第18話 018 取り立て屋マリー
「サア、キッチリ耳を揃えて返しなさい!」
魔法の証文を手に、マリーがジュリアのお祖父さんに迫っていた。
ドワーフの里に着くなり、ジュリアの家に直行したマリー。
家長はお祖父さんであると教えられると、債務者だと判断したらしい。
「お嬢さん、いきなりなんだい?」
しかし債務者であるお祖父さんは、マリーを債権者とは見ていない様だった。
ごっこ遊びに付き合う近所の気の良いを好好爺を演じている。
「あんた、ジュリアス・カエサルの子孫でしょ」
そのお爺さんに凄んで見せるマリー。
「確かに、ジュリアス・カエサルは我が家の御先祖様だ。大変名誉な事だ」
頷き、頷くお爺さん。
「だから、お金返せ」
証文を突き付ける。
「良く出来た証文だね。お嬢ちゃんが作ったにしては出来すぎか? 誰に貰ったんだい」
頷き、頷く。
「本物よ!」
証文を偽物と言われてコミカミをピクピクとさせたマリーは、お爺さんのそのニヤケた顔の前にソレを突き出した。
「そうか、そうか」
頷き。
「しかし、そのジュリアス・カエサル様はもうこの世には居ないのだよ。居ない人にはお金を貸すのは難しい事だ」
頷き。
「居たときに貸したのよ」
「もう何百年も前に死んでしまったのだよ。お嬢ちゃんの産まれる前の遥か昔の事だぞ」
頷く。
「ソノ昔のジュリアスにお金を貸したのよ」
マリーの顔が赤く成り始めた。
「そうかい、お嬢ちゃんは長生きなんだね~」
頷き。
「そうやって誤魔化すつもり?」
頭から湯気が立ち上ぼり始めたマリー。
「もういいわ! 代金を払わないなら現物を回収させて貰うわ!」
ドタバタと足音をさせながらジュリアの家を飛び出した。
「オヤオヤ……もうお仕舞いかい? 最近の子供はマセた遊びをするもんだね~」
頷く。
「あんた達! 何をぼさっとしてるのよ! 行くわよ!」
マリーは家の外から叫んだ。
あんた達とは俺達なのだろうなと、肩を竦めて着いて出る男。
ジュリアの家を飛び出して、ズンズンと里の中央にそびえ立つ魔光炉の元へと向かって歩いて行くマリー。
「ナニよ! ヒトの事を馬鹿にして! もう知らない、覚えてらっしゃい」
ブチブチ……ズンズン……スタスタ……ブツブツ……。
魔光炉の入り口前に立つと、マリーは大声で。
「ゴーレム達! 集合!」
? と、その声を聞いたセオドアが男を見る。
違うと思うぞと、男は首を傾げて見せた。
その時、魔光炉の扉が開き見覚えのあるゴーレム達が出て来た。
規則正しく整列してマリーの前に並ぶ。
「マリー様、なに用でしょうか?」
先頭のひときわ大きなゴーレムがマリーに向かって頭を下げた。
「ここでの仕事は終わりよ! みんな! 撤収!」
ゴーレム達の前に仁王立ちのマリーが大声で叫んだ。
そのゴーレム達は、全員で静に頷き。
「わかりました。魔光炉はどうしましょうか? このまま稼働させておくのは 危険かと思いますが」
「そうね……放置してメルトダウンでもされたら、目覚めが悪いわね」
! メルトダウン! 原子力発電? 大事じゃん!
男は突然に出てきたその単語に驚いた。
元の世界で聞いた事の有る言葉だ。
そしてその意味も知っている。
「すべて、停止させて!」
マリーはゴーレム達に指示を出す。
「通常停止の場合、丸1日程の時間が掛かりますが」
それに先頭のゴーレムが質問で返す。
マリーの命令に拒否をしたのでは無い。
その遣り方を聞いたのだ。
それは、ここのゴーレム達はマリーの命令には絶対服従とその事を示すようにも見えた。
「魔光炉スクラムで停止させて」
「なに? スクラムってなに?」
コツメが聞いた。
「緊急停止の事よ!」
マリーはコツメに対して邪魔しないで感を丸出しで言い放つ。
ほう、緊急停止の事をスクラムって言うのか! と、ここにいる全員が思った筈だ。
何故なら男もそう思ったからだ。
そして、余り緊張感が無いのは……その魔光炉スクラムってのが、メルトダウンを回避する為の安全に配慮したモノとも理解出来たからだった。
「直ちにスクラムを開始します」
全ゴーレムが魔光炉の中に戻っていった。
「まるで原子炉……」
思わず口に出た男。
ソレっぽいのだろうとは思っては居たが……段々と……ポイでは無くて、ソレそのモノにも見えてきたからだった。
「そりゃそうね元の世界での原子炉をモデルに作ったのだから。高圧縮魔石結晶を魔法分裂させるのよ」
ゴーレムの作業を待つ間の暇潰しだろうか? 男の呟きにも答えてくれるマリー。
それとも男の呟きが賛辞にでも聞こえたか?
詰まりは今の説明は自慢?
「ソレをマリーが作ったのか?」
どちらなのだろうかと男は確かめたくなった。
「コレはそうね」
魔光路を指差したマリーは胸を張る。
「でも、魔光炉自体は、遥か昔の錬金術師が開発したのよ……ソレを模しただけ」
「イヤ、じゅうぶん凄い!」
本来のマリーなら原爆でも作れてしまうかも……怖っ!
そして……自慢の方だった!
ソンな会話をしていると、先のゴーレム達が戻ってきた。
「スクラム完了しました」
と、整列する。
大、中、小のゴーレム、小のヤツはそのまんまマリーの病院に居た奴だ。
「? 数が足らないわね」
ひ、ふう、みい……と、ゴーレムを数えたマリー。
「3体が機能停止の状態です」
そんなマリーを見て先頭のゴーレムが報告を入れた。
「何故? 何があったの?」
「2体は、事故により損傷です」
と、マリーの目の前に粉々の瓦礫と、肩から斜めに真っ二つのゴーレム……それと、見た目どこも変わり無いが動かないゴーレムが運び出されて来た。
「1体は、原因不明の停止です」
粉々のはわからないが、それ以外の2体は小のヤツだ、多分……身長1メートルって所か。
それぞれをマリーが調べ始める。
「粉々の方と割れてる方は……魔核が駄目ね」
「魔核?」
何ソレ?
「これよ」
割れてる方の胸の辺りを差すソコに、赤色の水晶の様なモノが割れていた。
「貴方の造るゴーレムの魂を、人工的に再現したものよ」
「成る程、確かにソレっぽいのが他のゴーレムにも入ってるのがわかる」
動いてるゴーレム達の胸の中にソンな感じのが在る、ソレが男にはわかった。
「こっちは……どこも壊れて無いわね……わからないわ」
見た目は何処も壊れていない方のゴーレムを見下ろして、顎に手を当てて考えるマリー。
「イヤ、そいつには魂がないぞ」
男は教えてやった。
「無い? どう言う事?」
マリーは驚いて男を見た。
「うん無い。コイツだけ魂が無い。理由はわからん」
男にはそれがわかるのだった。
「ウーン」
腕を組み唸るマリー。
「本人に聞いてみるか?」
と、男の提案。
「そうね、そうしてくれる」
それに頷くマリー。
ゴーレムをゴーレム化する……なんか変な感じ……。
しかし、呪文はちゃんと浮かび、魔方陣も出る。
出来るという事も壊れたゴーレムを一目見てわかった。
ゴーレムの真下で光る魔方陣。
そしてムクリと起き上がった、一体のゴーレム。
外見上は壊れて居なかったヤツだ。
「ふあ? あれ? ここは……」
寝惚けたゴーレムを初めて見た。
「ねえ、聞きたいんだけど」
いきなり本題のマリー。
「ん? 貴女は? どなた?」
「マリーよ!」
「マリー様?」
起きたばかりのゴーレムは小首をかしげて。
「マリー様はもっと妙齢で美しい方です」
「今はワケあってこの身体なの」
「そうなのですか? このチンチクリンがマリー様?」
ゴーレムのボスに確認。
頷くボス。
先頭のヤツがボスなのか……。
「失礼な奴ね!」
と、ゴーレムを睨んだマリー。
ゴーレムってのはドレもコレもこんな感じなのだろうか?
まあ、見た目も区別の付き難い土塊なのだし……性格もみんな、ああ成るるのだろうか。
男は首を捻る。
しかし今、起きたばかりのコイツ以外は普通の対応をしている気もする。
他のは主人で有るマリーがここに居るから本当の性格を隠しているとか?
でもソレだと……コイツは?
もう一度、起こした方を上から下まで見た男。
やはり首を捻るしかない。
男がそんな考察を続けていると。
「おい! どうなってんだ? いきなり魔光炉が止まったぞ!」
ゾロゾロと四方からドワーフ達が集まってきた。
「熔鉱炉にエネルギーが来ないじゃないか! どうしちまった?」
魔交炉の上を見ると、黒い煙が消えている。
「ン! ゴーレムども! なにサボってやがる、仕事しろ! 停まってるぞ!」
先頭のひときわゴツイ……ドワーフ。
背はやはりか、低めだ。
「私が停めさせたからよ!」
そのドワーフの前にズイっと出たマリー。
「なんだ! 嬢ちゃん、なんの冗談だ!」
語気が荒い先頭のドワーフ。
「早く、戻れ! 魔光炉を動かせ! 仕事に成らねえだろうが」
ゴーレム達を怒鳴りつけた。
しかし、ゴーレム達は動く気配が無い。
「おい! お前か! 何かしやがったな!」
ドワーフの一人が男に食って掛かってきた。
少しだけ華奢に見えるが……ドワーフはドワーフだ。
体の筋肉のゴツさが少しだけマシな程度だった。
そしてそのドワーフの言葉が合図と、その他のドワーフが一斉に男を見る。
えええ……俺のせいか?
ってか、みんなエラク殺気だってきたぞ。
「おい……マリー、どうすんだ? これ」
男は少し腰が退ける。
フンっと鼻で笑ったマリーが。
「ゴーレム達! ヤッてしまいなさい」
その号令で、先の復活した失礼なゴーレムだけを残し、ドワーフ達に詰め寄っていく。
「なんだ! お前ら! やろうってのか?」
ドスを効かせた声だが、ジリジリと下がっていく。
ゴーレムは男達を怪我をさせたくないと考えてか、ゆっくりとジワジワ距離を詰める。
一応の倫理観は有るのだろう。
一触即発状態。
「おい! 辞めんか! コレはいったい何の騒ぎだ?」
初老の男が出て来た。チョッばかりに偉そうだ。
「村長、この男がゴーレム達をかどわかしやがったんだ」
さっきの華奢な奴だ、男を指差す。
どうしても俺のせいにしたいらしい。
「俺は見たぜ! その男がゴーレムに変な魔法を掛けてたのを!」
また別のドワーフだ。
「魔法?」
村長と呼ばれた初老の男。
「それが本当なら、穏やかでは無いな」
「ああ、魔方陣の光が見えた」
頷いた村長、男を見て。
「あんた、何をした」
ギロリと睨みを効かせながら。
「俺はこのゴーレムを」
脇に立つ失礼な方のゴーレムを指し。
「蘇生……イヤ、修理しただけだが……」
眉を寄せた村長が、瓦礫の山と真っ二つのゴーレムを一瞥して。
「ソレをか? あんたが壊したんじゃ無いのか?」
「調べればわかるわ」
マリー。
「壊れてから、数十年か、数百年は経ってる」
鼻で笑いながら。
「あんた達、職人でしょ……見てわかんないの?」
「確かに今、壊された様では無さそうだ……」
マリーを訝しむ村長。
「しかし、このゴーレムを治せる事が出来るのか?」
「造ったのは私だから、直せもするでしょうよ」
フンっと鼻息一つ。
「お嬢ちゃんが?」
「サッキから皆でお嬢ちゃんとか言うけど、見た目で判断しないでくれる」
「しかし、このゴーレム達は……もう何百年もココに居るが、お嬢……貴女はそんなに長生きなのか? 到底信じられんが?」
「この魔光炉を造った程の大錬金術師マリー様なのだから、可能なのでは?」
と、男は適当な事を言ってみる。
「コレを造った!」
村長はマリーを見て。
「ソレが本当なら……」
唸り。
「イヤ、確かに村の言い伝えの中にマリー様と名前が残って居る」
マリーがスタスタと魔光炉の入り口に近付き。
「ココに在る定礎石を見なさい」
と文字の書かれた石板が建物に埋め込まれているソレを指し。
「私の名前が彫って在るわよ!」
「イヤ、確かにそうだが」
どうにも信じられんとそんな顔か?
「貴女がそのマリー様かどうかは……」
「面倒臭いわね!」
今度は、割れたゴーレムの側に立ち。
「コレを治して見せれば良い?」
「治せるのか?」
チョッと心配に成る男。
そんな男を見て村長が。
「こちらの方は?……」
ソレを途中でぶった切り。
「私の助手みたいなモノよ!」
俺は、助手だったのか!
「誰か、粘土……いや、シルバークレイを頂戴」
割れたゴーレムを診察中のマリー。
「この村なら在るでしょ」
「確かに、私の兄が金工の中でも彫金を得意にしている……誰か、呼んできてくれ」
「金工?」
「鍛冶の事よ!」
ゴーレムをまさぐりながら。
「彫金なら銀細工も出来るって事」
「フム、結構な量のシルバークレイが必要ね」
割れ目の所を幾つか指差し
「ココとココ、欠けて無くなってるわ……魔核も、駄目出し」
割れた赤色の水晶の様なモノを取り除いて確認しているマリー。
「まあ、今回は必要ないから良いけど」
と、そんなやり取りをしていると。
村長の側に、ジュリアのお祖父さんが灰色の粘土を持ってやって来た。
「なんだか、えらい騒ぎに成っておるの」
呑気な爺さんだ。元をただせばアンタのせいな気がするが。
「兄さん……この、娘さんにソレを渡してやってくれ」
「ン……結構、値が張るぞ」
村長の顔を見て、眉を寄せたジュリアのお爺さん。
「大丈夫なのか?」
そして、マリーを見る。
何に使うのかはわかっていない様だ。
「失敗すれば、回収するだけだ」
と、お祖父さんを即する村長。
二人が兄弟と言う事は、村長もジュリアス・カエサルの子孫って事か。
シルバークレイを受け取ったマリー。
ソレを粘土の様に捏ねながら、割れたゴーレムに塗り込み、接着剤の様にしてくっつけた。
「コツメ、あんたバーナーみたいな火が出せたわね、今くっつけた所を焼いてくれる?」
そう指示を出し、自分は地面に魔方陣を描き始めた。
コツメは
「いいよ」
とゴーレムを焼く。
スグに……。
「色が変わってきた」
と、少し感動しているようだ。
ゴーレムの繋ぎ目が、鈍く光る銀色に変色した時点で、大きいゴーレムに命じて魔方陣の上に置き、呪文を唱え始めたマリー。
光る魔方陣。
ゴーレムに何の変化もない、倒れたまま。
「何も起きないじゃないか」
村長が呟く。
「まだよ! 今のは形を直しただけ」
マリーは男を顎で男を呼び。
「後の仕上げは、助手がやるわ」
わかってるわねと、顎で即した。
男は、頷き……ゴーレム召喚の呪文を唱えた。
「ふあ? あれ? ここは……」
寝惚けたゴーレム、二度目。
銀のラインがたすき掛けに入ったゴーレムが動き出す。
鼻で息を吐いたマリー。
「ドオ? 納得した?」
「貴女がマリー様なのは……わかりました」
まだ少しのみ込めない感じか?
「しかし、この騒ぎはいったい?」
「ソコの爺さんが借金を踏み倒したからよ」
ドーン! と、ジュリアのお祖父さんを指差し、魔法の証文を村長に突き付けた。
村長はその証文を確認して、そしてお祖父さん……兄を見た。
「ンん? なんじゃ?」
わざと惚けたのか? 天然か?
多分に後者の方な気がする。
「何か、兄が失礼な事をしたみたいで」
深々と頭を下げた村長。
「申し訳無い」
「謝るより先にお金返しない!」
「それは勿論です! 先祖カエサルより……言付けとお金を託されております」
大きく頷いた村長。
「マリー様が現れたらコレを返す様にと、金貨一万枚を代々長兄が保管しております」
一万枚! それは相当な額だ! 多分……。
「兄さん、やっと約束を果たせる時が来た」
そしてジュリアのお爺さんの手を取り……考え深げに言葉を漏らす。
「私達の代でソレが果たせる」
天を仰ぎ、目頭を押さえる村長。
感無量をそのまま絵面にすれば、そのまま今の村長だ。
「……無いよ」
しかしジジイ。
「兄さん、今なんて?」
その動きを見切る間もない程の早さでジジイを見た村長。
「うん、お金は無いよ」
かるーく。
「何故?」
絞り出す声。
「使ってしまった」
「何に?」
「酒と酒と酒と酒と肴と酒……」
飲んだのか!
「金貨一万枚も? イヤイヤそんなには……」
村長は首を降り。
「幾ら足らない?」
ヒキツリながら一歩後退る。
「足らない?」
ジジイはウーンと……考え。
「一万枚かの?」
遣い切ってるじゃないか!
「一万枚分も飲んだのか!」
「まさか、いくらワシでもそれは無理じゃ」
ウンウンと頷く。
「じゃ……足らない分は?」
すがるような目でジジイを見る村長。
しかしジジイは、少し恥ずかしそうにしながら小さく小指を立てた。
女か!
ガックリと膝を割る村長だった。
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