第10話 010 本物のダンジョン


 少女は自分の入っていた棺をお立ち台にして……踊っていた。

 両手を交互に振り上げて、クルクルと回りながらに腰をくねらせる。

 ……真っ裸で……何も隠さずに……。


 男は呆れていた。

 少女の死者召喚は成功した。

 あれだけ緊張したのだが……やって見れば簡単だった。

 少女もスグに死ぬ事もなくに余裕さえあった。

 

 その少女が……棺桶の中でパチリと目を開いた時には感動さえ覚えたものだ。

 寝ているその姿は丸裸だが、見た目は清楚で美人さんな顔立ち。

 スタイルも子供にしては手足が長く綺麗な造りだった。

 もちろん胸は無い。

 尻も小さい。

 背も低かった。

 ただ、若干に痩せすぎには見えたが……それは仕方の無い事なのだろう。

 生命維持装置を兼ねた棺桶に入る前にはほぼ死にそうだったのだから。

 

 それが起き出すなり、自分の身体を両手でペタペタと確めて……歓喜の叫びで踊り出したのだ。

 気持ちはわかる。

 久し振りに得た肉体なのだろうから。

 それにしても……服くらいは着て欲しいものだ。

 女の子なのだからそれくらいの恥じらいは有っても良いと思う。

 前からは大事な所も丸見えだ。

 尻の割れ目もそのままにだ。

 そして……その割れ目の上辺りには奴隷印の魔方陣が刻まれていた……まるで蒙古斑の様に……。

 

 なんともな光景。

 そしてそれに輪を掛ける様にコツメも調子に乗って、少女の横で合わせる様に真似をし始めた。

 もちろん素っ裸を真似たのではない……躍りの方だ。


 しかし……この光景。

 男は何処かで見たような既視感を覚えた。

 それは直接では無いのはわかるのだが……多分、テレビでか?

 だが素っ裸が邪魔をしてか思い出せない。

 何だったかな?

 男が唸っていると……。


 「ジュリ扇が欲しい~」

 少女が身体をクネクネと躍りながらに要求する。


 あ!

 「ジュリアナ」

 思わず叫んだ男。

 

 それに合わせる様に少女も叫ぶ。

 「トーキョー!」


 男は顔の下半分を片手で隠した。

 ……やっぱり。

 「扇子だけど……ボディコンもだろう? ってか素っ裸だけど気付いてる?」


 その男の言葉に少女はピタリと止まり。

 男を見て。

 自分を見た。

 「あ!」

 ……。

 顔が見る間に真っ赤に成る。

 そして元々に小さい身体を更に小さく成りながらに、出来うる限りのスピードで側で見ていたチビッ子ゴーレムの着ていた白衣を剥ぎ取り……被った。

 そして少女は男に尋ねる。

 「見た?」


 今更に恥ずかしいのか?

 「バッチリと……ハッキリと見せられたな」

 見た? 出はない見せられた! のだ。

 わけのわからない躍りと一緒に。

 ……わからない……わけでもないか。

 テレビでだが見た事は有る。

 しかし……どうせ踊るならスリラーの方だろう? ゾンビなのだし。

 それが何故にジュリアナなのだ。

 どうしてそれが、アンデッドに成った瞬間に頭の中にそんな音楽が流れる……理解不能だ。


 だが……理解出来た事もある。

 確信した。

 この少女……元は透けた自称希代の錬金術師は……俺と同じ召喚者だ!

 それも少しだが時間がズレて居る。

 男の眉間にシワが寄った。


 その苦い顔の男を見て、失敗したとそんな顔を見せた少女。

 一度、コホンと咳払い。

 「失礼……少しハシャイでしまったわ」


 「浮かれたゾンビなんて初めて見た」

 少しの嫌味を投げた男。

 「まあ……本物のゾンビを見るのも初めてだけど……」


 「ゾンビなの?」

 突然に躍りが終わってしまってチェ~ってな顔のコツメが聞いた。


 「たった今、死んだからな」

 男はそれに答えてやる。

 少し面倒臭そうな態度は隠さずに。


 「じゃあ……腐るじゃん」

 驚いたコツメは声を張り上げて。

 「臭くなる……」

 おまけの一言は小声でボソリと。


 「腐らないし! 臭いもしないわよ!」

 それに叫んで返す少女。

 相変わらずに顔は真っ赤だが……それは裸で恥ずかしいからか?

 それとも今のコツメの一言に怒った?

 少し乱暴に横のチビッ子ゴーレムに指示を出した少女。

 言われた方のチビッ子ゴーレムは素直に頷いて。

 何やら草を詰めたフラスコの様な瓶を差し出す。

 それを受け取った少女は……床に魔方陣を描き始めてその真ん中に置く。

 少女は呪文を唱えて、それに合わせて光る魔方陣。

 その光が収まるとそこには紫色の液体が入ったフラスコが残った。

 それをチビッ子ゴーレムが拾い、少女に渡して。

 少女はその紫色の液体を口に……。


 「なにそれ?」

 変な色の液体を飲む少女に眉をしかめて見せたコツメ。


 「防腐剤よ」

 一息に飲み干して……プハーッと息を吐き出す少女。

 

 「ホルマリンみたいなモノか?」

 男も眉をしかめる。

 「それはソレで臭くないか?」


 「ホルマリンじゃあ無いわよ! 人を標本みたいに言わないで!」

 男をキッと睨み付けて。

 「防腐剤!」

 コツメにも目線をくれて。

 「腐らなく成る魔法の薬よ!」

 ソコん所は勘違いしないで……ってな雰囲気を醸し出す少女。


 「へ~そんな薬も造れるんだ」

 素直に驚いて見せたコツメ。


 「錬金術師だからね」

 胸を張った少女。


 「でもソレって……ゾンビにしか要らないよね?」

 鋭い突っ込みのコツメだった。

 確かにそうだ。

 ゾンビ以外にはそれは役に立たない物だ。

 確かにと頷いた男。


 「他にも造れるわよ」

 役に立たないと言われた事が気に触った様だ。

 少女は指折り数えて。

 「回復薬でしょう、痺れ取り薬に傷薬に痛み止めとか……後イロイロよ!」


 「でも……パンツは作れないのね」

 少女が裸で有る事をプッと笑うコツメ。

 

 「ナニよ!」

 そんなコツメを睨んだ少女。


 「ベーつに~」

 半笑いで斜め上を向いたコツメ。

 

 そんなコツメを見ていた男は思う。

 これは……さっきの面白い娘ねと言われた事を目に持っているな。

 面倒臭い奴だ。

 

 しかし、コツメの肩を持つわけでもないが……今の少女は確かに見ていられない。

 「でも……パンツくらいは履いた方が良くないか?」

 流石に何時までも真っ裸は……。

 まあ白衣は羽織っては居るのだが、しかし……パンツは……。

 困り顔に成る男。


 「履きたいわよ」

 ソッポを向いた少女。

 「無いのよ」

 そしてボソリと。


 「無い? 何で?」

 パンツが無い?

 はて? 意味がわからんと呆気に取られた男。

 

 「用意してないのよ!」

 声を張り上げた少女。

 「忘れてたの!」

 

 「バカ~」

 少女を指差して笑ったコツメだった。


 大きな溜め息を吐く男。

 無いと言うのなら仕方がない。

 それよりもこの二人の会話はそのうちに喧嘩に成りそうに感じた男は話を変える事にした。

 コツメの入って来れない話題に。

 

 「ところで」

 男は真面目な顔を造る。

 「召喚者だよね」

 少女を見詰めて。

 「錬金術師の勇者……とか、か?」


 少女は男を見て、首を横に振る。

 「勇者では無いけど……」

 溜め息を一つ吐いて。

 「そんな様なモノよ」


 「様なモノ?」


 「召喚者は召喚する者者が居て初めて呼び出されるのだけど……私を召喚した者は居ないわ」

 

 『旦那……それは転生者です』

 それまで大人しく後ろに控えていたカエル雄が一歩、前に出た。

 わきまえていたとそんな雰囲気か?

 違うか……単純に話せなかったのだ。

 カエル達は俺の頭を通しての奴隷同士なら会話が出来る。

 さっきまでは少女も透けた女も奴隷では無いので言葉が通じなかっただけだ。

 それが今は通じる様に成った。

 だからやっと前に出てきた……と、そんな感じだ。


 「転生者……」

 カエルのその言葉に反応する少女。

 顔の横で掌をヒラヒラと。

 「嫌な言葉ね」


 「元の世界で死んだのか?」

 転生とは……そう言う意味だよな?


 「死んでないわよ!」

 声を荒げての少女。

 「たぶん……」

 しかしスグにそのトーンは下がった。


 「今は死んじゃってるけどね」

 コツメがチャチャを入れた。

 話を聞いてでは無くて……わかる単語に反応したのだろう。

 それまでは黙っていたのがその証拠。

 わからない事には無反応を示すのがコツメの様だ。


 『コツメちゃん……いい加減にしときなさい』

 空気を読む事が出来る、カエル達の雌の方が注意をした。


 怒られたコツメは下唇を突き出して。

 「本当の事じゃん」

 

 そんなコツメをキッと睨んだ少女。

 しかし、もう相手にはしないようだ。

 口は閉じていた。


 「元の世界に帰る方法は無いのか?」

 男が一番に聞きたかった事だ。


 そして男の方をジッと見る少女は。

 「着いて来て……良いものを見せてあげる」


 それは男の質問の答えなのだろう。

 見ればわかる事?

 それともそれを見ながらで無いと説明が難しい事か?

 どちらにしても着いて行くしか無さそうだと男も頷いた。



 少女に続いて部屋を出る。

 皆も着いて来ていた。

 チビッ子ゴーレムも含めてだ。


 コツメはそのゴーレムにじゃれついていた。

 抱き付いたり。

 登ってみたりと好き放題だ。

 余程気に入ったのだろう。

 「辞めてください……歩きにくいです」

 そんなゴーレムの抗議など聞きもしない。

 それはゴーレムが口に出すだけで一切の抵抗をしないのもある。


 男はそんなコツメをみながら。

 ジイッとは出来んのか? と、呆れた。


 「ねえ……これ頂戴?」

 先頭を歩く少女に言葉を投げるコツメ。

 それを聞いて理解した男。

 コツメは普通にチョッカイを掛けてもカエルに怒られるし、少女も無視をし始めたので……別の手で絡もうとしているのだろう。

 やはり面倒臭い奴だ。


 「イヤ!」

 少女は我慢が切れたのか振り向きもせずに言い放つ。

そして男にも。

 「躾が成って無いわね」

 と、こちらは睨み付けた。

 

 『御免なさいね……えぇっと、ナニちゃんと呼べば良いのかしら』

 カエル雌は男の変わりに誤り、そして名前を聞き出す。

 

 「貴方に謝って貰っても」

 と、カエル雌には肩を竦めて見せて。

 「マリーでいいわ……錬金術師のマリーよ」


 「チビッ子ゾンビのマリー」

 コツメがハシャグ。


 『コツメちゃん!』

 カエル雌はコツメの尻を叩いた。

 パーン!


 何で私が怒られるの?

 ただ名前を呼んだだけじゃん。

 と、そんな顔でブチブチとコツメ。


 それは……しつこいからだ。とは言わないでおこう。

 躾はカエル雌に任せよう。 

 丸投げだと決め込んだ男だった。

 

 『ホントに御免なさい、マリーちゃん』

 カエル雌もそうする積もりに成ったようだ。

 引き受けてくれて有難い。

 『私は、ニヒキガエルのシグレ……覚えて置いてね』


 !

 驚いたのは男。

 名前が有ったのか!

 しかし顔には出さない。


 『そっちは旦那のムラクモ』

 カエル雄を指差した……カエル雌を改めシグレ。


 ムラクモ!

 男は驚くのだが……よくよく考えれば当たり前だろう。

 喋れはしないが、頭の中での意思の疎通は出来るのだから名前くらいはあって当然だ。

 他人と喋れないだけで、思考力は人間と変わらないのだから。


 「なによ……保護者みたいな事を言って」

 ブチブチが止まらないコツメだ。

 

 『私の方が年上よ……それに奴隷としても先輩』

 シグレがチロリとコツメを睨んだ。

 『それに、年下の後輩を苛めるのはよくないわよ』

 窘められる。


 「マリーはだって……見た目はこんなだけど中身はオバサンじゃん。さっきの透けた女なのよ」

 窘められた事への抗議を上げた。


 シグレはピョンと飛び。

 そんなコツメの尻を、今度は槍の胴で叩いた。

 スパーン! と良い音が響く。


 流石に痛かったのか半泣きのコツメは黙り込んだ。

 下唇で不満を表してはいたのだが。

 静かには成った。

 流石、良い教育係だと頷く男。


 そしてそれを顔を隠して笑っていたマリー。

 角を曲がり。

 エレベーターホールを横目に横切り、隣の階段を登ろうとする。


 男は階段か? と、思いマリーに。

 「エレベーターは?」

 ボタンを押した。

 「使えないのか?」

 チーン。

 エレベーターの扉が音と共に開いた……使えそうだ。


 そして驚いた顔を男に向けたマリー。

 「な! あぁ……そうね」

 目線は男のままで。

 「ソレで行きましょう」

 そう言って中に入り、最上階を押した。

 

 エレベーターは全員が乗っても狭いがそれでも乗り込めるサイズだ。

 成る程やはり病院か? それが本物か偽物なのかはわからないが……それでもエレベーターは力強く登って行くし。

 中の何処を見ても本物っぽい。

  

 そして、エレベーターが最上階に止まって扉が開くと、そこは小さなホールでスグにガラスの扉が見えた。

 扉の向こうは透けて空が見える。

 屋上に辿り着いた様だ。


 その屋上は物干しが一定間隔で並んでいた。

 洗濯物を屋上で干せる様にしているのだろう……どうも最近は利用された形跡は無いが。

 物干し棹が雨や風で汚れてそのままだった。


 マリーは真っ直ぐに建物の端に進にそこに立った。

 それに続いた男の目には、自分の立っている建物の屋上から見える外の景色……廃墟と化したビル群が見えた。

 丸く切り取られた様な崖に囲まれた……街。

 崖を横に辿れば、男の背後……今居る建物も崖に食い込んで居る。

 イヤ、そうではないか。

 崖が建物を切っているのだ。

 

 絶句している男にマリーが告げた。

 「東京よ」

 掌は廃墟を指している。

 「一部だけど……結構な広さでしょう」


 「まさか……造った?」

 男の疑問が質問を絞り出した。


 「まさか、こんなの造れるわけ無いじゃない」

 男には肩を竦めて否定して見せて。

 「私と同じ転生よ……街ゴトのね」


 「さっき言っていた召喚主の居ない召喚ってヤツか?」

 そう尋ねたのだが男はスグに首を振る。

 「いやいや……街だぜ」


 「そうね……街……空間ね」

 男のそれに頷いたマリー。

 「人が召喚出来て空間が召喚デキナイ道理は無いわよ」

 

 「召喚……?」

 男は廃墟の街から目が離せなく成った。

 灰色のビルとビルの隙間に、黒い色の道路が見える……そこには歪んで傾いてはいるが電気の消えた信号機も在った。

 車だって有る……勿論それは動いてはいない。

 そして人が居ない……人っこ一人もだ。

 誰が見てもそれは……紛れもなく廃墟の街だった。

 

 「私ね、この病院に勤めていたの……1日だけだけどね」

 マリーが語りだした。

 「看護学校を出て、やっと看護婦に成って……ここに勤めだした初日に、この街ゴトの召喚よ」

 マリーの目線も廃墟を見詰めていた。

 「人も大勢居たわ……最初はね」

 思い出して居るのだろう声が少し寂しそうだ。


 「その人達は……何処へ?」

 元の世界の人間なら……男と同郷?


 「殆どが死んだわね……魔物に襲われて。生き残った人も居たでしょうけど……何処へ行ったかどうなったのかは全くわからないわ」

 息を呑み込んだマリー。

 「私はスグに、この街から逃げ出したから……運が良かったのね」


 逃げ出せた事が運が良いのか……。

 「しかし……街ゴトとは」

 どうにも信じられない男。

 規模が大き過ぎる。


 「他にも結構あるわよ、みんなダンジョンに成って居るけどね……街じゃ無くても、森とか山とか見た目では区別着かないだけでそこいらじゅうにね」

 マリーはチラリと男を見て。

 「貴方みたいに誰かに召喚されたってのよりも遥かに多いと思うわよ」


 男自身も召喚された身である。

 マリーの話を信じるか信じないかの選択すら出来ない。

 この世界の事は全くわかっていないからだ。

 否定する材料すら探せないのだ。

 今は丸飲みで受け入れるしかない。

 それでも疑問は探せる。

 「それで何故ダンジョンに成った?」

 廃墟の街を指して。


 「召喚って魔力を相当に使うのよ、これだけの空間と規模ならとてつもなくね。その魔力が魔素粒子に成って溜まるの……それに魔物が引き寄せられる」

 一息着いて、どう説明したものかと考え出したマリー。

 「その上、その魔素粒子が凝縮された時には魔物が召喚されたりもするのよ」

 あ! ほら! と、病院の屋上から下を指差したマリー。

 たまたま偶然に見付けたのであろう魔物の召喚の瞬間だった。

 「あんな感じよ」

 空間の歪みが道路上に出来ていた。

 大きさはトラック程か?

 そこから魔物達が出てくる。


 「コツメが襲われたのも……あんな感じだったのか」

 空間の歪みは見えなかったが突然に現れたのは確かだ。

 暗い洞窟ではそれが見え辛かっただけか……。


 「貴方の召喚も理屈はこれとほぼ同じ……今のアレを人為的に、ターゲットを人に変えただけ」


 「しかし、あの魔物は何処から?」

 今、出てきた魔物を指差す男。


 「何処かの魔物の居る世界ね」

 マリー肩を竦めて、たぶんねと付け足した。

 「私達の居た元の世界が在って、ココみたいな魔法の世界が在って……なら、魔物が居る世界が在っても不思議じゃ無いでしょう? ってことよ」


 そんな話をしている間にも、魔物がまた召喚されて来るのを見付けた男。

 このペースでの魔物の増加を考えると……この廃墟のダンジョンには相当数の魔物が居るのだろうと思われる。


 廃墟を見続ける男にマリーが。

 「レベル上げにでも行く? 生きては帰って来れないでしょうけどね」

 笑った……。


 背筋が寒く成る男。

 ここに来る途中のダンジョンだと思っていたただの通路でさえ酷い目に会っているのに……ここに降りれるわけがない。

 「こっちには来ないのか?」

 魔物が見えるそこに居るなら、襲われないのか? と、そんな疑問だ。


 「この病院は大丈夫よ」

 屋上の端の縁ギリギリに仁王立ちして見せたマリー。

 「私が張った結界が有るからね」


 「城に有るってヤツか?」


 「そうね、ほぼ同じね……アッチは圧縮魔交炉型で、コッチは水力魔交換型」

 胸を張ったマリー。

 「どっちも私の発明よ」


 なんとも物々しい呼び名だ、その名前からして危なそうな気もするが……。


 「貴方も見たでしょう? 洞窟の滝。アレを利用してプラス魔素とマイナス魔素を分離して交換するのそしてそのマイナス魔素が魔物に作用して……」

 聞きもしない結界に付いての事を嬉々と話し出したマリー。

 自分の発明ってところがやはり嬉しいのか?


 「なに言ってるのかワケわかんない」

 コツメが唸り出す。

 自慢気なマリーの顔が、流石にウザったく感じたのだろう。

 男もそれはわかると頷いていた。


 そのコツメを指差したマリー。

 「詰まりは、貴方の様な馬鹿と」

 今度は廃墟の魔物を指差して。

 「魔物にはそのマイナス魔素が効くのよ」

 高笑いした。

 ビルの端の縁で白衣をはためかせての仁王立ち。

 風が吹く度に大事な所が見え隠れしている。


 「なによ! お尻丸出しの癖に」

 フン! と、コツメが横を向く。

 マリーに馬鹿にされた事は理解したらしい。

 

 そして……二人の我慢はそこまでだった。

 先に飛び掛かったのはマリーで取っ組み合いの喧嘩を始めた。


 コイツらは……これからもずっとこうなのか?

 男の呆れた眼差しにも気付かずに、二人は組み合ったままでアッチに転がりコッチに転がり……。

 ゴロゴロと……。

 マリー何て、尻どころかもっと大事な所も丸見えだ……。


 首を左右に振りつつ、大きな溜め息を吐く男だった。

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