散っている。火花は次第に勢いを増していき、周囲を激しく飛び交っている。こう着状態は続く。
一方、かばん達はバスの前に移動していた。遠目に青い光が輝く様子がうかがえる。
「サーバルちゃん!スナネコさん!ここは危ない気がします!急いで離れましょう!」
かばんは突然変貌した少年に驚いたが、同時に嫌な予感がしていた。このままここに居ると大変なことになりかねないと思い、二人にバスに乗るよう急き立てた。
「……分かった!」
サーバルはにらみ合う化け物たちをちらりと見て、バスに乗った。
一方、スナネコはろっじの近くの森の出来事が頭の中で駆け巡っていた。
「でも、エルシアが……!」
「僕はエルシアさんを信じます!」
かばんの瞳には、強い決意が宿っていた。
「……分かりました。」
意図を汲んだのかスナネコもバスに乗り、そのまま素早く移動した。
空間を彩る火花は竜の体を中心に渦巻くように発生しており、どこか幻想的だ。セルリアンが先の付いている残りの触手で攻撃を加えるも、竜は動じず力み続けている。
「グ……グルルルル……!!!」
次第に唸り声は増していく。触手だけではどうにも出来ないと気付いたセルリアンは、竜に向け体当たりを食らわせようと迫った。竜は、体当たりされる直前に接近に気付き、両手で青い球体を抑えた。鉤爪は、獲物を逃すまいと深く突き刺さっている。
火花に交じり青白い電気が周囲をせわしなく駆け巡る。頃合いだ。
「グルウゥゥゥァァァァァァァ!!!!!」
咆哮と共に竜の体から大蛇のようにのたうち回る何本もの電撃の柱が飛び出した。それらは地面を深く抉り取りながら彼方へ伸びていき、そのうちの一本はセルリアンに直撃した。
竜の体からもとめどなく電撃が迸っており、両手と触手を伝って絶えずセルリアンに流れ込んでいる。
一分ほど経過して、ようやく電撃は唸るのを止め、溶けるように静かに消えていった。周囲の地面や樹木からは焦げた臭いが漂っている。
触手の化け物は、大量の電撃を浴びたせいで全身から黒い煙を上げている。鉤爪と鰐口から解放すると、力なく地面に落ちた。微かにうごめいているが、それだけである。竜に食らいついていた触手も、本体同様ぼとりと落ちた。竜は本体に向け幾度となく拳を打ち込み、限界を超えたセルリアンは消し飛んだ。
敵を退けた竜は、勝利を宣言するように天に向け雄叫びを上げた。
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