第8話 解放、異変の兆し-1

”欲深なドラン=ヴィスラの砦”。砦とは名ばかりの、暗く湿ったダンジョン。

かび臭さとよどんだ空気の中、 蒲生 悠がもう ゆうは、燃やせそうな木の枝や枯れた葉を集めていた。



「ふぅ、こんなもんでいいかな。てか、俺が釣ったものなのに、なんであのりゅ、いやあの女のご飯の準備までしなきゃなんねぇんだ?」



「まだかーい? アタシは腹が空いたさね」



「はぁ、はいはい。今行きますよって」



 悠は枯れ木や枯れた葉を抱えて、ヴィスラの元へと向かう。

とぼとぼと歩く悠。悠がヴィスラの元へと戻ると、ヴィスラは壊れかけた煉瓦造りのイスに腰掛けながら変化した右手の鋭いかぎ爪で魚を捌いていた。



「あァ、ようやく戻ったさね。こういう生き物はすぐにハラワタを取り出して血抜きしなきゃだめさね?」



「いやぁ捌くのは家で良いかなって」




「まァ、これはこれで良いとして、だ。燃やせるものはそこに置いといて次は水を持ってきてくれさね」



「えっ、どこから?」



「今”聞く”から少し待つさね」



魚を捌く手を休めて、ヴィスラは目を閉じる。

そこでふと、悠はあることに気が付いた。ヴィスラは体の至る所に黄金の装飾品を身につけている。しかし、耳に付けたイヤリングだけは装飾自体は煌びやかなものであったが、それは白金の輝きを放っていた。




……キィーン。



(えっ、なんだこの甲高い音は……?)



 辺りに響く脳髄を揺さぶるような音。

少しするとその音は止み、ヴィスラはゆっくりと目を開ける。



「ここをまっすぐ先に行ったところに、綺麗な泉があるらしいさね。早く汲んできて」



「あ、ああ」



 悠は釣り具に入っていた折りたたみのバケツを広げると、ヴィスラに言われたところまで歩き出す。

悠の脳裏には、先ほど聞いた音と光景が離れないのであった。



(さっきの音、何だったんだ? しかも、”聞く”ってなんだよ、ここには俺ら二人しか居ないのに)



 泉を目指しながら、思案に耽るが答えは出てこない。

周りを見ると、奇妙なフクロウにも似た生き物が、悠を見つめていた。



「キェェェエエエッ」



「うおっ」



 悠は見たことのない生き物に驚かされながらも、道を進む。

しばらく行くと、小さなだが綺麗な泉を悠は見つける。



「はぁ、ようやく着いたよ。というか、この水飲んでも平気なのか?」



 そんなことを考えながら悠はバケツで泉から水を汲むが、反射した水面に見慣れた自身の顔が映る。



「ん?」



 ふと違和感を覚える悠。バケツを沈めたことで起きた波紋が静まるのを待ってから、再度湖面を見る。



「えっ?」



 そこには右目の色が紅くなり、オッドアイになった悠の姿があった。

それに加えて、髪の毛も燃えるよな赤色に変化していたのだった。




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