第54話 054 ギリギリ
「やはり、居ました」
小さいロイドに成っているカラス。
「草影に隠れています……ネズミが発見しました」
「ネズミ?」
思わず聞き返した男。
「カラスが一匹づつ、ネズミを掴んで飛んで居たのです、どうしても、飛びながらでは見えないもので」
流石だ。
小さいロイド、カラスだが本物のロイドと遜色無い。
カラス界では絶対に男前だ。
話し方もロイドに成りきって居るカラスを見て、余計にそう感じた男だった。
「前回の襲撃の時の半分程の人数を確認したそうですが……仕掛けますか? 勝てるとは言えませんが……牽制と時間稼ぎ位なら」
そのロイド・カラスの提案。
「イヤ、まだいい」
その言い方だと、カラスもネズミも生き残れないと踏んでの事だろうと感じた男はそれを断った。
ギリギリ間に合うかも知れないのだ、無駄な犠牲は避けたかったのだ。
「後どれくらいの時間が有ると思う?」
「馬車は一時間程……日が落ちるのは三時間でしょうか……私達は、このペースで、四時間です」
「その一時間、奴等は待つかどうかだな……」
「前回は、寝込みを襲うつもりだったのだから……同じやり方なら、待つでしょう」
マリーが横から。
そして、一時間後。
「馬車が止まったそうです」
今は、小さいロイドは常に男の肩に乗っている。
「丸太の前です」
「奴等は?」
「まだ動いて居ません」
「俺達は後三時間か……」
日がおちてきた。
昼間も薄暗い森だが、今はもう真っ暗だ。
「まだ動きは有りません……しかし、準備は整った様です」
合図待ちか。
後一時間は動くなよと祈る仕草をした男。
しかし、後もう少しという所で……奴等は動いた。
「馬車が囲まれました」
ロイド・カラスが叫ぶ。
「でも……妙ですね、馬車側に動きが有りません」
「どういう事だ?」
男は頭目に聞いた。
「馬車には一応は警護も乗っているのだろう?」
「大臣と御付きをのけても四人だ、いざと為れば、その御付きも出るだろう筈だ」
頭目は当然とそれに返す。
「両者とも、静かです」
カラス・ロイドが呟く様に。
「嫌な予感がしますね」
そして、本物のロイドも呻く。
「黒いローブの男が一人出てきました……前回の男です」
カラス・ロイドが、少しだけ間を開けて。
「馬車に無言で近付きます」
「警告も無しにか?」
「はい」
頷いたカラス・ロイドは続けて。
「馬車から、誰かが出てくる様です」
そして少し首を捻る。
「しかし、囲んで居る奴等に張り詰めるモノは有りません……皆、ただ見ているだけです」
声のトーンが一段下がる、カラス。
「先頭は大臣です」
「警護の人選を間違えたな」
頭目が吐き捨てた。
ああ、男にもわかった。
裏切り者を乗せていたのだ。
「次に降りて来た兵士が大臣に槍を突き付けています」
それを聞いた一同は唸る。
そしてセオドアが立ち上がる。
「俺が先に行く」
と、トラックから飛び出した。
ムラクモもその後を追う。
木々を利用して一気に加速していく二人。
「カラス達に伝えろ」
男は決断した。
「攻撃だ」
「大臣が人質になっていますが……」
躊躇するカラスに男は睨み付ける様に唸る。
「構わん、やれ」
「わかりました」
と答えるカラス・ロイド。
男達は到着と同時に飛び出した。
セオドアとムラクモは、うまく裏を突いた様で、既に何人かは倒している。
カラスとネズミは奴等を完全に包囲していた。
「大臣は気にするな!」
男は森中に響かせんとばかりに叫んだ。
「一気に叩け」
その声に、ローブの男が怯んだのが見てとれた。
頭目とロイドは、一瞬だけ男の顔を見たのだが、直ぐに気勢を上げて盗賊ゾンビを率いて全線に躍り出た。
それをジュリアが弓で援護する。
「アルマ! ゼクス! シルバ!」
男がトラックの前に立ち。
指を大臣の馬車に向ける。
「馬車迄、積めろ」
その声に反応した槍の兵士、いったん馬車に大臣を押し込み自分も逃げ込む。
「ジュリア、馬を狙え! 馬車を逃がすな!」
直ぐ様反応して、射ぬく。
その場に崩れ落ちた馬、二頭。
後は殲滅するだけだ。
前回の半分なのだから、それも早くに終わるだろう。
が、
男の考えよりも早くに終わった。奴等はまた逃げ出したのだ。
男はカラスに。
「ローブの男をネズミに追わせろ」
と、指示を出す。
「後の者は放っておけ」
逃げた所で、どうせローブと落ち合う筈だ、追うのは一人だけで十分だ。
そして、男達はその場に残された馬車を囲む。
男は、一人で前に出た。
そこまでは、ローブの男と同じだが。
「おい! 出てこい」
と、声を張り上げた。
「……」
反応が無い。
「コツメ……馬車に火を放て」
「え!」
男の顔を見て、皆の顔を見るコツメ。
「構わない」
男は声に凄みを効かせて。
「やれ」
「わかった」
コツメは小さく答えて、馬車に向けて呪文を唱える。
今回ばかりは火炎の術とは叫ばない。
それでも、火の玉は馬車の後ろの端に当てていた。
小さい火が馬車を舐め始める。
「おい! 此方には大臣が居るのだぞ!」
中からの叫び声。
「それが、どおした」
男は大きく笑ってそれに答えてやる。
「出てこ無いなら……そのまま焼け死ね」
「なんて奴等だ!」
慌てて飛び出す槍の兵士。
もちろん大臣も一緒で、槍を構えたままでだ。
「久しぶりだな」
その槍の兵士に、男は見覚えが有った。
「俺を覚えているか?」
「……」
何を言っているのかわからない様子の槍の兵士。
「俺がこの世界に召喚されて、最初に会ったのがお前だ」
男は槍の兵士を指差してニヤリと笑う。
「大臣は……王の右か? それとも左に居た方か?」
そう聞いてはいるが、その答えは知っている。
男が覚えていた……左に居た大臣だ。
槍の兵士の顔色が変わった。
目の前の男が誰だかがわかった様だ。
「おい! 早く大臣を殺せ」
男は槍の兵士にそう告げた。
「躊躇するなよ」
そしてまたニヤリと笑ってやった。
「殺す為に槍を向けているのだろ?」
顔面蒼白の槍の兵士に。
「お前も、直ぐに殺してやる」
男は平坦な声で。
「それとも、俺にしたように生き埋めがいいか?」
そして、肩を竦める。
「生き残れるチャンスが有るかも知れないぞ」
兵士の持つ槍の先が振るえている。
「仕方無い」
男はジュリアを見て。
「大臣を射ぬけ」
そのジュリアはロイドを見て。
「ロイド……構わないよな?」
男はロイドの答えを待たずに。
「この世界では、眼には眼をだろう?」
そのロイドは少し考えてから答えた。
「あなたは、もしかして最初から?」
「イヤ、チャンスが有ればいいな……くらいかな」
男はロイドにも笑ってやった。
「まあ、本命は王だがな」
「少しだけ待って」
マリーだ。
「殺すのには反対しないは、ただ少しだけ聞きたい事が有るのよ」
「だとさ」
男はそのマリーを指差して、槍の兵士に告げる。
「少しだけ長生き出来そうだな……死に場所はソコ、それは変わらないがな」
「貴方は、誰に唆されたの?」
マリーは一歩前に出て、槍の兵士に問うた。
「大臣を殺しても、貴方にメリットは無いでしょう」
返事は無い。
「そう……もしお金なら、ちゃんと現金で貰ったのでしょうね。カードだと、犯罪者は使えなく為るから……数字の所が赤く成るのよ」
マリーは自分のカードを懐から出してヒラヒラと見せる。
「知ってた?」
槍を構えたままで、懐からカードを出してそれを確認した兵士は眼を剥いた。
それは、ゾンビ達も同じだった、その場の全員がガードを凝視して居る。
『嘘よ』
マリーの念話だ。
男が使役している者だけに聞かせるためにだった。
『ただ、ココはまだ銀行の支店が無いから圏外なのよ……犯罪者じゃ無くても、皆、使えないの』
それを聞いてその場の盗賊ゾンビ達全員が、ホッと胸を撫で下ろしカードをしまう。
頭目以外は。
その頭目、額から汗が噴き出していた。
まさか、宿代をカードで払う積もりだったのか?
……。
可哀想に……。
「ついでに言うと、国外でも使えないわよ」
マリーはただただカードを見て驚いて居る槍の兵士に笑顔で。
「大臣を盾に亡命を考えて居たのなら、それは出来ても……あなた、無一文よ。まあ、あなたにお金を渡したその人物もその事は知っていた筈だから……うまいこと、騙されたのよ」
声を出して笑った。
「だって」
指を指して大笑い。
「銀行が無いもの、使える分けないじゃない」
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