祖母と椅子

きい、と揺り椅子が鳴く。軋みはするが、傷んでいるわけではない。祖母の骨でできたこの椅子は、生前よりも健康だ。祖母を尻に敷くことに抵抗が無いわけではない。どちらかと言えば彼女は尻に敷く方であったことだし。しかし、こと骨でできた椅子は使わねば鈍るという。祖母はある種の魔女であった。


祖母は古書肆、特に羊皮紙を扱うような特別な古書肆であったが、彼女の興味は専らその内容よりも、皮そのもの、生物の保存に向けられていたようだった。虫除けの香や煙が焚かれる彼女の部屋では、百足や鼠が琥珀や瓶に閉じ込められ、鼬の剥製が睨みを効かせていた。そして、幾つもの皮張りの椅子。


削り研がれた木質と、なめされた皮革、たっぷり含んだ棉に金属のリベットが、祖母を捕らえて離さなかったらしい。丁寧な手入れをせねば傷んでしまう、鋲打たれた赤子のような死体のキメラ。祖母はそんな椅子を愛した。祖母が椅子になりたいと遺書にしたためたとき、そこには孤独な少女の魂があった。

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