第104話 104 河津のスキル

 

 城を正面にして、メインストリートを歩く男達。

 

 ソコにカラスからの連絡が入る。

 「河津を見失いました」


 「何時だ!」


 「たった今です」


 「なら、まだ近くに居るのだな?」


 「私の事なら……ここに居るよ」

 耳の飾りを着けた爺さんが目の前に居た。

 河津だ!

 その河津……剣を抜いて男に、上段から斬りかかる。


 それを見たのか、背後からムラクモが舌で男を掴み引っ張り下げる。

 男の目の前を剣先が間一髪で通り過ぎた。


 「今度は、そう逃げるのか……」

 地面を叩いた河津が呻いた。

 「どうしても、君を斬る事は出来ないなあ」


 妙な言い回しだ。

 そして、突然に目の前に現れたのにも驚かされた。

 空間の魔法か何かか?


 「だが、大陸間弾道魔法は回避出来たようだな」

 頷く河津。


 その河津の背後からシルバが横殴りで長剣を払う。


 それを、見もしないで、最初からわかっているかの様に避けた河津。


 男の背後に居たムラクモが加速してハルバートを突き出す……が、それも剣で受け止めた。

 やはり、ソコに攻撃が来るのがわかっていた様な仕草で。


 そして、河津は剣を横に立てた。

 

 その剣に銃弾が当たり弾き飛ばした。


 撃ったのはシグレ……驚く様な顔で姿を現した。

 透明化で気配を消して、至近距離から撃ったのを剣で防がれたのが不思議で為らない、そんな顔だ。


 河津の方は、顔色一つ変えない。

 当たり前の事を、当たり前にやっただけと、そんな風にも見える。


 「予言か?」

 呟く男に。


 「ハズレ」

 笑った河津。

 

 なら……考えられるのは、時間のほうか?

 と、声を出そうとした時。


 それよりも先に。

 「当たり」

 河津は、また笑う。

 「おっと、フライングだったね」


 「時間のやり直し……か」


 「最初の時は驚いたよ、君達と遊びに飽きてここを離れた瞬間に大陸間弾道魔法だものな」

 河津は大きく首を振り。

 「危うく焼け死ぬ所だった」

 と、大袈裟に芝居かかった様に額の汗を拭う仕草で。

 

 男は、それを撃てと骸骨に命じたのか。


 「その後、何度もやり直したけど……君達はすぐに大陸間弾道魔法を撃ってくるんだ、しつこいよ」


 「何度もか?」


 「そうだよ……だから、こちらから攻撃をする事にしたんだ。今ならまだ、撃てないんでしょ?」


 確かに、骸骨はまだ魔法学校に着いて居ない筈だ。

 と、言うか……こちらに向かっている事すら知らない。

 骸骨はカラスを通じてこちらの様子を伺っているのだろう。

 そして、魔法学校に近付いた時にソレを提案してくるのだろうと、男も予測は着いた。

 詰まりは、今はマダなのだ。


 「相当にやり直したのだろうな」

 その風貌でわかる。

 これだけの人を殺したのだから、最初は若い状態だったのだろう、ソレが今は爺さんだ。

 魔力と若さを使い込んだ証拠だ。


 「ああ、何度もね」


 「そんなに何度も、俺達に負けるのなら……逃げれば良いのに、勝てる見込みが無いのではないかとは、考えなかったのか?」


 「そんなの考えたさ……でも、逃げても君はやって来るんだ。殆ど場合は、君がこの国の王に成って、国中から追っ掛けて来るんだよ」

 河津は肩を竦めて。

 「ウザったいよね」


 「俺は、王に為るんだ……」


 「今回は、成れないよ……その分岐をさせない為に、ここにダンジョンを造って君の仲間に見付かる様にしたんだから」

 笑った河津。

 「今、君がここに居ると、王には成れないんだ」


 「まるで、預言者みたいだな」


 「見た事を言ってるだけだから、どちらかと言えば過去の日記を教えている感じかな?」

 と、首を捻りながら。


 「ふーん」

 別に、そんな事はどうでも良い事だ。

 男の知らない未来がわかる、その事の方が重要なのだから。

 「で、今回は勝てるのか?」

 俺達が? 

 それとも河津が?


 にっこりと笑い。

 「それは、教えない」


 今まで、自慢気に未来の出来事を披露していたのに……。

 言わないときたか。

 それは、逆に河津が勝てないと言っている様なものだぞ。

 詰まりは、逃げる積もりなのだ。

 今回は、男を王にしない事が目的なのだろうな。


 その河津、話は終わっただろう? と、斬りかかってきた。

 ソレを、後ろのムラクモがハルバートを出し、払い退ける。


 「どうにも君は、攻撃が出来ないのに倒せないなぁ」

 しかし、顔は笑っている。


 余裕が有るのか?


 河津の背後からゼクスとシルバが斬りかかる。

 それも、振り返る事無く避けた。

 

 完全に、動きを理解している。

 河津の知らない動きをしないと駄目なのだろうが……ソレがわからない。

 

 『ジュリア、アルマの槍で突け』

 違う武器で攻撃をしてみれば、その可能性は無いものか?


 だが、河津はソレも避けた。

 前に経験したのか。

 同じ男が考えるのだから、やる事も同じか。


 ソコへマリーが飛び出してきた。

 下半身はちゃんと付いている。

 「河津ー!」

 と、すりこぎ棒で殴り掛った。


 ソレを交わして、まりーの首に剣を当てて人質の様な格好に為る。

 「やあ、マリー……久し振りだね……と言っても、君にとってはだけどね」


 首元の剣が気になり動けないマリー。

 

 「じゃ、そろそろおいとましようかな」

 その瞬間、消えて。

 そして、はるか後方にマリーと一緒に現れた。

  

 瞬間移動か?


 「そんなに魔力を使ったら、老けるわよ」

 マリーの声が届いた。


 「大丈夫さ」

 そう言って、その場の足下に転がる人間に剣を突き刺した。

 少し、若返った。

 その隣の人間にも、その隣のも……次々と剣を立てていく。

 その度に、若返る。


 トドメを刺さずに、生かしたままに転がして居たのか!


 ニヤリと笑った河津。

 マリーを突き飛ばして、また消えた。

 今度は、何処にも現れない。


 完全に、逃げられた様だ。


 「大丈夫か?」

 男はマリーに走り寄り、体を引き起こし声を掛けた。


 そのマリーは膝の頭を払いながら。

 「逃げられたわね」


 「あのスキルは厄介だな」


 「そうでも無いのよ、あれは事前に魔方陣を描いて置いた場所にしか行けないから」


 「マリーの転送魔方陣の様に?」


 「そうね……全然違うけど、似たようなモノね」


 「前準備が必要なのか……」

 男は考える。


 「その距離も、遠ければそれだけ魔力を消費するから、常に使えるモノでも無いし……魔力感知さえ出来ればその場所もわかるから」


 「それは、飛んでからか?」


 「飛ぶ前の魔方陣も先に見付けれるわよ」


 「成る程、だからマリーを人質にしたのか……その事を知っているから逃げ先の魔方陣を潰されない為に」

 

 「あんたも出来るでしょ」


 「魔力感知?」


 「魔素を見れれば誰でも出来るわよ」


 「ジュリアは?」


 その言葉にジュリアが反応して、私? と、自分で自分を指差した。


 「出来るでしょ?」

 と、頷いたマリー。

 「てか、ネズミもカラスも見れるわよ」

 

 「そうなのか……」

 そんなに簡単に見れるものなのか。


 「魔物だから、見えない筈無いし……ジュリアは鍛冶師なのだから、見えないと仕事に成んないでしょ」


 「あぁ、あのモヤモヤっとした煙?」

 ジュリアが頷いた。

 

 「あんた、魔素も知らないで鍛治師をやってたの?」


 「そんなの知らなくても、合成する時のモヤモヤが多い所を利用するか、少なければ自分で出せば良いだけだし」


 「……まあ、名前なんてどうでも良いのでしょうけど……そのモヤモヤが魔素って言うのよ」


 「成る程、わかった」

 男も頷いた。

 「そのモヤモヤが出ている場所が魔方陣の場所なんだな?」


 「そうよ、ソコに先回りするか、壊しておくのよ……結構な量で出ているからすぐにわかるわよ」


 ソレが、河津対策か……。


 「時間の跳躍はどう対処するんだ?」

 倒しても、戻されたら意味がない。


 「それは、無いわね」

 マリーの声が小さくなる。

 「敢えて言えば……何度も跳躍をさせる事ね」


 「それは、魔力切れを待つと言う事?」


 「そうよ、爺にさせてしまうのよ」


 簡単に言うが……それは、何度も勝つって事だろう?

 ……。

 イヤ、勝てるのか……今の俺達なら。

 だから、河津は逃げたのだし。


 「次は、覚えておいてよ」

 マリーが男に詰めより指を立てた。

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