第四章・その7

「なあゲイン、これからどうするんだ?」


 ハンバーグを赤ワインで胃袋に流しこんでいたら、興味深そうな顔でザルトが訊いてきた。


「なんだ? もう俺のことを新入りとは呼ばないのか」


「呼ばねえよ。この俺に勝てる奴が新入りの訳はないからな」


「ずいぶんと自信があったんだな」


「その自信もへし折られたぜ。ほら、約束の酒代だ」


 ザルトがテーブルの上に銅貨を置いた。それで話は終わったかと思っていたんだが、ザルトは俺の前から去ろうとはしなかった。ハンバーグを食う俺を見つめる。


「なあ、よかったら俺と組まないか?」


「はん?」


 赤ワインを飲みながら、俺は顔をあげた。ザルトの顔は大真面目である。


「このギルドで、おまえみたいな奴と依頼を奪い合うのは利口じゃねえ。ただ、喧嘩をするだけが俺たちのとりえじゃないしな。もし、おまえと俺が一緒に組んだら、でかい仕事も楽にこなせるはずだぜ。それにおまえ、実力はともかく、都のことは知らないだろう。俺は顔が利く。組んで損はしないと思うがな」


「なるほどな」


 返事をしながら、俺はハンバーグを飲みこんだ。


「話はわかった。気持ちは嬉しいけど、悪いな。俺は、少し都でくつろいだら、また辺境で金を稼ぐ予定なんだ」


「――へえ」


 ザルトが意外そうな顔をした。


「なんでまた、わざわざ辺境まで行くんだ? 都で荒稼ぎすればいいだろうに」


「俺は根無し草で、あちこちふらふらしてるのが好きなんだよ」


「じゃ、なんで都にきた? なんで都で依頼を受けたんだ?」


「何年かぶりに、都の知り合いの顔を見にきたら、ずいぶんと困っていてな。その人の依頼を受けようと思って、ここのギルドに登録したんだ。ギルドの仲介なしで依頼を受けたら、あとで面倒になるだろ」


「はあ、なるほどな」


 ザルトが残念そうに自分のあごをなでた。


「すると、辺境に行って、もう都にはこないのか」


「まあ、時間が経って、みんなが俺のことを忘れたころに、またくるかもな」


「そうか」


 ザルトが立ちあがった。


「そういうことなら仕方がないな。俺の依頼を横から奪うような真似をしないでくれたら、それでいい」


「わかってくれて俺も嬉しいよ」


「あばよ」


 ザルトが去り、俺は食事に集中することにした。

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