第2話 プロローグ 二

 〈1週間前〉

 「あんた、またパチンコ行って来たのかい!?」

丸川竜雄はその日、意気揚々と、自分の家兼職場の、「丸川写真館」に帰って来た。

そして、妻である昌子(まさこ)に、

「今日は4万、勝っちゃった!」

と、悪びれもせず報告したのである。

 「やっぱりパチンコは、これがあるから止められないね~!」

「あんた、何言ってんだい?そんなもん、長い目で見りゃ負けるに決まってるよ!

 うちもやりくりが厳しいんだし、そんなもんにうつつをぬかしてる暇があったら、仕事して欲しいもんだねえ!」

「まあ、そう言わずにさ。

 俺、もちろん仕事は好きだけど、パチンコも、それとおんなじくらい好きだね。

 何か、パチンコがないと、仕事にも精が出ない、って言うか…。」

「あんた、そんな言い訳ばっかりしても、ダメだからね!」

竜雄は昌子にそう言われ、ただでさえ低い身長がさらに、縮こまるようになった。そして、まだ4月で決して暑い気候ではないのに、体中に汗(冷や汗)を、かいていた。

 しかしその低い身長の割にふくよかな体型は(当然だが)隠れることはなく、すぐに現れた竜雄の開き直りの精神、悪びれもしない様子と共に、「明るいおじさん」の印象を、竜雄は与えていた。

 竜雄は普段、「丸川写真館」の、店主として働いている。それは、片田舎にある写真館で、主に竜雄は、履歴書用の写真や、七五三、成人式、またウェディング用の写真などを、扱っているのであった。また、竜雄はその気さくな人柄から、

 「竜雄さん、今度、うちの孫が七五三を迎えるんだ。綺麗な写真、撮っとくれよ!」

と頼まれるなど、地域の人たちに愛され、写真館を営業しているのであった。

 さらに、竜雄は写真の腕前は抜群で、客に頼まれる写真だけでなく、自分用の写真を撮ることも好きであった。そして、休みの日にはよくどこかへ出歩き、(そこそこ高価なカメラで)風景やそこで出会った人などを、撮ることが多かった。そんな時も、

「兄ちゃん、いい表情してるねえ!俺、ただのオッサンだけど、写真の腕前だけは自信あるから、この写真、現像したらプレゼントするよ。

 また、ここに来てくれる?」

など、写真を撮らせてくれた人と会話をし、仲良くなることが多かった。

 そして時々、竜雄は撮った写真を、コンテストに出品することがあった。すると、その写真は必ずと言っていい程入選し、その度に、

「竜雄さん、あんた写真館なんかたたんで、東京にでも行って、プロのカメラマンになった方がいいんじゃないかい?」

と、周りの人から言われていた。

 しかし、その度に竜雄は、

「いやいや、俺はそんな柄じゃないよ。賞とれたのも、たまたまたまたま。

 それに、俺には先祖代々の、この写真館を守る、責任があるんだ。」

などと言い、上京する気はないようであった。

 「まあ、何かもったいない気はするけどねえ。

 でも、あんたいい人だよ!」

これが、周りの人の竜雄に対する、評価であった。

 しかし、そんな竜雄にも、困った欠点があった。それは、

 「パチンコが好き。」

ということである。

 何でも、竜雄に言わせれば、

「俺、特にギャンブルが好き、ってわけではないんだよね。競馬も競輪も、興味ないしさ。

 でも、パチンコだけは特別。何か、あの玉が出てくる感じとか、リーチの感じとか、たまんないんだよね~!」

との、ことであった。

 また、根は正直で、嘘はつけないタイプの竜雄であったため、

「ああ、今日は3万、負けちゃったよ…。」

と、負けた時には正直に妻である昌子に報告し、その度に昌子から、

「あんた、また負けたのかい!

 もうそろそろ、そんな遊び、止めにしたらどうだい?」

と、言われる有様であった。

 そんな丸川家であったが、竜雄のパチンコ以外、特に気になることはなく、夫婦仲は、良い方であった。

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