第51話 051 襲撃者


 森の中の邪教徒どもが一斉に矢を放ってきた。

 

 「まずい!」

 こちらは道路の上の開けた場所だ、隠れる所がないと慌てた男。


 だが、そんな男を横目に矢の軌道は少しズレた所に飛んでいく。


 「うふぉふぉ、スキル幻想空間じゃ」

 骸骨のサルギン王のアマゴクイが胸を貼った。


 「流石、アマゴクイ様」

 直ぐ様イワナクイがそれを褒め称える。

 「素晴らしい」


 「幻想空間はサルギンの王ダケが使えるスキルなんだよ」

 ヤマメクイが横で男の腰の辺りを肘でつついて。

 「凄いよね」


 男は鬱陶しそうにそれを払って考えた。

 あの水面を造っていたヤツか。

 それと、同じ様に男達の幻想をズレた位置に造ったのだな。

 俺達に見えないのは、変化と違って見る者に作用するのか。


 「今のうちよ、ジュリア達は車に逃げて」

 マリーが男の手を引きトラックに押し込んだ。

 「生身なんだから、当たると痛いわよ」


 「大丈夫!」

 それにはコツメが叫んで返した。

 「ゴーレム達が盾に成ってくれてる」


 見れば、コツメとジュリアとタウリエルを囲って固まっている。

 そのコツメは氷手裏剣を投げまくっていた。

 その隣のタウリエルはソコから矢を放っている。

 ジュリアの武器が無いな……と、唸る男。

 

 「ムラクモ、弓を奪えないか?」

 コツメの氷手裏剣で倒れた賊の持っていた弓を男は指して。

 「ジュリアに渡してやってくれ」


 「ハイさー」

 と、舌を飛ばしたムラクモ。

 それを渋いアランのままでの舌飛ばしをしたもんだからか……とても異様な光景に成っていた。

 その舌で弓を拾い、ジュリアに投げ渡した。

 そして、自身も空中戦に突入して……透明状態で次々と仕留めていく。

 シグレも透明化と高速移動で回り込みながらの攻撃。

 二人はコツメより忍者している気がする。


 セオドアは透明化を使えるのに使っていない。木々を飛び回りながらの何時ものアメコミ攻撃にカラスとネズミとの連携をプラスしていた。

 飛び回るセオドアに複数のネズミが飛び付きそのまま敵に突撃、一撃後にセオドアは離脱するが、その場に残ったネズミが続けて攻撃、そしてカラスが急降下でトドメを刺す。脳天直撃クチバシ! かな?


 木々の隙間を縫い、高い所から突然に現れる敵、奴らには初めての経験なのだろう。屈強な筈の男達が全くに対応が出来ていなかった。


 別の場所では……他のカラスが上に惹き付けて、そこに腰下の低い所から小ロイス達が青竜刀を突き上げてくる。

 賊達に慌てふためく間も与えずにゾンビ達の正面攻撃。ゾンビ達は流石は肉体派盗賊ならではの強さを発揮していた。

 と言うかゾンビだ、矢も剣も気にもしていない。

 それは強いだろう。

 

 その頃には、ジュリアとタウリエルの攻撃がバージョンアップしていた。

 マリーが矢に小さな爆弾を括り付けてランボウに手渡している。

 炸裂ボウか?

 そんな映画があったな。


 そして、敵からの弓の攻撃の恐怖が無くなったのかコツメは前線に突撃していて……もうソコには居ない。

 木々の間を高速移動しながら刀と氷手裏剣でシグレに対抗して居るようだ。

 チラチラとシグレを見ているコツメだった。

 

 ピーちゃんとサルギン骸骨は、変化で敵を翻弄して居た。

 味方の振りをして近付き……ブスりだ。

 

 そんなだからか、敵の包囲陣形は瞬く間に崩壊した。

 そもそも普通の戦闘経験しか無い者達だ、今の男達の敵では無い。

 

 


 そして呆気なく終わった。

 敵の大半は逃げた様だ。

 

 「一つ聞いていいか?」

 男は足元に転がった、死体を見ながら。

 「奴隷狩りって、こんなに大勢で待ち伏せするものなのか?」


 「しないな……」

 頭目が応えた。

 「人数が多すぎる……これではコストが合わん」


 だろうなと男。

 大人数で、何時来るかもわからん者をただ待つ……しかも、人の通りそうもない森の奥、この先はイセオ湖への一本道だ。


 そして、死体の額には見覚えの有る印、以前にカエル達が描いた印だ。

 「奴隷を使って奴隷狩り……」

 それもなんとも奇妙だ。

 「無くは無いだろううが……どうにも府に落ちん」


 「でも、変な宗教なのは間違い無さそうよ」

 マリーがその額の印を指差した。

 「この奴隷印の右下に小さな別の印が重なっているでしょ? これってドール印って言って、完全に自我を無くして人形に成るのよ……そして、そのドール印は本人が望まないと無理なの」


 「この男は、自らそのドールに成ったって事か」


 「自我を無くすと言っても」

 頭目が捕捉。

 「心と意識が主に対して絶対服従に成ると言う事だが」


 バーサーカーとかとは違うのか。

 男の使う使役、名ばかり奴隷と言うよりも、もっと分かりやすく本物の奴隷って感じになるか。

 そもそもの奴隷ってモノが理解出来て居ないが。

 男の感覚では奴隷の中の奴隷……奴隷よりももっと奴隷?

 

 「成る程、邪教か……」

 頷いた男は唸る。

 「信仰のなせる技か」


 「もう一つ」

 頭目が息を飲み込み。

 「自国を盲信した兵士とか……国民とか……」

 トラックの後ろに繋がれた、借り物の馬車を見ていた。


 つまりはテロリストの可能性って事か。

 確かにそんなニュースも元の世界でも有った、体に爆弾を巻き付けての自爆テロとかだ。

 今回のはソコまででは無いが、盲信と言う部分は合致する気がする。


 「本人に聞いて見るか」

 と、男は死体を見下した。


 「駄目よ」

 その男をマリーが止めた。

 「あんた、心を喰われるわよ……邪教にしろテロリストにしろ、確固たる信念の思い込みよ」

 男を睨み。

 「あんたに耐えられる? 訳のわからない教祖様なんて嫌よ」

 フンと鼻を鳴らし。

 「魔王の方が幾らかましよ」

 

 「まあ、テロならこれで終わりと言う訳でも無いだろう」

 頭目もその必要は無いとばかりに死体を蹴飛ばして。


 確かに、目印となる馬車を引いている限りはまた現れるだろうと、男も頷く。


 「そんな奴らを返り討ちも、料金の内だがな」

 そして、頭目は不敵に笑った。


 そんな頭目を見て、いったい幾ら貰ったと男は思う。

 俺は一銭も貰ってないぞ……。

 だがそれは言わない事にした男。

 言えばイザと言う時に逃げられなく成る、それは嫌だ。

 そん時は頭目……お前を置いていくぞ。





 そして、男達はプレーシャを目指すトラックの中。


 男は死体は片付けようとしたのだが、それはタウリエルに止められた。

 森林監視官殿が言うには、そのまま放置して置けば森の糧に成るからと。

 だが、その糧とする殆どは魔物だと思うのだが、それはどうなのだろう。

 等と考えたが、ここは彼女のフィールド……従いましょう。


 取り敢えず使えそうなモノは剥ぎ取って、適当にトラックに放り込んではおいた。


 その中の良さげな弓をジュリアがめでていた。


 「えらく、気に入った様だな、それは良いモノなのか?」

 と、男は迂闊にも聞いてしまった。


 「コレはヨウイチの弓です」

 ジュリアはハッキリと声を出す。

 「業物です」


 「ヨウイチ?」

 男は首を捻って、問いただす。

 「余市の弓……では無いのか?」


 「そんな伝説級のモノがこんな所で転がって居る筈無いじゃ無いですか」

 声を荒げたジュリア。

 「コレはその余市の弓を模したヨウイチの弓です」

 鼻の穴が開きっぱなしだ。

 「伝説の鉄鍛治師、ヨウイチが造った弓なのです、レアです」

 

 「鉄鍛治師?」

 また首を傾げる男。

 「その弓は木で出来てないか?」


 「そうです」

 フンと鼻息を吐くジュリア。

 「木なんです、鉄鍛治師が木だけで造ったのです、とてもレアなのです」


 「高いのか?」


 「いえ、値打ちは……あまり」

 声のトーンを少しだけ落として。

 「みんな見る目が無いのです」

 首を振り。

 「珍しいのに」


 成る程……珍品の類いか。


 「コツメの刀よりは良いモノ……くらいかな」

 もう、男には興味が無い話だった。


 「コツメちゃんのコテツも……素晴らしいモノです」

 もう一段に鼻が拡がったジュリア。


 「虎鉄? コツメが勝手に付けた名前だろ?」


 「いえ、チャンとした小鉄です」

 と、側に居たコツメの刀を勝手に抜いて。

 「ほら、ココ、見てください」

 フン、フン。


 根元部分に小鉄と有った。


 「虎鉄じゃなくて……小鉄」


 「虎鉄なんて、それも伝説級です」

 フン。

 「ロンズデーライトで造られた業物です」

 フン。


 「隕石の欠片のか?」


 「そうです」

 フン、フン、フン。

 「因みにですが、作はヨウイチです」

 フン、フン、フン。

 

 なんだ……ヨウイチか。たいした事……無さそうだ。

 しかし、ジュリアよ、鼻息が……。

 

 フン、フン、ふん、フン、フン、フン、フン……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る