第18話 『万葉集』に見られる「菓子」 和菓子の日に寄せて

 6月16日は、和菓子の日です。

 由来、詳細については、「第17話 和菓子の日イブ」でご覧いただけます。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054889436989/episodes/1177354054889999904


 令和元年の和菓子の日にちなんで、『万葉集』の「菓子」という言葉が出てくる歌を一首ご紹介します。

 ここでいう「菓子」は、かつて果物のことを言った「菓子このみ」のことです。



『万葉集』巻第十八


たちばなの歌一首 短歌をあはせたり」


かけまくも あやにかしこし 天皇すめろきの 神の大御代おほみよに 田道間守たぢまもり 常世とこよに渡り 八矛やほこ持ち 出来でこし時 時じくの 香久かく菓子このみを かしこくも 残したまへれ 国もに ひ立ちさかえ 春されば 孫枝萌ひこえもいつつ ほととぎす 鳴く五月さつきには 初花はつはなを えだ手折たをりて 娘子をとめらに つとにもりみ しろたへの そでにも扱入こきれ かぐはしみ きてらしみ あゆるは 玉にきつつ 手にきて 見れどもかず 秋けば しぐれの雨り あしひきの 山の木末こぬれは くれなゐに にほひ散れども たちばなの れるそのは ひたりに いやしく み雪る 冬に至れば 霜置しもおけども その葉もれず 常磐ときはなす いやさかばえに しかれこそ 神の御代みよより よろしなへ この橘を ときじくの 香久かく菓子このみと 名付なづけけらしも


「反歌一首」


橘は花にもにも見つれどもいや時じくになほし見が


 うるう五月二十三日に、大伴宿祢家持おほとものすくねやかもちの作りしものなり。



 この歌は、「橘」をほめたたえながら、皇族の橘諸兄の繁栄を祝っています。

 橘は、季節が移り変わっても、厳しい冬が訪れても、葉も枯れず栄えていることから繁栄の象徴とされたのです。


 興味深いのは、橘の「菓子このみ」の扱い方で、香りの良さを楽しむのに、匂袋のように袖に入れたり、ブレスレットのようにして装身具にしたりしていたということが詠み込まれている点です。


 人工的な香水や芳香剤のなかった時代には、身近な自然の香りを、上手に暮らしに取り入れていたのですね。



 みなさんは、和菓子の日に、どんな和菓子を楽しみましたか。

 



参考文献 

『万葉集(五)』

佐竹昭広校注 山田英雄校注 工藤力男校注 大谷雅夫校注 山崎福之校注

岩波書店





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