いちばん美しいのは、誰㉚『正体現したね』
『おーう
眉間にシワが寄っちゃってるぜぃ?』
『……うるさい』
『おいおい仮にもアイドルなんだから、スマイルは欠かしてもらっちゃ困るよォ~?
ほらスマ~イル♪』
『……』
『……ふーむ。
その様子だと、
『……だからうるさい。
あんなん、まぐれみたいなもんでしょ』
『おぅドントアングリー。
まぁ別に今の勢いならこのままでも勝てるとは思うケドねー。
で・もぉ~、ボクちゃんは有能だから、完全に勝てる作戦を教えてあげる!
これならきっと、真澄チャンも
『!
出来るの、そんなこと!?』
『ああ、とぉ~っても簡単なことさ。
要は昨日と同じことをしてやればいいんだよ』
――――――
――――
――
「――さん!
貴方、サークルの方たちから不当にお金をせびってますね!」
「は、はぁ!?
なに言って――」
「言いワケ無用! ファン経由で色々と証拠が上がってるんです!
ほらこの動画、完全にお金を巻き上げてるじゃないですか!
これちゃんと返しているんですか!?」
「いや、だから何でこんな時に……!」
「どうなんですか!」
「さっさと白状しろー!」
「罪を償え!」
「ぐ、ぐ……おい、お前らも何か言ってくれよ!
同じサークルの仲間だろ!」
「……」
「おい!!」
「……来夢さんの、言う通りです。
私たち、この人からお金を巻き上げられてました」
「他にも色々乱暴を……!」
「おい!!!!」
「やはり……これはいけませんね。
このことは大学と警察に報告しますので、ちゃんと処分を受けて償ってください!」
「はぁ!?
ちょっと待ってくれよ!」
「これで解決しました。
皆さん、ここからは大学と警察のお仕事ですから、これ以上彼のことを責めないよーに!
来夢たちの優しい世界じゃ、そういうのはダメだからねー♪」
「「「「「「うおおおおおおおっ!!! くるみん! くるみんっ!!」」」」」」
◇
「――教授、いますぐセクハラ行為をやめてください!」
「な、なんだ君たちは!?」
「貴方は単位をエサに、不当に女の子たちに関係を迫っていますね!?
私のアカウントに多数の報告が上がって来てます!」
「いきなり何を……そんなもの、SNS上のデマの類だろう! 証拠はあるのか!
あまり出鱈目なことを言うと、こちらとしても準備があるぞ!」
「証拠ならたくさんもらってますよ……ほら!」
「こ、これは……!」
「被害を受けた女の子たちが密かに残しておいた写真と音声データです!
事が明るみに出るのを恐れて今まで泣き寝入りしてたみたいですが、勇気を出して私に託してくれました!」
「ぐ、う……!」
「私も女の一人として、許せません!
貴方にはちゃーんと罪を
「そうだー!」
「この変態オヤジ!」
「スケベオヤジ!」
「くたばれハゲ!」
「あ、頭のことは今は関係ないだろう! 頭のことは!」
「そうです、あまり人の容姿を悪く言うのはいけませんよ!
そう言うところが誹謗中傷につながるのです!
私たちは正々堂々、この窮屈な世界を変えていきましょう!」
「「「「「「うおおおおおおおっ!!! くるみん! くるみんっ!!」」」」」」
「ほっほーう! すごい歓声DA!
まさに正義の女神だよ、来夢チャーン!」
「ふふっ♪
まだまだ行きますよー!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その後も、矢向来夢による構内
サークル内の不正に、教授のセクハラ行為。それらを成敗していくたびに、大きな歓声が上がる。
またこれらの実績はさらなる評判と支持を呼び、
「……なんだ、こりゃあ」
凄まじいまでの大集団を、彼女の周囲に形成していた。
「みんなー! 協力ありがとー!
まだまだ頑張るから、力を貸してねーっ!」
「「「「「「うおおおおおおおっ!!! くるみん! くるみんっ!!」」」」」」
まるで人の洪水とも例えるべき
英人はその様子を苦々しい面持ちで眺めていた。
「すごいね、これは……」
「勢いは昨日以上。いや、比べるのもおこがましい、か……」
「……代表。
それに、
振り向くと、
「やぁ八坂君。
せっかくの最終日だし、彼女らの戦いを最後まで見届けなければと思ってね」
「私も一応準グランプリとしてな。
最後まで見る責務というものがあるだろう」
「そうか……でも今日はほどほどにしといた方がいいかもな」
「というと?」
「なんというか……あの集団は、危険だ。
俺の本能がそう言ってる」
英人は腕を組みながら答えた。
確かに、彼らのやっていることは基本的には正しい。救われている人もちゃんといる。
だが、それ以上に得体の知れないような危うさがその大集団にはあった。
「……やはり、貴方もそう思うか」
「玲奈もか?」
「これでも
大衆の危うさというものは分かっているつもりだ。
集団として、あれほど暴走した時の爆発力が凄まじいものもないだろう」
「だな」
玲奈の話しを聞きながら、英人は遠い目をした。
あれに近い光景は、『異世界』でもあった。
長引く戦乱の世が生んだ疑心暗鬼と歪んだ団結――ひとつ確実なのは、ひとたび暴走すれば流血を伴うということ。
「おいおい、自然に二人の世界に入らないでくれたまえ。寂しいじゃないか。
まぁ彼等に関しては、傍から見てる限り大丈夫じゃないかい?
掲げているテーマも誹謗中傷や不当な暴力の抑止だし、それに今どきこの国で暴動を起こす人間なんてまずいないだろう?
彼らだってそんな意識はないはずさ」
「だと、いいんですが……」
その時、英人のスマホにメールの受信を知らせる振動が鳴った。
開くと、義堂からのメールだった。
「……なるほど」
その文面を見、英人は僅かに目を細めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
午後三時。
「さぁ始まりました『女王決定戦』午後のステージ!
お昼も過ぎておやつのお時間ですが、みなさん盛り上がってますかー!?」
「「「「「おおおおおおおーっ!!」」」」」
司会の開始宣言に、盛大な歓声が湧き上がる。
午後になって来場客も増え、午前をさらに上回る盛り上がり。
だが期待に光る瞳の群れは、たった一人の少女しか見ていなかった。
「おー盛り上がってますねー!
じゃあ早速グランプリの方々の紹介に移りましょーか!
まずは矢向さん、どうぞ!」
「はーいっ♪」
「「「「「「うおおおおおおおっ!!! くるみん! くるみんっ!!」」」」」」
それは今年度グランプリ、
人気アイドルグループのセンターという圧倒的な知名度から始まり、これまでの活躍経ていまやその勢いは天を
最早ステージを囲む観客全員がファンと言っても差し支えないような盛り上がりぶりだった。
「いやーすごい歓声! 午前以上です!
さっすが現役アイドルで今年度グランプリ!
しかも聞くところによると、ご自身の手で大学内の問題を解決していってるみたいですね!」
「はい♪
来夢、元々そういうのをどうにかしたいという気持ちはあったんだけど、なかなか勇気が出なくて……。
でも昨日みなさんから頂いたたくさんの声援のおかげで、目が覚めました!
今はこの大学くらいしか変えられないかもしれないけど、それでも来夢、皆が笑い合えるような世界を作りたい!
だから協力してくれると嬉しいなっ!」
「「「「「おおおおおおおっ!!」」」」」
来夢が笑顔で手を上げると、観客たちはより一層興奮のボルテージを上げていく。
続く「くるみん」コールは、キャンパス内の雑音全てを塗りつぶす程の勢いだった。
「す、すごい盛り上がりです……!」
「嘘でしょ……!?」
その迫力に、後ろで席に着く真澄と瑛里華は思わずのけ反る。
彼女の勢いを知らなかったわけではないが、ものの数時間でさらにここまで支持を集めるのは二人としても予想外だった。
その人気具合は、支持というよりもはや信仰に近い。
「くるみーん! 俺も助けてくれー!」
「語学のクラスの――!」
「体育会のコーチが――!」
コールが僅かに落ち着くと、学生たちは各々の悩みや問題を来夢相手にぶちまけ始めた。
イジメ、パワハラ、友人関係――日頃抱えながらも心の奥底にしまい込んでいた不満が、間欠泉のように噴出する。
自分なら到底不可能だったことでも、彼女ならどうにかしてくれるかもしれない。
そんな願望が湧きたつように燃え上がり、彼女の一身へと集中していく。
事実、それが出来るだけのカリスマ性と実績を矢向来夢は得ていた。
「「「「「「「くるみん! くるみん! くるみん! くるみん! くるみん!」」」」」」」
コールは依然として止む気配はない。
キャンパスの全員が、矢向来夢という少女ひとりを見ている――目の前に広がる疑いようのない事実に、少女はいつになく身体を震わせた。
「――ッ!
ふふっ、みんなー!」
『
それはみんなに夢を見せる仕事。
そして女の子に生まれたからには、一生に一度は夢見る仕事。
「どう?
今の私、カワイイー!?」
「「「「「「「可愛いよー!!!!」」」」」」」
矢向来夢は今、誰よりも幸福な夢を見ていた。
「ありがとー!
じゃあこのまま『女王欲求』、いっくよー!」
「「「「「「おおおおおおおっ!!!!!」」」」」」
曲のイントロが流れ、ステージの盛り上がりはいよいよ頂点へと達する。
そのまま来夢が歌いだそうとした時。
「きゃっ!? な、何!?」
足元から噴き出したドライアイスの煙が、ステージ全体を覆った。
曲も途切れ、会場は騒然とする。
『――皆さん、落ち着いてください』
スピーカーからはアナウンスと思われる音声が響くが、どうにも様子がおかしい。
何故なら、その声色はどう考えても機械音声によるものだからだ。
『そして騙されてはいけない。
彼女は一つ、大きな嘘をついている』
演出の一つだろうか。
だが、騙されているとは一体――?
その場の全員が疑問に思うが、遮ることはしない。
まるでその声に全ての意識を持っていかれたかのように、全員がアナウンスに聞き入る。
『――今から、彼女の真の姿をお見せしよう』
言葉と共に、晴れていく煙。
そこには――
「……え、なに、今の……え?」
只の、本当に只の少女がいた。
衣装こそフリフリで煌びやかだが、目は一重で細く、輪郭やその他のパーツも美しいとは言い難い。
よくて中の下、それくらいの容姿をした少女が呆けた顔で立っていた。
観客の一人が、静かに口を開く。
「だ、誰……?」
夢から
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