第13話 私と結婚して?
遠のいていた意識が次第に鮮明になってくる。心地よい布団の温かさに包まれて、再び意識を持っていかれそうになる。だがここで、足の辺りに何か違和感を感じた。
その違和感は、徐々に面積を拡大していき、気が付けば足の付け根の部分まで来ていた。さらに、心地よかった布団の温かさがなくなり、足元がひんやりとしている。
「へぇ~結構大きいじゃん、これは期待できるかも…」
すると、明らかに家族の声ではない女性の声が聞こえた。俺は頭をなんとか起こして、目を開けて足元の方を見た。
そこに広がっていたのは、俺の足の間に体を入れて、大きく戦闘態勢になっている下腹部を羨望の眼差しで見つめている広瀬智亜ことAV女優の渡良瀬歩がいた。
「おわっ!!」
俺は毛布を剥がして飛び起きた。
「えぇ~つまんないの~もっと見せてよ~」
広瀬さんは、獲物を逃がしたような悲しそうな眼を向けていた。俺は状況が呑み込めずにキョロキョロと周りを見渡した。間違いなくここは自分の寝室だった。
「なんで広瀬さんが俺の部屋にいるんですか!?」
「え?だって、男の子の部屋って興味あったし」
「いや、そうじゃなくて、どうやって入ってきたんですかって聞いてるんです!」
「あーね!ほら、これ!」
そうして、指でクルクルと回していたのは、家のカギだった。
あの出来事から、すっかり岩城さんにベッタリくっ付いて離れなかった広瀬さんは、岩城さんの部屋に泊まるといってそのままマンションに消えていったんだっけか…
昨日のことを思い出して、ようやく状況を理解した。どうやら岩城さんが所持している天馬家のスペアキーを盗んできたようだ。
「状況は理解しました。で、どうして俺の部屋に入ってきたんです?」
「それは勿論!天馬君の朝立ちのご奉仕を・・・」
「そんなもんいりません!」
「えぇ~ホントにぃ~??」
四つん這いの体制で、白いシャツの下にある谷間と胸の膨らみがこれでもかと垂れていた。その艶やかさに思わず見とれてしまっていると、広瀬さんが意地悪そうな笑みを浮かべていた。
「あれぇ??なんか、いやらしい舐めまわすような視線を感じるなぁ~」
ここで負けてはいけない、俺は何とか視線を逸らして、一つ咳払いをする。
「と、とにかく!いいですから!」
「ちぇ~つまんないのぉ~」
広瀬さんは、本当に残念そうな表情をしていた。やはり、AV女優渡良瀬歩ということもあり、まるで獣のように性に好奇心旺盛なところは、ちょっと恐怖心まで覚えててしまう。
「ねぇ、天馬くん。天馬くんってスペシャルヒューマンなんだよね?」
「そうですけど」
「じゃあさ、私と結婚にして♡」
「…はい?」
突然の告白に脳の理解が追いつかず、間抜けな表情を浮かべてしまう。
「今何て?」
俺はもう一度聞き返した。これは夢なのではないかと疑っていた。
「だから、私と結婚して?そのまま貰っちゃって!」
当たり前のように言い放つ広瀬さん。俺は話の意図が全く読めなかった。
「え?なんでいきなり?どうしたんですか急に?」
「別に急にって訳じゃないの、前から探してたのよ。私を本気で女として扱ってくれそうな人を」
何を言ってるんだと思ったが、広瀬さんは話を続けた。
「私AV女優辞めるって言ったじゃない?それで、誰かと結婚して子供作って早く幸せになろうと思って。ほら、スペシャルヒューマンって、お金目的の人だったり、地位と名誉しか考えてない胸糞悪い男性しか集まってこないのよ。だ・か・ら、左利き同士、しかもスペシャルヒューマン同士が結婚なんてしたら、面白いと思わない?」
広瀬さんは、まるで子供の遊びのようにはしゃいでいた。だが、言っていることはとても重要なことだった。確かに、利き手恋愛条例では、左効き同士の結婚及び、スペシャルヒューマン同士の結婚については禁止されていたいのだ。
よって、普通の恋愛が出来なくなってしまったスペシャルヒューマン同士は、お互いの苦悩が理解出来るため、逆に普通の恋愛が出来るのではないかと、目の前にいる広瀬智亜は言っているのだろう。
だが、残念ながら広瀬さんの誘いに乗るわけにはいかなかった。何故ならば、俺には本当の恋愛が出来る最後の彼女を見つけてしまっているから。
俺は真剣な眼差して、首を2回ほど横に振った。
「ごめんなさい、広瀬さん。俺はその誘いには乗ることはできません」
「えーどうして??」
「それは、もう彼女がいるからです」
俺がきっぱりそう言い切ると、広瀬さんは納得が行かないと言ったような表情で追い討ちをかけてくる。
「私の体、触りたくないの?」
「そ、それは…」
固まっていた決意が一気に揺らいでしまうような一言が飛び出した。
そりゃそうだ。だって、ここにいるのはAV女優の渡良瀬歩だぞ?!そのエロい体を触りたいに決まってるじゃないか!
広瀬さんは、俺がたじろいだのを見て、ピクっと口角を上げたかと思うと、一気に俺との距離を詰めてきて、顔を耳元に近づけた。
「別に、私のこと、彼女として扱わなくてもいいよ?ただ、天馬くん専用の抜き穴になってあ・げ・る♡」
そんな言葉を耳元で囁かれたら、もうどうしょうもなかった。体から何が暑いものが込み上げてくるような感じがして、一気に静まっていた下腹部が膨張していく。
「あらぁー?んふふ、やっぱり体は正直ね」
そう言いながら、ツンっと俺のモノを指で弾いた。思わずビクッと体が反応して変な声が出てしまいそうになる。
「で、どうする?私のこと、貰ってくれるかな?」
その目は、既に男という獲物を狙うハンターのような目になっていた。その否定できない威圧感と、この場を切り抜ける手段を持ち合わせていなかった俺は、首を縦に1度コクリと頷くことしか出来なかったのであった。
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