第25話 もどきで一杯 暑気払い

 今年は7月27日が土用丑の日でしたね。

 うなぎ、食べましたか?


 長梅雨であまり食欲が湧かなかったこともあり、私は、どうしようかなと迷いました。

 迷ったあげく、うなぎ本体の脂には負けそうだけれども、暑気払いはしたいと思い、肝焼きをつまんで、ごはんだけのお茶漬をさらさらといただきました。

 

 さて、この時期、梅干が欲しくなります。

 口をすぼめて、すっぱーい、と身震いしながら食べる梅干は、さっぱり晴れやかな気分にさせてくれます。


 鰻と梅干は食い合わせと言われますが、同じ水辺の長ものでも、はもと梅干の取り合わせは、夏のおつな味です。

 鱧を湯引きして、梅肉をちょこっとつけて、ぱくっ、といただきます。

 冷酒が欲しくなりますね。


 精進料理にはもどき料理がありますが、ここでは、夏の水辺の長もののもどき料理を、江戸時代天明期のレシピ本からご紹介しましょう。



『豆腐百珍続篇』

鰻豆腐うなぎどうふ 淺草紫菜あさくさのりを板にのべしき、上へ、すり豆腐に麦塵少しすりまぜたるを、厚さ三分ほどにのべ、はゞ二寸五、六分にきり、香油ごまあぶらにてさつと煠げ、串にさし、秦椒豆油のつけ炙きにするなり。」


『海鰻百珍』

薯蕷やまのいもをよくすりて、右の豆腐の如く、皮につけ、さつと油にあげ、付焼にしたるを、山鰻やまうなぎといふ。木の芽みそ付たるもよし。」


 山鰻は、はもの皮を使うので、厳密には精進料理ではありませんね。

 本家うなぎもどきは、海苔を皮に見立てて、豆腐とすりおろした山芋を混ぜたものを身に見立てて作ります。

 皮からにじみ出る香ばしい滋味のしみたお豆腐、ごはんもお酒もすすみそうです。


 さて、涼をとるといえば、川床で鮎もいいですね。

 そういえば、鮎のもどき料理もあります。


『豆腐百珍』

賽香魚あゆもどき 豆腐を長くはしらに切り、あさく油煠て、蓼醋たですをかくるなり。」


 「長くはしらに切り」というのは、拍子木切りのことだと思われます。

 この通りに作ると、お豆腐を拍子木切りにして、油で揚げ焼きしたものを鮎に見立てることになるのですが、これはさすがに見立てとしては苦しいかもしれません。

 細長い形に、すらりとした姿の鮎の面影が見える……かもしれませんが。

 蓼酢をかけることだけが、鮎の塩焼きとの共通項です。

 想像力を駆使して味わうのも、涼を楽しむお遊びの席にはいいかもしれません。


 では、もう一品。

 夏バテにうれしいしじみ料理(もどき)。


『豆腐百珍』

賽蜆しじみもどき 豆腐をまるながら、水気なしに文武火つよからぬひにて、烹る。水いづるを、金匕かねさじにてすくひさり、又、みづ出ればすくひ、幾次いくたびもして、烹かたまり、ぽろ〱と、みしゞみの如くになるを、油ニてさつと煠げ、みしゞみの調味てうみの如く、稀醤油にて烹て、青山椒をおく也。」


 これは、味を濃くした炒り豆腐でしょうか。

 炊きたてごはんにかけたら、おかわり必至ですね。



 もどき料理での暑気払い、今年の夏にいかがですか。




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