第49話 049 ややこしすぎる


 さて、一応は解決だと、出発の準備を始めた男達。

 今一、後味が良くないが……ロリスの時もそうだが、悪意の無い魔物も居るのだとちゃんと理解しておこうと、改めて思う。

 魔物じゃ無くて、魔人なのかな? それともホボ擬人なのか?

 と、サルギンの方を見た男。


 橋の真ん中にサルギンだかりが出来ている。

 なんだろうと近付けば、マリーが何かを配っていた。


 「いい? もうイタズラは駄目よ」

 そう言いながらに小瓶を渡していた。

 その小瓶には見覚えがある。

 確か防腐剤だ。

 サルギン達は、少しショボくれては居たが、皆素直に頷きながらに飲んでいた。

 その中に交じっていたサルギン王が男に気付いて近付いてくる。

  

 『実は、頼みたい事があるのじゃが』

 サルギン王は揉み手で腰を低くしてだった。


 「なんだ? 言ってみろ」

 男はイキナリに声を掛けられて面食らっていた。


 『我らの祖先に、伝説の王が居るのですが……』

 と、サルギン王は対岸の方を指差し。

 『その王、夜な夜な墓場から抜け出しては、通り掛かる者にイタズラをするのです』

項垂れて……ため息を一つ。

 『得意の人間のお婆さんに化けて』

 

 「もしかして、背の低い男を探していた? あれか」


 『そうです』

 頷き。

 『霊力が高いのか、死んでもなをイタズラが辞められん様で』

そして首を左右に振る。

 『今回も、その王と一緒になってイタズラを始めた者が事の発端と成っております』


 あの婆さん、死んだサルギンが化けていたのか……あれ? 

 じゃ……結局は……幽霊?

 背中が、ゾワゾワしてきた男だった。


 『で、頼みたい事なのですが』

 背の低い事を利用して上目遣いに男を見るサルギン王。

 『その王を、起こして貰いたいのです』


 「起こす?」


 『あなたなら、ソレが出来よう?』

 ニヘラと笑い。

 『どうせ夜な夜な勝手に出てくるのじゃから、起こして、出来ればそのまま連れていってくれんかの?』

 

 なんだ? 迷惑でもしていたのか?

 厄介払いか?


 『わし等は……その、ここからは離れたくないので……出来ればその王だけで、勘弁して欲しいのじゃが……無理じゃろうか?』

 後半の方はボソボソと。


 ああ、代わりの者をと、言う事か。

 元々、ここの者を連れて行く積もりも無かったが。

 その話に乗っかっておこう。面倒臭いし。

 「いいよ」

 男はそれに頷いた。

 「セオドア、頼めるか?」

 と、対岸の墓場まで運んで貰らう。


 墓場の真ん中。

 奥に一段大きな墓がある。

 男はその墓を指差し、サルギン王に確認。

 頷いたのを見て。

 その前で集中。

 うん、誰か居る。

 と、呪文を掛けた男。


 すると墓の前の土が盛り上り、そして割れて、崩れて小さな骸骨が這い出してきた。

 サルギンの骸骨、人の子供位の背丈程で背中にはヒレもある、が、それ以外はそのまま猿の骨か?


 『うお、久し振りの昼間だ……眩しい』


 カタカタと動く骸骨に。

 『ご先祖様、お願いが有ります』

 今のサルギン王が骸骨に膝ま付く。

 『この者を王の王として使えるに当たりまして、我が偉大なる王の中の王のあなた様にこの者、王の王の従者をお願いしたいのです』


 なんだろう、ややこしい……そんな話だったか?


 『この者が王の王なのか……うん確かにワシも使役しておる様だ』

 サルギン王の骸骨は男を見て頷いた。

 『それが王の中の王の使命と為れば仕方のない事なのか』

 そして今のゾンビのサルギン王に片手をかざして一言。

 『良いぞ、わかった』


 伝説の王は、軽いな。


 『では、ワシからも一つ条件を着けたい』

 その骸骨サルギン王は今のゾンビのサルギン王に大仰に。

 『ワシの従者を一人付けて貰えぬか?』


 『王の王の従者に従者ですか?』

 今のゾンビのサルギン王。

 『どの様な者をお連れしますか?』 

 少し、困り顔にも見える。


 『うん』

 骸骨サルギン王は少し歩いて。

 『この者かな?』

 と、墓の前に立ち指差した。


 それを見てホッとするゾンビのサルギン王。

 『王の王よ』

 男を見て。

 『お願い出来ますか?』

 また上目使いに、今度は猫なで声で……猿なのに。


 男は鬱陶しそうに頷いてやる。

 サッキからややこしすぎる。

 そして呪文を唱えた。


 『ここは』

 地面から這い出した骸骨が辺りを見渡し。


 『おお、イワナクイ』

 骸骨サルギン王が抱き付いた。


 今、這い出した骸骨はその骸骨サルギン王を見て。

 『サルギン王、私はヤマメクイです』

 両手で骸骨サルギン王を引き剥がす様に押し戻し。

 『イワナクイは、そちらです』

 と、王の墓の反対側を指した。


 『あ! 間違えた』

 ソッと上目使いに男を見る骸骨サルギン王。


 ハイハイと、男はまた呪文を唱えた。


 『おお、久し振りだのう、イワナクイ』

 仕切り直した骸骨サルギン王。


 『これはお久しぶりです、サルギン王こと、アマゴクイ様』

 また這い出して来た骸骨は、今度は骸骨サルギン王の前で片膝で膝ま付き。

 『で、私をお呼びになったのは何用ですか?』


 『ウム、この度、この者サルギンの王の王に付いて行く事に成ったのだが、ヌシも一緒に着いて参れ』

 アマゴクイ様と言われた骸骨サルギン王はその三匹目の骸骨に告げる


 『左様で』

 膝ま付いた骸骨はそのまま頷き。

 『ご一緒致しましょう』


 『あの』

 ヤマメクイこと、間違えた方の骸骨。

 『私は……』

 骸骨の元サルギン王のアマゴクイを見て、イワナクイを見て、現サルギン王を見て、男を見た。

 

 骸骨の元サルギン王は男を見る。


 「いいよ」

 もうどうでも良いとばかりに頷く男。

 結局は三人の骸骨を連れて行く事となった。






 そして……イセオ湖を後にして、森の中を進むトラックの中は大騒ぎだった。

 

 「私に化けるのは辞めなさいよ」

 叫び声。


 男がそちらを見ればマリーが5人。

 あれ? 指を折って数える男。

 1人多くないか?

 本人、多分これと指差す。

 アマゴクイ……伝説のサルギン王、迷う指。

 イワナクイ……その従者。

 ヤマメクイ……そのオマケ。

 あと1人のマリーが居る。

 誰だ? もう一人着いて来たのか?

 

 「ぬふょほう、悩んでおるのう」

 偽マリー1号。

 「数えていましたね」

 偽マリー2号。

 「ヒントはサルギン族は3人のままです」

 偽マリー3号。

 「こら、バカ言うで無い」

 偽マリー1号。

 「大丈夫です王様、まだわかっておりません」

 偽マリー2号。

 「ウキー」

 と、鳴いた偽マリー4号の口を寄って集って押さえ込む。


 「ウキー?」


 「その若干デカイ私は、ロイスよ」

 と、液体を霧状にして振り撒いたマリー。

 「強制変化解除薬よ」

 ニヤリと笑い。

 「今、造ったホヤホヤ」


 それを掛けられた4人は各々に戻る。


 「くわー、面白いとこじゃったのに」

 悔しがる元サルギン王ことアマゴクイ。

 「そんなモノを造ってしまうとはお見それしました」

 頭を下げたイワナクイ。

 「でも、ちょっと卑怯な感じするよね」

 ヤマメクイ。

 「ウキー」

 ロイス。


 ロイス……そのウキーはなんだ、お前は普通に念話で喋れるだろう。

 あ、そうか、念話じゃバレるから、ウキーか。

 ……。

 イヤ、そんな事じゃない!


 「何故、ロイスが化けられる?」

 男はロイスに指を立てて叫んだ。

 「俺はサルギンから1個もスキルを取って無いぞ」


 「フフン、ワシがくれてやったのじゃ」

 サルギン王が少し偉そうに胸を張って。


 「サハギンの王ダケが持つスキルの下賜です、自身の能力等を配下に分け与えるスキルです」

 それをイワナクイが捕捉してくれた。

 

 「スキル猿真似は、そうやって皆に配るから、皆が持っているの」

 凄いでしょう、と、ヤマメクイ。


 ああ、そうか。

 同じ高等スキルを全員が持ってるのは、本来は不自然なのか。

 それを配れる能力があってこその事かと納得の男。

 

 「その猿真似」

 コツメが横から。

 「私も貰ったけど、駄目だった」

 チョッとガックリ。


 「私達も貰いました」

 コツメが3人……だがもうわかった。本物以外の二人はカエル達だ。


 フードからもちっちゃいジュニアマリーが飛んで出る……蜂達にもか。

 ピーちゃん、カラス、ネズミもだ。

 それらはサイズは変えられ無い様なのですぐわかる。


 「基本、魔物向け見たいね」

 マリーは目もくれずにボソリと。

 「例外も居るけど」

 そして、外のバスを指だけで差す。

 

 運転手がリリーに成っていた……フローラルか? 

 でも何故にリリーだ。


 「フム」

 男は頷き。

 「わかった」

 皆を見渡して。

 「これからは、変化は禁止だ!」

 こんなもの、ややこしすぎる!





 「やり過ぎればポイントが減る!」

 拳を握って上を向く男。


 ?

 「ポイントってなに?」

 その場の全員の合唱。


 なんだろう……俺もわからん……。

 「さー?」

 と、首を捻った男だった。

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