第2話 転落、闇を突き抜けて
振り返ると、見る間に小さくなっていく自身が落ちてきた洞窟の入り口を見ながらぼんやりと思う。
(ああ、あんな洞窟なんて覗き込むんじゃなかった)
気晴らしにやってきた人気のない、山間の渓流。
悠は浮遊感を感じながらも、帽子と背に掛けたロッドケース、そしてたんまり中身の詰まったクーラーボックスを離さないように体に巻き込みながら闇の中に落ちていく。そして主水の脳裏に浮かぶのは、人生の走馬燈。母子家庭の一人っ子で育ち、平凡な学生生活を送り、そして工場の隅で働いてきた10年間の記憶。
(俺は、俺はいつまで落ちるんだ)
走馬燈が4回目に突入した頃、悠はいつまでも体に来ない衝撃に辺りを見渡す。
先ほどまでは底すら見えぬ闇の中。だが、いつの間にか辺りには小さく輝いていた。まるでそれは
(なんて、綺麗なんだ)
そう、悠が思ったのもつかの間。
顔に当たる、小さな砂粒。その砂粒に気を取られたと同時に体のあちこちに石が何個もぶつかり始める。
「痛ってぇっ!?? 何だ!?」
遠くに小さい粒が見え、痛みから一瞬だけ目を閉じる蒲生。次に眼を開けた瞬間、視界いっぱいに迫る大きな岩。それは岩と言うよりもまるで隕石。
幾重もの隕石群が、悠に迫っていたのだった。
「ああああっ!??」
蒲生は大きな叫びを上げて身をこわばらせる。
眼前に大岩が迫り、ぶつかるかと思った瞬間。
(……えっ)
先ほどまで凄まじい勢いで迫って大岩が、ゆっくりとした速度になっていた。
頭からぶつかる体勢だったのを宙返りすることで、足から隕石に”着地”する。
(えっ、何がっ!?)
理解出来ないままに着地をしたと同時に、周囲の速度も元に戻る。
隕石は弾丸の様に飛び、隕石同士がぶつかることで生じた破片が頬のギリギリの所を掠める。
破片が掠った頬から血が重力に逆らって宙に舞い、次々と降り注ぐ破片を両の手で必死になって身を守る。
(夢ならっ、早くっ、覚めてくれっ!)
腕や肩、背中から走る痛みに耐えながら祈るようにうずくまる。
そうして悠が少しばかりの時間、その痛みに耐えた頃。辺りが急に眩く光り輝き始める。
「まぶしっ!?」
と同時に大きな衝撃が悠の体を包み込む。
深い、深い闇の底。底には眩い、眩い黄金の輝き。悠は隕石群と一緒になって黄金の海へと落ちていく。
「うおぉぉぉっ!???」
黄金の海にぶつかる瞬間、再度悠の視界はスローモーションになる。
ゆっくりした時間の中で黄金の海をよく見ると、それらは小さな黄金の硬貨であった。『金貨がクッションになるかもしれない』と、乗ってきた隕石を蹴飛ばすと、できる限りの力で少しでも遠くへと跳躍する。
「死にたくねぇええええっ!!!」
悠が金貨の海へと飛び込むと同時に、ちょうど金貨が山のようになっている離れた場所に隕石がいくつも落ちる。
大きく重い音が辺りに響き、悠の額には冷や汗が滴り落ちる。そして冷や汗を拭いながら、辺りを見渡す。
(俺、あんなところから落ちてきたのか。てか、この金貨、大発見じゃないのか?)
辺りを見渡すと大きさはちょうど小学校ほどの空間であり、金色の炎に覆われた壁と大穴が開いた天井。
悠は数枚の金貨をポケットに詰めながら、この空間からの脱出方法を思案する。そんなことを考えながらぼんやりと見ていたが、急に辺りが振動し始める。
(えっ、えっ)
金貨の山が鳴動し、盛り上がり、崩れ落ちる。
現れたのは人間1人を飲み込むことなど造作もない大きな体躯を持つ紅き龍。
「えっ、ド、ドラゴンッ!?」
紅き鱗に、黄金の装飾品を体に巻き付けた深紅の龍。ゲームやマンガでよく見るようなそのままのドラゴンがそこには居た。
その紅き龍の真っ赤な眼光が、悠に向けられていたのだった。
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