ソード・アブソリュートゼロ

莉苑

序章 ウェンツべネル

太陽の国…


ウェンツべネルはそう呼ばれていた。

だが、雨が降らないわけではなく。ただ…その名の由来は、誰も意味を知るものは存在しなかった。


ウェンツべネルの国を治めるのは

ユウリ・ウェンツべネルという若き第二王女だった。

本来国を治めるべき第一王女のリュカ・ウェンツべネルは、国に滞在する期間はあまりなく、城にも顔をあまりみせない風来坊。はっきり言うと…自由家であった。

小さい頃から男勝りだった彼女は、両親が戦死したあとから女王になる…そんな運命だった。


だが、彼女の自由っぷりは城中の者がドン引きをするほどであった。

剣が振りたければ剣を頼み、稽古をした。

自ら音を奏でたいと思えば特注の楽器を手配し、演奏家まで呼んだ。

絵を描きたいと思えば、大きな紙を用意し…

歌をうたいたければ、音楽室を城内に設置した。


しかし、そんなわがままな正確に生まれたリュカ王女は唯一…誰でも手に入れたいであろう物を手に入れることを自ら拒否したのだ。


『国を治められる権力』だ。

誰もが彼女に冷えたぎる目をむけたとき…彼女はこう言ったのだ。


『我が国を治めることは楽しいことでもなんでもない。当たり前のことだ。我は楽しいことしか望まない。当たり前なんてもってのほかだ。だったらいらぬ。』

と…


もちろん城内の者は安心したであろう。

あのわがまま王女が国を治めることになれば、国は大変なことになる…結果そうであった。

彼女は自分が国をどうしてしまうか…わかっていたのだろうか。

次に目を向けられたのはもちろん第二王女である…

ユウリであった。


彼女は真面目で、リュカとは打って変わって上品であった。気配りのできる優しい王女。

しかし、そんな性格は…両親の死によって一変してしまった。

優しい少女は…冷たい少女へ…

気配りのできる少女は…自分勝手に…


少女は国民から『ウェンツべネルの絶対零度』

そう呼ばれた。


このままじゃ国が滅びてしまう。

そう危機を覚えたその時。1人の少年が立ち上がった。


名を ミヅキ・エレンデーンと言った。

彼は、ユウリの幼馴染だった。


隣の国のエレンデーン王国の第二王子だったが、自ら国王に頼みユウリの側近についたのだ。

彼の姉、ユヅハはその時期からリュカに仕えていた。その為、国王はなんなく自分の息子を隣の国の王女に差し出したのだ。


彼、ミヅキのおかげでユウリは感情を取り戻した。


両親の死…その真相を確かめることなく…


五年の年月が過ぎる。



━━━━━━━━━━━━━━━


リュカは城の地下室にいた。

太陽の国…ウェンツべネルから災いを取り除く、魔除けの石。


太陽の石について調べる為に。


五年前…太陽の石が何者かによって持ち出されたのは…ちょうど200回目の王国誕生祭の時であった。


ウェンツべネルの5つの街の警報ベルが一度に鳴りだし、当時11だったリュカはその時恐怖を覚えた。


ウェンツべネルの東にあるソウジュの街で、村の子供とチャンバラをしていた時のことだ。


警報ベルは突如鳴りだした。

ウォンウォンと大きなベルの音は、街を飲み込むように…その音を響かせた。

村の子供は一斉に喚き、逃げ出した。


1人残されたリュカは、手の中にあったスギの木の棒を一心に握りしめ、怖さを誤魔化した。


ただ…怖かった。


迎えに来てくれたのは幼馴染のユヅハだった。

泣きそうに、ただ地を眺めていた彼女を無理やりウィリアムの街のウェンツべネル城へ、おぶって運んだのは後に側近となる3つ離れた幼馴染だった。


城に戻ると、ユヅハは冷たい声で言った。


『城の大切なお守りが盗まれました。

何が起こるかわかりません。ここを離れないでください。』


そんな言葉さえも怖くて…震えることしかできなかった。




その夜だった…両親が何者かによって殺害されたのは。

王室で二人…血を流し、倒れていたのだ。

それを発見したのはリュカであった。

怖さを抑えきれず、眠れない彼女は自ら王室を訪ね、血まみれになっているその部屋をみて…絶望した。


すぐに駆けつけたユヅハによってリュカは別の部屋に移されたが…現実を知ってしまい、声をあげて泣いたそうだ。


2日後…遠い西の国ハーレンで太陽の石が発見された。


ハーレンでは謎の男が死亡し、その男の持ち物の中に欠けた太陽の石があったという。



そして今。太陽の石が災いを防ぐと言い伝えられている理由を…彼女は調べていた。


コンコン…小さなノック音が地下研究室に響く。

 

「入れ。」

リュカの短い応答の後、

「失礼します。」

と言う低い声が響いた。

彼女はゆっくり扉の方をみつめ、ユヅハの入室に目を細めた。


「なんだ、ユヅハか。」


一言つぶやくと、相手がため息まじりの声を発した。


「私だと何か不都合でも?」

「いいや、別に。メイドが夜食の1つや2つ…持ってきてくれてたのかと思ったんだけど?」


冗談めいたリュカの言葉に、またもやユヅハはため息をつく。


「もう2時です。明日は出発するのでは?はやくベッドに入ってください。」

「明日からの"コイツ"の調査は誰がしてくれんのさ」


リュカはショーケースに頑丈に入れられた光る石を指さした。


「研究員は、手配しています。」

「誰?」

「エレンデーンの、研究科。スグリです。」

「あぁ、あの子か。」


スグリというのは、エレンデーン1の研究科である12歳の少女だ。幼い頃から何かと発見しては、誰も知らない何かを証明してみせる…という天性の知能を持った少女である。


「あの子は危ないだろ…。まだ子供だぞ。」

「はい、なので研究自体はスグリの教えている見習い研究員に頼むことになります。」

「そうか…。」


太陽の石。未だ未開封な謎…。それは、欠けた残りの部分の居場所、それと太陽の石の成分。それがなんなのかと言うことだ。

「早急ではないから、ゆっくりやらせといて」

「かしこまりました。」



だが、この後。ウェンツべネルは、暗闇と化すことを…誰も知らない。






















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