第17話 017 落少女注意


 盛大に燃えるクモの巣を避けるため。

 裏通りとビルの裏口を駆使して回避し……。

 ダンジョンの出口。

 来た道の反対側の道に続くビルを見つけ出して、異世界の廃墟のダンジョンを抜ける。

 その間、別の魔物とは遭遇していない。

 あの蜘蛛達が食ってしまったのだろうか? 

 それとも追い払っただけか?

 どっちでも良いのだが、男達にはラッキーだった。

 もう暫くは魔物はいらない。

 お腹いっぱい。

 

 そんなこんなで、ダンジョンを攻略した男達は、ドワーフ村を目指す。

 残念な事に、ここからは徒歩でだ。

 あそこに有った車を、ダンジョンから出す方法が見付からなかったのだ。

 見付けた出口はやはりか、何処かのビルのスッパリ切れた一室。

 そして高低差もキッチリ三階分だった。

 ダンジョンの地面の方が低いのだ、逆ならまだ遣りようも有ったのに……。

 本当に……残念だ。


 等と考えながら、峡谷の底の様な道を歩く。

 つまりは退屈なのだ。

 景色は左右と地面を含めても茶色い地面。

 唯一青い空は、いくら見上げていても何処にでも有る代わり映えの無い空でしかない。


 男は暇をもて余しながらに。

 「コツメの忍術、アレは凄いなー」

 一人でニタニタしながら歩くコツメに声を掛けた。


 「チィっ」

 マリーの舌打ち。


 「凄いでしょう」

 ソレを気にもせず、刀に電気を帯びさせて。

 「雷電斬り!」

 歩きながらも、それをやって見せる。


 「ああ、ソレじゃない、氷のヤツだ」

 男は手を前で振り。


 「氷手裏剣?」

 と、今度は氷のナイフを造り出す。


 「そうソレ! その氷はどうやって造ってるんだ? 汗とか? コツメの体液とか?」

 凄い凄いと、わざとらしく食い付く男。


 「何ソレ、そんな分けないじゃん、空気中の水分を集めて凍らせてるの」


 「ほう、氷魔法はそんな事も出来るのか」


 「氷手裏剣!」

 しっかり訂正してくるコツメ。ソコは……こだわりか?


 「少し見せてくれ」

 と、男は氷のナイフを手に取り……そして、舐めた。

 「おおおお、冷たくて旨い」

 

 旨い事やるわねと、マリーも思ったのだろう。

 「チョッと……私にも頂戴よ」


 「いやー」

 っとコツメは、もう1本の氷を造って自分で舐め始めた。

 「本当だ、美味しい」


 「チィっ」



 そんなやり取りをしつつ、3日歩いた。

 峡谷を抜け、草木一本も無い荒野を通り、やはり岩肌の剥き出した山を登る。

 その間、町はおろか村1つ無く、それどころか人っこ一人出会わない。

 魔物もダンジョンから離れると途端に弱くなる。


 「この山よ」

 ヘトヘトの泥々のマリーが指差した先には、これまた草木も生えていない山がそびえる。

 「やっとよ……あと一息」

 

 「ここらで休もうか?」

 山の麓、コレから始まる山登りにウンザリしつつ、適当な岩に腰を落とした男は皆に号令。


 剥き出しの山肌からパラパラと小石が転がり落ちてくる。

 パラパラ……。

 バラバラ……。

 ゴロンゴロン……。

 少し大きめの岩が男の足元で止まった。


 「危ないな、落石注意の看板が要るんじゃ無いのか?」

 上を見上げつつ男は呟く。


 そこに。

 「きゃー」

 ゴロゴロ……ズサー……。


 「落少女注意の看板も必要見たいね」

 マリーの座っている目の前に、少女が転がり落ちて来た。


 「チョッと、大丈夫?」

 足元の少女を見下ろしてマリーが声を掛けた。

 しかしその少女。

 返事が無い。

 絶賛気絶中。


 「う~ん」

 マリーは男を見て。

 「治療してあげなさいよ、大した怪我でも無いけど傷だらけだし」


 「へーいい」

 男は適当な返事を返して、うつ伏せにベチャっとひっくり返った少女を起こし、表裏満遍なく平手打ちした。


 柔らかい女の子の感触、少しポッチャリしているのか? 着痩せしていて分からなかったが胸も大きめだ。

 ついでに顔のホコリも払ってやった。

 長い黒髪の綺麗な顔をしている。


 「起きないね?」

 コツメが覗きに来た。


 「コツメ、氷」

 と、男はコツメに手を出す。


 その手にハイっと氷を乗っけて。

 「どおするの?」

 と、尋ねるコツメ。


 「こうする」

 と、男は少女の口の中に氷をねじ込んだ。


 ゲホッ……ガホッ……。

 咳き込みながら眼を覚ました少女。


 「雑ねえ」


 「大丈夫か?」

 マリーは無視して少女に声をかける男。

 

 少女は男の顔を見て、素早く距離を取り極力小さくなりながら。

 「xxxxぃxx、ぁxxxぉxxぃxx……」

 そして発した言葉も小さかった。


 「はっきり喋りなさい! 聞こえないわよ!」


 マリーに怒鳴られた少女、ビクッと身体を震わせて

 「有り難うございます」

 聞き取れはしたが、ソレでも小さな声。


 「やれば出来るじゃない……さっきとは随分と短く成ってる様だけど」

 マリーはソレでも十分としたようだ。


 「そ、それでは、失礼いたします」

 ボソボソと言い、少しづつ後ろ手に離れて行く少女。


 そんな少女に。

 「待ちなさいよ」

 叫んで呼び止めるマリー。

 「あなた、ドワーフでしょ」

 と、ズンズンと近付いて行く。


 前後に並ぶとマリーよりほんの少し大きい位の背丈の少女は、イキナリのマリーの態度に硬直したような直立不動に成り。

 「はい!」

 その返事は裏返っていた。


 「私達、ドワーフ村に行きたいの」

 キッと睨み。

 「あなた、案内しなさい!」


 「はイー……」

 昭和のスケバンに睨まれた小学生みたいに成っている少女。

 そのスケバンの方は……10才の子供なのに。


 「あんた、名前は?」

 マリーはわざと、ドスを効かせてる?


 「ジュリア・カエサル……です」

 名前を聞かれただけで、キョドりスギだ。


 「カエサルですって?」

 マリー、目が怖いぞ。

 「ジュリアス・カエサルって知ってる?」


 「御先祖様です……村の英雄です……です」


 「あんた! ジュリアスの子孫?」

 ギロリ。


 「はイー……です……です」


 「ちょうど良かったわ、あんたん家に用事よ」

 ふんと鼻息を飛ばして。

 「連れて行きなさい!」


 「え……えー……エー」


 「えっ、じゃない」

 指を少女の顔の前に立てて。

 「つ、れ、て、い、き、な、さ、い」


 ジュリアと名乗った娘は半泣きだった。


 「マリーちゃん、もうチョッと優しくしようね」

 男に出来る精一杯の優しげな声で。

 「ジュリアちゃんも、怖くないよ~……大丈夫だよ~」

 男は自分で自分が気持ち悪くなるの抑え込む。




 マリーはジュリアを半ば強引に引っ張り、先を急いだ。


 「ジュリアスが英雄ですって? 信じられない」

 マリーはブツブツ言いながら。

 「子孫? 確かに生きては居ないか何百年も経っているし」

 まだブツブツ。

 「あのスケベのハゲが英雄?」

 ブツブツ。

 「ブツブツ……」

 ブツブツ。


 そのブツブツを聞いたジュリアが不思議そうにしていた。

 まるで、会った事がある様だと。

 しかし、ソレを質問として、マリーには聞けない様だ。


 教えてやるか?

 マリーが何百年も昔の人間だって……。

 辞めといた方が良いか、ゾンビだってわかってしまう。

 俺がネクロマンサーってのも一緒に。

 その2つは普通に考えて、他人に知られない方が良い事だろうし。

 う~んと唸る男。


 そんな男を指差して。

 「チョッと、何をブツブツ言ってるのよ」

 マリーに言われた。マリーに。


 「ところでジュリア、あんたは何で落ちてきたの? ドワーフは鉱山とか崖とかは得意な筈でしょ」


 「……あ……う……え」

 返答には時間が掛かりそうだ。

 

 「ドワーフってそうなんだ」

 変わりに男が返事をしてやる。

 見ているとなんだか可哀想に成ってくるモノが有るのだ。

 美人なのに……。


 「あと、炭鉱も得意でしょ」


 「はイー」


 「ハイじゃ無いわよ」

 イライラし始めたか? わかるけど。

 「だから! 何で落ちてきたのって聞いてるの」


 「あ……う……」

 何だかわからない言葉と、何だかわからない身振り手振り。


 「あー」

 それを見ていたコツメが。

 「成る程」

 と、頷いた。


 「わかるのか!?」

 驚いてコツメを見る男。


 「崖で鉱石を採取しようとしていた時に、魔物と出くわしたんだって」


 ジュリアがコツメを見て、ウンウンと小刻みに頷いた。


 アレで何故? わかる!


 「魔物?」

 眉をひそめるマリー。


 ジュリアがおどおどと指差した。


 全員が見る。


 「何も居ないじゃないか」

 皆もソレに同意する様に頷いた。


 「あう……あう……」

 言葉には成っていないが、ジェスチャーは大きく成ってきたジュリア。


 「姿を消せる……トカゲ? って言ってる見たい」

 その意味不明な言葉を翻訳してみせるコツメ。


 だから、何故わかる?


 『敵3体発見! 前方スグに透明化にて潜伏中』

 男の頭に蜂の警報が鳴った。

 『攻撃許可を求む』


 男はその方向を……ン!? と、もう一度目を凝らして良く見る。

 小石が規則的にパラパラと落ちてくるだけだ。

 それは魔物が歩いた振動でか?

 確かに規則性は見てとれる。


 「見えない……」

 しかし魔物は全く姿がない。


 『熱源反応有り、目視確認出来ず』


 蜂のピット気管でわかるのか……厄介そうだ。


 「蜂部隊につぐ、攻撃を許可する威力攻撃を開始せよ」


 男の頭の上で待機していた蜂達が一斉に飛んで行く。


 「私達は?」

 コツメが刀を抜いて構えた。


 「お前達は……一旦待機だ、見えない敵に飛び込むのは危なすぎる」

 それを片手を横に出して制止する男。


 「蜂達だけで勝てるの?」

 マリーが心配そうな声を出す。


 「わからん、戦況が見えん」

 男はもう一度その方向に目を凝らして見るが……やはり見えない。

 「せめて何か目印でもあれば」


 その男の声に反応したコツメが地面の砂を掴み投げた。

 ほんの一瞬、砂がトカゲの形に成り姿を現すが、しかしすぐに地面の色と同化して見失う。


 「駄目か!」


 「良いアイデアだと思ったんだけど」

 コツメも悔しそうにした。


 「ああ、イヤ良いアイデアだ!」

 男はセオドアを見て。

 「蜘蛛の糸だ、巻き付けられないか?」


 『まだ、こんなだ』

 セオドアは首を横に振り、それでも手から蜘蛛の糸を出してみせる。 

 だが、それは落ちて足元に溜まるだけ。


 「飛ばせられないのか……」

 ウーン唸る男。

 「イヤ、ソレで良い」

 しかしすぐに何かを思い付いた。

 「蜂に命じる、特殊任務だ精鋭を三名選出せよ」


 ブーン。

 飛んできた蜂に。

 「この糸をトカゲに巻き付けろ! 行け~」


 糸の端を掴んだ蜂が飛んでいく。

 セオドアも理解したのかどんどん糸を出す。

 蜂達も戦線を維持しつつ、順々に糸を掴み巻き付けていった。


 そしてトカゲは糸で形を露にされた。


 「ムラクモ!」


 『ハイ! 旦那!』


 男の指示でムラクモはカエルの舌で一匹だけをを引き寄せて、その場で全員での袋叩き。

 マリーまでソレに加わっている、持っている武器は……スリコギ棒。

 暫くすると、トカゲの透明化が解けた。

 緑色の体色をさらしてノビていた。

 倒したようだ。


 「次! 2匹目」マリーがムラクモに指示をだす。


 『ハイさ~』


 二回目の袋叩きが始まった。


 調子に乗ったマリーは、一番近くでポカスカやっている、スリコギ棒が一番短いのだからそうなるのは仕方が無いのか。


 「マリー! 危なくないか?」


 「大丈夫よ!」

 ポカスカと、調子に乗って馬乗りにまで成っている。


 そして案の定……弾き跳ばされて来た。

 男とジュリアの足元に。

 「ブべっ!」

 服がはだけて、プリっとした桃色の尻丸出しで。

  

 「可愛い……」

 その尻を見たジュリアの感想。


 マリーはキッとジュリアをヒト睨みして。

 また戦線に走りより、袋叩きに加わった。




 終わってしまえば呆気ない。

 姿さえ見えればソンなものなのか、弱い魔物だった。

 

 そのトカゲ3体を足元に、スキルを出す。

  消音が3個。

  透明化3個。


 男は少し考えて。

 ムラクモにシグレにセオドアかな? と、三人を呼びスキルを渡した。


 「どんなスキル?」

 コツメが興味津々に聞いてくる。


 「透明化でしょ」

 マリーはそんなコツメに分かりきった事をと。


 「ソレと消音だ」

 男は補足した。


 「あらー、忍者っポイわね~」

 マリーはニヤケた顔でコツメを見ながら。

 「残念ね~」


 「あ! 私が欲しかった! ずるーい」

 慌てるコツメ。


 「あんた、元々無理でしょ、獣人なんだから」


 「ウー……」

 その顔はとても悔しそうだ。


 ソレを見るマリーの目が笑って居た。


 


 「さて、邪魔モノも居なくなった事だし、ジュリア、早く案内しなさい」


 そのジュリアはセオドアと何やら話をしている。

 セオドアの出す糸を見て、感心していた。

 人と話すのは苦手な様だが、ぬいぐるみのセオドアとは普通に話せる様だ。

 ……。

 ……!?


 「セオドア! 話せるのか?」


 「ン! 話せちゃイケないのか?」

 セオドアが方眉を上げつつ。


 「イヤ、ずっと念話だったから」

 何故?


 「そっちの方が楽だからだよ」


 「それだけ?」


 「ソレだけじゃ悪いか」

 

 「ゴーレムだから喋れるわよ」

 マリーは知っていた様だ、さも当然と。


 さいですか、肩を竦めて

 「セオドア、ジュリアに道案内を頼んでくれないか」

 コツメの通訳でも良いのだが……直接話せるならその方が良いと男は頼んだのだ。


 


 ジュリアとセオドアを先頭に暫く山を登ると頂が見えてきた。

 そんなに高い山でもなかった様だ。

 その頂の向こうに黒い煙が数本上がっているのが見える。


 「あの煙は?」


 セオドアがジュリアと何か話し。

 「村の熔鉱炉の煙だとよ」

 通訳か? 

 男はセオドアに通訳を頼んだのだが、それでも違和感は拭えない。

 ジュリアも同じ人属の言語を話す筈なのに……だ。

 

 「熔鉱炉?」

 いい加減、イライラし始めた男だが……そこはグッと堪えて。


 「ドワーフは鍛冶が得意な種族だからでしょ」

 マリーが指折り数えて説明し始めた。

 「鉄工、ガラス、革、木工、その他もろもろ、造るモノ全部だけど、特に鍛冶師が多いわね」


 「職人の村か」

 成る程と男。

 

 と、頂きにたどり着き、村を見渡せる様に成った。

 !

 見覚えのある景色。

 建物は低いが……ビルだ、そのビルから煙が出ている。

 元の世界の町。


 「ダンジョンじゃ無いよな?」

 男の声は混乱していた。


 そんな男に向き直ったマリー。

 「大丈夫よ、昔に私と仲間達が作った村よ」


 「え?」


 「魔物を倒して、結界を張ったの」

 ジュリアを見て。

 「その娘の御先祖様とか言うジュリアスに頼まれてね」

 中央の違和感のある建物を指し。

 「魔光式の結界よ」

 塔のような、太い煙突の様な建物だった。

 「その時の料金をまだ貰ってないのよ」

 ニヤリと笑い。

 「キッチリ回収させて貰うわ」

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