第53話 053 仕組まれていた襲撃


 翌朝はカラス達が町中のそこかしこの屋根の上に居た。

 昨晩のネズミの情報だと、この町の教会にはスポンサーが居るようだ。

 一段高い位置に建つ町一番の豪邸に何時ものように寄付を募る、そんな話を聞いたと言っている。


 ロイドの情報は……。

 「ここ最近神父が教会を空けている」

 それぐらいだった。

 深夜の教会には、不審な点は見付からなかったそうだ。


 しかし、消えた学生の話は、不自然な程に無いのだと言う。

 なので、ネズミ達は引き続きそのままで。

 昼間はカラスにも仕事をさせる。

 空からの人の動きの監視だ。


 「その豪邸を調べるべきかな?」

 男はそう呟いた。

 警戒してか、隠語なのか豪邸としかわからない。


 「そうですね」

 何かを考えているロイド。

 

 「奴隷狩りは……本当に有ると思うか?」

 そのロイドに男が聞いた。

 奴隷狩りにしては人数がと考えていたが……ここまでの話だとそれにしか繋がらん。

 

 「わかりませんね……学生が消えたを、簡単に考えれば」

 ロイドは唸りながら。

 「有ると……成ります。しかし、この間の連中は……どうも奴隷狩りでは無いような気がします」


 「ゾンビにすれば早いのだが」

 男はため息だ。


 「そのリスクを背負う必要は無いでしょう。我々の目的は、先遣隊の安全です。ソコさえクリア出来るのなら、奴隷狩りでも何でも好きにやってくれればいい」

 ロイドは頷いて。

 「その確証が欲しいだけです」


 ロイド……ドライ過ぎるぞ。


 「まあしかし、俺達が襲われたのは事実だ。そして、ヒントは教会の首飾りしかない」

 頭目が出ない答えに結論付ける。

 「それが、見せ掛けだけの罠の可能性も有るがな……先ずは教会だな」


 「そうですね。あれだけの人数が潜伏出来る場所……まずはソコを突き止めましょう。町の中なら、教会かその豪邸、その2つに絞れますね」


 「纏まってと成るとソコしかないな」

 ロイドのそれには頭目も頷く。

 「この町の造りでは、大きな建物は3つしかないしな」


 後の1つは宿屋かと、考え込む男。

 ここの巨大なウッドデッキでも、所詮は人工的な床。

 しかも総てが木だ、強度的にも構造的にも難しいだろう。

 

 「しかし、何故に木なんだ?」

 男は不思議に思った。

 「単純に森の中だからか? にしては、難しい造りだ」


 「理由は簡単な事です」

 それに答えてくれるロイド。

 「ココは国境に近い、隣国に攻め込まれて拠点にされるのは厄介です……イザその時は、火を放って燃やしてしまえばいい」

 掌を上に広げる仕草で燃える町を現したロイド。

 「その為の多層構造のウッドデッキなのです」


 成る程、確かに良く燃えそうだ。

 普通の火事が怖そうだが。

 戦争の為の備えが優先か。


 「その豪邸の方なのですが、ネズミ達にお願いできますか?」

 ロイドは男に。

 「警備が厳重なので、忍び込むのは無理そうです。私は、町の外を調べて見ます」


 警備の事を知っていると言う事は、既に調べたのか。

 もしかすると、こっちの方が本職か? 手際が良すぎる。


 「カラスの範囲も広げよう」

 頷いた男はロイドに。

 「森の木が邪魔するだろうから詳しくは無理だが、見える範囲で探させよう」


 「そうですね……お願いします」

 そう、頭を下げてロイドはまた考え込む。


 「しかし、学生が気になる」

 そんなロイドから目を外した男も首を捻る。

 「そんなに大勢がいったい何処に」


 「不自然なのは確かだ」

 頭目が目を細めて。

 「生きて居るにしろ、死んで居るにしろ痕跡は残る筈なのにだ」



 この町に来て10日ほどが過ぎた。

 その間は何事も無く、そして何も出てこない。

 いくら調べても、全くに状況が変わらない。

 先遣隊の方も4日前にイセオ湖を通過して居る。

 今日、明日には以前に俺達が襲われたその場所を通る頃だ。

 カラスを一匹送ったので、その状況は逐一わかるのだが……。

 この町に着くには後10日は掛かるだろう。

 馬車なのだからやはり時間が掛かる。


 「これだけ調べて、何も出ないと言う事は……」

 男は口元に手がいった。

 「まさか、あの場所にまだ居るとか……」

 まさかなと呟いた男。


 「迎えに行きましょう」

 それに反応したロイドが急に立ち上がった。


 「そのまさかなのか?」

 男はロイドを見て。


 「可能性はゼロに近いですが」

 首を左右に振ったロイドは目を伏せて。

 「全くのゼロでも有りません……しかし、こちらで出来る事が無いのです」

 目線を男に戻す。

 「直接、警備をしましょう」


 「初めからそうすれば良かったのでは?」


 「それでは、少数の先遣隊には成りません」

 囮か偽装かの俺達だからか。

 「が、我慢の限界です」

 声を大きくしたロイドはそう言った。

 「理由は後でこじつけましょう」



 男達は来た道を戻る事に成った。

 トラックは馬車も荷車も切り離して置いていく事にする。

 もちろん馬もだ。

 どうせここに戻る事に為るのだ、なら身軽な方が速いと考えたのだ。


 カラスは最低限の監視役を町に残して先に飛ばした。

 その連絡を受けるボスは勿論、男と一緒だ。


 そのカラスのボス、今は小さいロイドに成っている、が。

 「また、大木が倒れている様です」


 「あの大木は退けたぞ」

 と、本物のロイドの顔を見た男。


 「急ぎましょう」

 ロイドの顔が渋い事に成っている。


 「馬車はソコに着くのは後どれくらいだ?」

 男は小さいロイドに聞く。


 「明日の昼前位でしょう」


 前回は、ソコからココまで2日掛かった。

 魔物を倒しながらで急いでは居なかったが。

 それでも、男達がソコに着くのは明日の夜に成るだろう。

 奴等が、この前みたいに夜まで待つのならば……それでもギリギリか。


 「半分ほど、その場所に残して警戒してくれ」

 カラスに命じた男。


 「いえ、全部でお願いします」

 ロイドは直ぐ様、男に訂正を求めた。

 「馬車の方は一匹が居るのでしょう? それで十分です」

 カラスにも直接に伝える。

 「その場所を広く偵察して下さい」


 「わかった」

 小さいロイドが本物に頷いた。


 「油断しました」

 ロイドは呻く様に呟く。

 「いえ、過信です」

 そして小さく首を振る。

 「自分達が、あんな者に遅れを取る等と考えもしませんでした」


 「ああ、完全に裏を掛かれたな」

 頭目も唸る。

 「コレは、あの首飾りに気を取られ過ぎた。あれは、やはりワザと見せたのだ……男達を町に留める為にだ」

 拳を強く握った。

 「額の奴隷印も……含めてかもしれん」

 その拳を床に叩き付けた頭目。


 「そうなのだとしたら」

 今まで聞くだけだったマリーが。

 「私達を狙った事が、初めから仕組まれていた? 私達が偽物としてソコを通ると知っていた? 情報が筒抜け?」


 「そうなるな」

 頭目の声が荒い。

 「男達に依頼を出した事を知っている誰かが裏切った……王国にそいつが居る」


 「黒幕?」

 男も呟く。


 「スパイか? 裏切り者か? ただの怨みか?」

 答えとしてはそんなところかと頭目が答えた。

 「大臣なんかやってるんだ、怨みも有るだろう」


 「戦争に成るかも知れないのにか?」

 驚いた男。


 「その戦争を望んでいるヤツかもな」

 少しだけ笑った頭目。

 「それだと、幾らでも居るぞ、王国にも他国にも無数だ」


 「王国にもか? 負ける戦争なのだろう?」


 「逃げ先が有るのだろう」

 頭目のその笑いは失笑だった。

 「それとも、ただの馬鹿かもな」


 「その戦争に成らないかも知れないわよ」

 マリーが指摘した。

 「ココはまだ、王国なのだから、事故にすれば良いだけよ」


 「そうだな」

 吐き捨てた頭目。

 「なら、権力争いか」

 

 「馬鹿か、賢い野心家か……他国か」

 マリーが呟いた。

 「それとも、その全部かもね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る