第106話 パイオニア・ガールズ、そして朝読の行方
パイオニア=開拓、ガールズ=少女たち。
開拓地を生きた、開拓精神で生きてるガールズの本を読みました。
一冊目は、テレビドラマとして知られている草原の少女ローラの物語の原作小説の原作です。
『大草原のローラ物語 パイオニア・ガール[解説・注釈つき]』
ローラ・インガルス・ワイルダー著
パメラ・スミス・ヒル解説・注釈
谷口由美子訳
大修館書店 2018年1月刊
なんと、ローラが、草原の少女ローラのシリーズ「小さな家シリーズ」のもとになるこのメモ書きを書いたのは、1930年前後の65歳頃のことだそうです。
ものを書くのに性別年齢は関係ないとはいえ、小説という形に構築するのは、体力気力が必要だと思うので、ここでは記しておきます。
そのメモ書きは大人向けに語ったものだったのですが、それを読んだローラの娘レインが、子ども向きの作品にするようにアドバイスをして生まれたのが「小さな家シリーズ」だったのです。
読んでみますと、ローラが子ども時代に体験したことやその時の気持ちが、思い出される事実のままに記されていました。
アメリカの開拓時代の暮らしぶりや先住民族との交流など、事実を辿っていくだけでも興味深いのですが、それだけだと物語性がないので、断片的な出来事が進んでいくだけの日記のような感じでした。
それを、児童文学として成立させるようにもっていったのは、娘レインの編集者的な資質があったからだと思います。
この本のよいところは、豊富な注釈です。
元のメモ書きがどのように物語へと活かされたのかが、詳しく記載されています。
これを読んでから、もう一度ローラの物語を最初から読んでみたくなりました。
二冊目は、『枕草子』にも登場する日本の甘味「
彼女たちが、原材料のブドウ科のツタの枝から樹液を採取して、試行錯誤しながら甘葛煎を作り上げるまでの様子が、豊富な写真と詳細な報告文で紹介されています。
『
奥付には「よみがえった」と記載
山辺規子編著 かもがわ出版 2018年3月刊
植物の枝や幹を傷つけてそこからにじみ出る樹液を採るという方法は、楓のメープルシロップや、オマーンの特産品の乳香樹から産出する乳香など、その土地ならではの植物からの樹液の採取方法としてみられます。メープルシロップの採取については、『大きな森の小さな家』で詳しく記されています。
甘葛煎は、歴史スイーツですね。
こちらのプロジェクトでは、唐菓子や古代料理なども再現、現代アレンジの普及活動もしています。
また、平安時代の薫物に甘葛煎が使われていたことから、当時の薫物を復活させようともしているそうです。
アメリカ開拓時代に少女時代を過ごしたパイオニア・ガールは、年を重ねてから小説を書き始めました。
現代日本の学究の徒のパイオニア・ガールは、古の甘味を再現し、研究し、広め、現代で楽しもうと、集い、労力を惜しまず活動を続けています。
どちらも、活字として記し、本という形にして残されているので、時を経ても、遠くに住んでいても、研究成果という一般ではあまり目にすることのないものであっても、手にとり読むことができるのです。
今は、web上で入手し読むことのできるものがほとんどですが、全てがすぐにデジタル化されるわけではないので、やはり紙の本にしておくことは大事だと思います。
さて、ここからは、ちょっと気になるこれからの読書について、です。
朝読の行方、といいますか、危機について。
「
カクヨムコン5でも募集してましたね。
その部門には参加していないので、どのような作品が集まっているのかわからないのですが、読者選考無しということは、選考者の選球眼ならぬ選本眼が受賞作に反映されることになりますね。
多分、朝読賞を設定した時には、現在のような状況になっているとは、微塵も考えの中にはなかったと思います。
それは、ほぼ全ての人がそうだったと思います。
オリンピック、パラリンピックの開催に合わせて世の中が盛り上がっているだろうから、勢いのままに本の刊行も紙媒体やweb媒体でがんがん打ち出していこうといったイメージだったのではないでしょうか。
しかし、現在、学校は休校、家庭学習メインでリモート学習を推奨されても全てに行き渡るわけではなく……学校が再開されたとしても、向こう何年かかけて遅れを取り戻すという話が出てましたね。
となると、削られるのは、行事、行事の準備期間、校外活動(職場体験等)、部活動など、授業と直接関係のない部分です。
残念ながら、朝読書の時間も、それに含まれると思います。
進学主体の学校では、既に学習時間に当てられていたと思います。
これはオープン情報ですが、学校図書館に勤務している知人から、3月からずっと学校は休みで、再開しても当面図書室への生徒の出入りは難しいのではないかという話をききました。
そうなると、安全のために、朝読用に学級文庫を各クラスに設置することもできなくなると思います。
朝読セットとして選書カタログに掲載されていますが、そうしたくくりでは購入が難しくなるかもしれません。
朝、静かに本を読む時間というのは、とても豊かな時間です。
学校でスケジュールが決められていて、家でも何かと忙しい子どもたちにとって。
そういう時間は、工夫して確保して欲しいです。
以前、勤務していた時のことを思い出すにつけ、つくづく考えさせられます。
学校という場は、安全と公正さが求められます。
安全に、平等にと考えると、一冊の本を読んでもらうには、タブレットを一人一台持って、読書アプリでその本のデータを読むという読書形態になると思います。
今までは、そうした読書形態は選択肢の一つだったと思いますが、これからは、そちらがメインで、紙の本は希望者のみといった特別なものになっていくのかもしれません。
時代とともに本の素材や形も変わってきたことを思えば、紙の本は無くなりませんが、多様な読書形態の一つに過ぎないものになるのだと思います。
なんだか、司書教諭資格の小テストの答案みたいになってしまいましたね。
本が好きで、読書が好きで、学校図書館に関わったことで、思うところを書いてみました。
では、さわやかな休日に、新茶とともに、紙の本で読書します。
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