第29話 同盟締結

「…くん・・・青谷くん」


 誰かに名前を呼ばれて、はっ!と目を覚まして飛び起きた。

 周りに見えるのは、いつもと変わらぬ自分の部屋。


「はぁ…ようやく起きましたか…」


 そして、顔を声の元へ向けると、シャキっとしたスーツ姿で、赤縁眼鏡を光らせながらあきれた視線を俺に向けてきている岩城さんの姿だった。


「岩城さん・・・」

「はぁ…全く・・・これはどういう状況ですか?」

「え?」


 辺りを見渡すと、そこには俺のベッドの左右でスヤスヤと寝息を立てて眠っている二人の美少女の姿が・・・だが、何故だか二人とも下着姿で、服を身に着けていない。

 広瀬さんは、真っ赤なブラとパンツを身に着けて、わがままボディーのエロイ体をこれでもかと見せつけていた。一方の望結は、紺色を基調としたピンクの花柄模様のブラとパンツを身に着け、高校生としてはそこそこあるのではないかと思われる胸と、スラっと伸びた健康的な太ももを醸し出していた。


「へぇ!?」


 俺の自分が置かれている状況が理解できず、慌てふためいて助けの目を岩城さんに向ける。


「はぁ…課題はまた今日の夜にします。ちゃんと学校に遅刻せずに行ってくださいね」


 岩城さんは助け船を出してくれることなく、呆れながら部屋の扉を閉めて出て行ってしまった。


「…」


 岩城さんに誤解は後で解くとして、まずは何故こうなったのか状況を把握しよう。


 確か、昨日は望結と仲直りしてから望結を家に連れてきて・・・そしたら、俺の部屋のベッドで広瀬さんが寝てて…それについて弁明しようとしたらなんか色々あって・・・


 色々と昨日の出来事を思い出していると、可愛らしい吐息と共に望結がモゾモゾと動いて起き上がった。

 目をこすりながら可愛らしく欠伸をしながら顔を起こした。望結が目を開けると、俺と見つめ合う形になった。


 俺が苦笑しつつ望結を見つめていると、「うわぁ!」っと驚いてのけ反り、ベッドから落っこちそうになる。


「危ない!」


 俺はベッドか後ろ向きに落っこちそうになる望結の腕を必死に掴んでこちらへと手繰り寄せた。


 そして、そのまま望結の体を抱きかかえてベッドに倒れ込んだ。


 ボフッっとベッドに背中が叩きつけられると同時に、むにゅっとした柔らかいものが背中に当たり。「うにゃ!」っと、広瀬さんが声を上げた。

 しまった!っと思ったが、広瀬さんは気にする様子もなく、寝ぼけて後ろから抱き付いてきた。

 こうして、二人の美少女にはさまれる形になる。


「…大丈夫?」

「あ…うん、ありがと///」


 望結は顔を真っ赤にして、俺の腕の中にくるまっていた。


「おはよう望結…えっと、これはどういう状況?」

「おはよう青谷くん…えっと…」


 何から説明すればいいのか昨日のことを思い出している間に、後ろに抱き付いていた女性が、ふぅ~っと俺の耳に息を吹きかけてきた。


 くすぐったい感覚と、ぞくぞくする感覚にとらわれ、体がブルブルっ震えた。


「あはっ、反応最高!おはよう、天馬君」

「広瀬さん…」


 俺は後ろ目で広瀬さんを睨みつける。


「ぐぬぅぅぅぅ…渡良瀬歩め…」

「おはよ~綾瀬ちゃん!今日も可愛いね~」


 威嚇する望結に対して、全く気にした様子もなくにこやかに手を振って挨拶する広瀬さん。


「あの…これはどういう状況ですか?」」

「えっとね、私たち同盟を結ぶことにしたの」

「同盟?」

「そうそう、抜け駆け禁止同盟」

「抜け駆け禁止同盟?」


 なんだそりゃ?


「青谷くんから何かしてこない限りは、私たちから何かアクションを起こしたらダメっていう同盟よ」


 望結が渋々といった感じで説明してくれた。


「つまりは、私たちをどう扱うかは天馬くんの意思次第ってこと。どう?結構いい案じゃない?」

「俺の意思次第?」

「そう、だから、天馬くんからキスしたりエッチをせがんだり、肉奴隷にするのはいいけど、こっちからはダメって感じ?」


 途中変な言葉が入っていたような気がするが、かみ砕いて説明してくれたおかげで大体の状況が把握できた。


「なるほど…大体は分かりました…で?どうして二人は下着姿なんですか?」

「それは…///」


 何やら、望結が顔を真っ赤にして俯いている。望結の続きを広瀬さんが拾う。


「天馬君が私のおっぱいで昇天して、息子が大変なことになってたから、慰めてあげようと思って…あはは♪」

「あはは♪じゃないわ!何してくれちゃってるの!?」


 そうだ!全部思い出した、昨日俺は広瀬智亜こと渡良瀬歩のおっぱいの圧に顔を抑え込まれて、そのまま気絶してしまったんだ。そのあと、俺の息子が…って!?


 俺は思わず飛び起きて、自分の下半身を確認する。


「大丈夫よ~まだ貞操はちゃんと守ってあるわよ~」

「よかったぁ…じゃなくて!!」


 色々と聞きたいことは山々だったが、何故望結まで!?

 そう思って、望結の方を見つめると、顔を赤らめながら。


「私もあの時は正常な判断が出来なかったというか…渡良瀬歩の乗せられたというか…はぁ////やめて、青谷君こんな私を見ないで!!」


 思い出して恥ずかしくなってしまったのか、毛布を全身に被って隠れてしまった。


「はぁ…」


 なんだこれ…


 こうして、俺が知らぬ間に、広瀬さんと望結の間で、抜け駆け禁止同盟が締結された。俺からアプローチするのはいくらでも構わないそうだが、今後俺たちの関係性はさらに面倒な方向へとねじ曲がっていきそうな予感しかしないのであった。

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