最後の1人にならないと出られない部屋
泡芙蓉(あわふよう)
最後の1人にならないと出られない部屋
目を覚ますと知らない場所にいた。
学校の体育館くらいのとても広い部屋で、上も下も壁も全て真っ白だった。
辺りを見回すとざっと見た感じ30人くらいの年齢性別様々な人がいた。
殆どの人は起きていたが、中にはまだ寝ている人もいる。
起きている人の何人かは出口がないか探しているのだろう。
辺りをうろうろしたり壁を叩いたりしている。
前後左右見てもそれらしきものは見当たらず、どこまでもつるっとした真っ白な壁と天井と床しかない。
体育館のような広さでも窓も凹凸も何もないと圧迫感があるのかと初めて知った。
ふと気が付いたが、起きている人は皆何かを持っている。
金槌だったり包丁だったり拳銃のようなものだったり。
だれも人には向けてないが、まるでお守りか何かのように手から離さない。
そしてもう1つ共通することがある。
みんな首に黒い首輪を付けていた。
自分の首を触ってみるとやっぱりオレにもついていた。
そしてすぐ側に鞘に収まった刀があった。
刀の柄は鎖で手首にはまった枷に繋がっている。
よく見ると他の人も持っている武器から伸びた鎖が自分の腕に繋がっている。
これは他の人間の武器は使えないということなのだろうか。
刀を手に取ると鎖の分重量があるのか、家で使う刀よりも少し重かった。
「あの、気が付かれたんですね」
声がする方を見ると、学校の制服を着た少女がオレを心配そうに見ていた。
年はオレと同じ高校生くらいだろうか。
ぱっちりとした大きな瞳、すっきりと通った鼻筋。
唇はふっくらとして柔らかそう。
とても可愛い少女に声をかけられて少し動揺してしまった。
そんな少女にも黒い首輪が付いている。
そして手には中華包丁が握られていた。
「ここってどこなんですか?」
「すいません、私にも分からないんです。さっき目が覚めたばかりで」
少女は申し訳なさそうに目を伏せる。
「気にしないでください。周りの様子を見るとみんな同じようですから」
「そうですよね。私は黒崎玲菜です。よろしくおねがいします」
黒崎さんは微笑みかけた。
その笑顔にこんな状況にも関わらずドキっとした。
「オレは相原修也です。よろしくお願いします」
こんな状況でなければオレみたいなぱっとしない人間に美少女が声を掛けてくれることはないだろう。
非現実的な場所と状況にオレはほんとは夢の中にいるのではないかと思った。
「修也さん、あれは観ましたか?」
黒崎さんが指さした方を見ると、壁に埋め込み式の大きなモニターがあった。
辺りを見回した時に目に入っていたが、周囲の人間に気を取られてよく見ていなかった。
画面には赤い文字でこう表示されている。
最後の1人にならないと出られない部屋。
と。
「なんのことなんでしょうか? 何かの謎かけですかね?」
「さあ」
果たして謎かけだろうか?
小説やアニメでよくある設定の1つのような気がする。
そのままの意味で生きている人が一人にならないとこの部屋から出られないという。
自分の考えにまさかねっと否定した。
その時ビービーというけたたましい音が部屋に響いた。
と同時に画面にタイマーが表示される。
最高が10分でそれから減っていっている。
そしてタイマーの下に『制限時間以内に他の人間を殺さないと首輪が爆発する』と表示された。
嘘だろ。
そんなのってありかよ。
「黒崎さん、これって・・・」
彼女の方を振り返り目の前の光景が信じられなかった。
中華包丁を振り上げ、今まさに自分に振り下ろそうとしているところだった。
刀で防ぐのは間に合わない。
諦めかけた時、連続した乾いた音が響いた。
黒崎さんは背中に衝撃を受けてのけぞる。
そして血を大量に流して倒れた。
悲鳴が上がった。
彼女の周囲も同じように血まみれで倒れている人が何人もいた。
離れた場所にいる男がこちらに向かってマシンガンを構えている。
あの男が撃ってきたのだ。
こっちを狙っている。
盾になるものは何もない。
次はオレが殺される番だと思った時、その男の頭から血が噴き出した。いつのまにか後ろにいた別の男がピストルで殺した。
あいつを何とかしないと次は自分がやられる。
近接武器なら刀で対抗できるが銃相手に勝ち目はない。
ピストルを持っている男が弾を込めている内に距離を詰め、腕を切り落とした。
男は悲鳴を上げる。
ついで首を切り落とした。
振り返ると辺りは地獄のようになっていた。
みんな鎌や槍などの武器を振り回し、目についた人間を殺そうとしている。
見ている間に包丁を振り回している男がオレに襲い掛かってきた。
包丁を避け、流れで脇腹を切りつけ首を落とした。
オレの父は実践剣術の道場主で幼いころからしごかれてきた。
今の時代刀で殺し合う事なんてないのにこんなことやって何の役に立つのだろうと疑問だったが、今日に限っては父に感謝に感謝した。
残り1分というところで全員殺すことができた。
銃を持っている人間は最初の2人だけだったようで、後は簡単に殺すことができた。
モニターの文の通りオレ1人だけになると、その下の壁に穴が開いた。
どういう仕組みとかは考えないようにした。
これが出口なのだろう。
助かった。
部屋を出ると自分の部屋に出た。
振り返るとそこにはもうあの白い部屋はない。
しっかりと握っていたはずの刀と首輪もなくなっていた。
これは本当に夢だったのではと思ったが、体にべったりと付いている血があれは現実だったとオレに教えた。
最後の1人にならないと出られない部屋 泡芙蓉(あわふよう) @yuyu83
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