第3話 契約、黄金の息吹-1

蒲生 悠がもう ゆうは深紅の龍を目の前にして、動けないでいた。

宇宙にも似た不思議な空間、金貨や黄金の海、そして深紅の龍。まるでどこかのロールプレイングゲームのような光景を目にし、体験したことで悠の頭はパンクしていた。



「なァ、誰よ?」



「ひっ!?」




 悠は龍の口から漏れるものが炎ではなく人語であることに驚き、固まる。

龍は大きくため息を漏らすと、再度口を開く。



「アタシの部屋に来たんだ。そっちから名乗るのは当然だろう。 なァ、落ちた人間テンペスト?」



「はっ、えっ……。 えと、俺、蒲生 悠がもう ゆうって言うんだけど」



 投げかけられた落ちた人間テンペストという言葉の意味も分からずに混乱しつつも、取りあえず目の前の龍に言われた通りに自己紹介をする悠。

龍は金貨の山から顔だけを覗かせ、少しばかり何かを思案するように眼を閉じる。



「えっーと……」



「あァ、少し考え事をしてたさね。取りあえず、ユウって言ったね。アンタ、アタシと取引しないさね?」



「取引?」



「アタシはずっとこの周りは火の海の部屋に閉じ込められてんのさ、忌々しいことにね。んでアンタはここから出たい、アタシも出たい、だろ?」



「……まあ、そりゃあそうだけど」



「そうだろ? なら一気に解決する方法があるさね。アタシと”血魂けっこんの契約”をしてくれれば良いのよ」



「……契約?」



「忌々しいことに、この体じゃこの部屋の出入り口を通れないさね。まァ、例えアンタが出入り口を知っていても、錠があるから出られないがね。さァ、どうする?」



「契約って、俺に不利益はないのか?」



「……アンタがここから出たいのなら、アタシと契約を結ぶしかないさね。まァ、ここで金貨を抱いて死ぬっていう道もあるさね?」



 悠はしばらく考え込む。『契約』なんてものは悠の経験上、デメリットが大いにあるもの。しかも、先ほど会ったばかりで信用も全くない相手。

だが、いつまで考え込んで答えを先延ばししても、状況はただただ悪化していくばかり。



(よしっ)



 悠は大きく息を吐くと、腹をくくる。



「分かったよ、その、血魂の契約をするよ」



「あァ、良い決断さね。なら、早速始めよう」



 紅き龍は金貨の山から腕を出すと、A4サイズほどの紙を悠へと手渡す。

悠は手渡された古ぼけた紙を見つめて、読めない文字に首をかしげるのだった。



「これにはなんて書いてあるんだ……?」



「別に大したことは書いてないさね。じゃあまずはその下のところに、自分の血で名前を書くんだ」



「ああ」



 悠は釣り竿についた仕掛けの針で指先を突き刺す。

針を少しだけ深く突き刺すと、じんわりとした痛みとともに血が滴る。その血濡れた指先で、自身の名前をさらさらと書く悠。その様子を龍は一瞬だけ醜悪な笑みを見せる。



「書いたけど、次は?」



「アンタの仕事はそれでお終いさね。後はアタシの番だ」



 そう言うと龍は思い切り息を吸い込む。

そして龍の大きな裂け口から黄金色の大炎が悠に向かって放たれる。



「ああああっ!??」



 悠はその黄金色の炎へと飲み込まれたのであった。

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