第2話 初恋の少女と再会したい



 小さな手から渡されたハニーメリーの花からは確かに甘い匂いがして、フェイの心をほんの少しだけ軽くしていた。


「何でも願いが叶う魔法の花だよ。お母さんに教えてもらったの。これを持ってたら、きっと良い事があるからって」


 押し付けられるようにしてその花を受け取ったフェイは、少女の手にいくつもの擦り傷があるのを見つける。

 先程はなかったような気がするそれは、おそらく花を探す時か見つけた時につけた物だろう。


「怪我したの?」

「こんなの、平気! 元気出るといいね!」


 だが、怪我を何とも思っていない様子の少女は、花を咲かせたような笑みを浮かべる。


 見た者の心を照らすようなそんな暖かな笑み。


 それを見たフェイの心の中は、先程まで暗く重い雲の立ち込めていたのが嘘の様に、優しくて暖かなもので満たされていた。


 フェイは笑顔を浮かべた少女へ尋ねる。


「君の名前、何て言うの?」


 問われた少女は笑顔の花を咲かせたまま、自慢げにこちらへと名乗る。


「ホムラだよ。ホムラ・エルミア。お母さんとお父さんが考えてくれたの、綺麗でかっこいい名前でしょ!」


 ホムラ・エルミナ。

 フェイは忘れないようにその言葉を何度も胸の中で繰り返す。


「僕はフェイ」


 その時の出来事は、少年にとって忘れられない思い出となった。


「よく分からないけど、フェイは悪人なんかじゃないよ。たとえそうでもきっと、優しい悪い人だと思う!」

「言ってる事がよく分かんないよ」


 それらの記憶は、数日が経って、数年が経ってもなお、色あせない穏やかで優しい思い出だった。


 ホムラと名乗った少女と話したのは、そのひと時だけであった。

 だが、フェイはそれだけでその少女の事が好きになっていた。


 いつかその時出会った少女と再会する事を夢見て、強くたくましく成長した少年は、しかし叶えられた出会いの場にて愕然とする事となった。


 なぜなら……。






 フェイのその初恋の少女は、再会した時にはかなりの悪女になっていたからだ。






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