新宿異能大戦66『地獄の先に』
一体、何が起こった――――――!?
「ぐ、く……う……っ!」
痛む体を何とか揺らし、必死に顔を上げる。
今まともに動くのは首の上だけ。
脚も、腕も、指一本すらもはやまともに言う事を聞かない。
だがそれですら隣でビクともしない外国人よりはマシだろう。
「く、そ…………っ!」
瞬く間の出来事だった。
全力で殺す気だった。
しかし拮抗できたのは僅か5秒。
それから5秒かけて押され始め、途中ジェイソン=サリヴァンが加勢するも何一つ意味はなくそのまま10秒間押されまくり、負けた。
「ふざ……け……」
おかしいだろ。
20秒だぞ?
こんなに早くやられるものなのか?
脳裏には、まるで呪詛のように疑問と文句が湧いてくる。
「ぐ……!」
別に最強になりたいとも思ってなかったし、今の自分が最強だとも驕っていた訳ではなかった。
でも、俺はこのゲームを誰よりも早くクリアしたんだ。
それも沢山の『異能者』どもを殺して。
なのに、俺と奴等ではここまで差があるってのかよ――――!?
巽の瞳に、涙が滲む。
「クソが……っ!」
歪む視線の先では、人智を超えた戦いが始まろうとしていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
此度の騒動ひいてはここ数年の事件の首謀者たる少年の前に、二人の男が立つ。
『使徒』にクリア者、障害となる者は全て打ち倒してきた。
残るは彼ただ一人。
「そう言えば、こうして真正面から戦うのもあの時以来かー。
……うーん、なーんかヤな感じ」
そんな彼は、首を捻りながら独り言ちている。
余裕の表れだろうか。
事実、あれだけの組織を従えこれだけの殺戮を引き起こした張本人である。彼がどのような実力を隠し持っているのか予想もつかない。
が、
「八坂……!」
「ああ……!」
義堂誠一と八坂英人。
「「行くぞ!!!」
二人の心は不思議な程に高揚していた。
「『二十八式・
「『エンチャントライトニング・フルボルト』!!」
距離を詰めたのは二人同時。
されど互いに絶妙な間合いを取って左右から一気に有馬を攻め立てる。
「おおっ!?」
「はぁっ!!」
「らぁっ!!」
右からは『滅刀』、左からは『聖剣』。
完全同時に放たれた斬撃は炎と光による高密度の軌跡を描き、空を焼き切る。
「うわあっぶな!
いきなりだなぁ!」
しかし当の有馬本人は数メートル離れた地点。
おそらく京都でも使用していた瞬間移動系の能力を使ったのだろう。
「『
絡繰りは不明。
しかしこれまでの状況を鑑みるに長距離の移動は出来ない。
即座に判断した英人はすかさず『聖剣』の出力を上げて有馬の周囲を光の奔流で包む。
「うぐ……!?」
「今だ!
合わせるぞ義堂!!」
「応!!」
親友の声に応え、義堂は迷わず走った。
いまだ前方は高密度の光で覆われている。だが止まる理由など、ある筈もない。
「ミヅハ!
一瞬だけ力貸せ!!」
『おうおう持ってけ契約者!』
『聖剣』と入れ替わる形で英人の右手に現れたるは、『
当然光の奔流は途切れるが、
「『滅刀・
「『
すかさず有馬の体には、炎と水の斬撃が叩き込まれた。
「
「く……っ」
「はぁ!!!」
「な……っ!?」
「
『滅刀』の一太刀にすかさず、『絶剣』の一閃。
そして怯んだ有馬の体に今度はさらに威力の上がった『滅刀』の二太刀目が叩き込まれる。
『滅刀・八熱地獄』とは、その名の通り八回の斬撃を見舞う連続技。
その威力は一太刀ごとに上昇し、最後の八太刀目に最高となる。
だが連続技ゆえにリスクもあり、比較的威力の低い一~二太刀目に技を防がれてしまえば本来の威力の一割も発揮できないまま不発となってしまう。
その弱点をカバーするのが、『
こちらも『滅刀・八熱地獄』と同じく連続技だが、その性質は大きく異なる。
というのもその太刀筋は水が高きから低きに流れるかのごとく、相手のもっとも避けづらいポイント――死角や弱点を次々と正確に、そして流れるように七回なぞるのだ。つまりこの技の本質は誰一人として避けられない必中の七連斬。
その水の刃は確実に相手に七つの斬撃を浴びせるのだ。
「
「らぁっ!!!」
「
水の一撃が隙を作り、さらに威力を上げた炎の一撃敵を灼く。
炎を水――それは相反する属性が生み出した、最高の連撃。
流麗なる女神に導かれ、地獄はますますその深さを増していく。
そして、八太刀目。
隙をさらけ出した有馬の前に、義堂は静かに最後の太刀を構える。
「行け、義堂!!」
「
――ゴオオオオオオオオオオオッ!!
肉体はおろか、魂魄や周囲の空間すらも焼きつくすかのような炎熱。
まさしく深淵の業火であった。
「いったか、これで……?」
地獄そのものとなった光景を見ながら、義堂は呟く。
傍らでは英人は静かに残心をとった。
(少なくとも、確信に近い一撃が入った。
これなら……)
『神器』二本によるこれ以上ない連撃である。
もちろん英人にも大きな手応えはあったし、並大抵の相手ならまず間違いなく消し去っていただろう。
だが問題は相手が並大抵ではないということ。
優勢の筈なのに、一瞬一瞬の時間が重い。
英人の顎から一滴の汗が滴り落ちた時。
「――――驚いた。
想像以上に強いね、君たち」
地獄の底から『悪魔』の声が響き、
「しょーがない。
取っちゃうか、最後の手段」
有馬ユウという存在が、空間が、一気に歪んだ。
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