第8話 008 チビッ子ゴーレム現る


 ダンジョンでの初戦は何とか成った。

 コツメやカエル達はそれ以前の全くの初めて戦いだ。

 それぞれが男と合う前にも魔物と戦った経験は有るのだろうが……今のパーティーでは初めてだ。

 連携も悪くない。

 大勝利と言っても良いと思う。

 のだが……しかし。

 男はコツメを小っ酷く叱っておいた。

 単独で突っ込む何てリスクが大き過ぎるからだ。

 一応はしおらしく聞いていたコツメ。

 男が叱る意味もわかってはいる様だ。

 実際に刀が刺さらなくて慌てたのも有るのだろう。

 反省の色は見える。



 魔物を倒し。

 スキルを取る。

 そして叱る。

 ……で、一応の一段落着いて。

 取り敢えずの危険は取り除けたので、もう一度蜂による索敵。


 その報告では。

 この先にはもう魔物は居ない。

 そして、洞窟の先も無い……行き止まりらしい。

 

 男は骸骨を睨む。

 ダンジョン間違い?

 突撃! 隣のダンジョン? ……か?


 その事を骸骨に問い質した男。

 しかし骸骨は、そんな事はないとそれを否定した。

 場所はここで間違いないと言い張るのだ。


 まあ、そうまで言うなら信用しよう。

 考えられる事……後は、隠し扉か? トラップか? だ。

 取り敢えず、周囲を注意深く確認しつつ奥のどん突きまで行ってみる。


 やはりか……何も無い。


 今度は反対側のどん突きも調べて見ようと提案する男。

 それで何も無ければもう終わりだ。

 旅も終わりで、男のその先も終わり。

 あの村で暮らすか?

 人の良さげな村長さんだったし、平和そうだ。

 仕事は農夫か……魔物退治で暮らせないだろうか?

 駄目なら城下街か……。

 見た事も無いので一度、見てみるか?

 いや……あの王も城の人間も俺をモノの様に扱った。

 生きたままゴミの様に捨てた奴等だ。

 その近くには居たくない。

 少し旅でもして、永住出来そうな所を探す……か、な?


 な?

 

 「! なぜ?」

 考えながらに歩いて居た男の目の前に、突然と魔物が現れた!


 二本脚で立つ……デカいムカデ三匹と……その後ろにはそれよりもデカくて太い大コウモリが一匹!


 もうこの通路には居ない筈なのにだ。

 だが、そんな疑問は後回しにしなければ成らない。


 その魔物達がイキナリ襲い来る。


 先頭を油断しながら歩いて居たコツメに、大ムカデが噛り着いた。

 コツメの肩の肉をもぎ取り……骨も見えている。

 それでもコツメは上手く交わした方だ。

 突然の攻撃に頭事食われてもおかしくは無かった。

 それ程に近くにイキナリ現れたのだ。


 痛みと驚きに泣き叫ぶコツメ。

 

 それを見たカエル雄は、咄嗟に大ムカデの背に取り付き叫んだ。

 『早くコツメを旦那の所に!』

 ムカデの注意を惹き着けている。

 

 『コツメ! 大丈夫だよ』

 カエル雌はコツメを引き摺りながらに戦線を下がりに声を掛けていた。

 『旦那様は不思議なチカラをお持ちだからね』

 

 そして、蜂達。

 『回せ! 回せ!』

 男のパーカーのフードで休んで居たところ。

 間髪入れずに飛び立った。

 『緊急出動! 我が隊は大コウモリを牽制しろ! コツメ兵の救出の援護だ!』

 回せとは……エンジンの積もりか? 等とは考える暇もない状態だ。


 そして、骸骨が走り出した。

 骸骨は……強かった!

 カシャンと骨を一鳴りさせて、一瞬で間合いを積めると同時に剣を一閃。

 どの魔物も一撃で両断した。

 瞬き一つの間に総てを終わらせていたのだ。

 一振り一匹の四振りでの出来事だった。

 

 しかし男はそれを眺めている程には暇では無かった。

 男の元に運ばれたコツメの状態が余りにも酷かったのだ。

 左肩の肉が無くなり、その先の腕は辛うじて繋がっているだけで血が噴き出している。

 

 男は戦闘は他の皆に任せて、痛い! 痛い! と泣き叫ぶコツメの肉の抉れた肩を力一杯に殴り付けた。

 その一撃で噴き出す血は止まった。

 だがまだ肉は抉れたままだ。

 今度は男は、コツメの懐に手を突っ込み取り出したナイフをコツメの肩の傷口に突き立てた。

 肉が少し盛り上がったのが見てとれた男は、その部分を斬りつけた。

 泣き叫ぶコツメ。

 何度も斬りつけて刺すを繰り返す。

 その度に叫び、暴れる。

 それを戦闘を早々に終えたカエル達が駆け付けて、コツメを押さえるのを手伝った。

 なので、また斬りつける。

 刺す。

 そして、気絶するコツメ。

 しかし、斬られた痛みでまた目を覚ます。

 何度も……。

 何度も……。




 男は魔物のスキルを取り出していた。

 コツメはまだ気絶したままだが……もう大丈夫だ。

 肩は綺麗に復元して今は傷一つ無い元の状態に戻っている。


 骸骨は心配そうに寝ているコツメを覗き込んでいた。

 

 蜂達は独自の判断で飛び続けて警戒を怠らない。


 カエル達は男の側に張り付いて居た。

 ボディーガードの積もりのようだ。

 実際にイキナリ、何の前触れも無くに魔物が現れた様にも見えたのだ。

 気を抜く事は出来そうに無いとの判断なのだろう。

 それは男もそう考えていた。

 スキルを取り出す時も周囲の確認はしながらだ。


 ムカデのスキルは [麻痺毒] だった。

 これは蜂の隊長を呼び、スキルの持ち主を決めさせた。

 隊長は自身を外して、副隊長達三匹を選びだした。

 

 コウモリは [吸血] これは血を吸うのでは無くて相手の生命力を吸うようだ。

 詰まりは攻撃しつつの回復なのだ。

 これは一個しかないので先程、部下にスキルを譲った隊長に渡してやる。

 

 一通りの事を終えた男は骸骨の隣。

 コツメの前に戻って来た。

 「今の魔物は……何処に居たんだろうか?」

 誰に聞く気も無くに独り言の積もりだったのだが。


 それに骸骨が答える。

 「わからんのう……イキナリ現れた様にも見えたが……」


 骸骨でもそう見えたのか……なら、誰もその出所はわからんと言うことか。

 それは、この先も同じ危険が有るという事でもある。

 「この先……進むべきか?」

 今度は骸骨の方を向いて尋ねた男。


 「その先に居る者が、答えを知っているかもしれん」


 「それは……行くべきという事か」


 「会うべきじゃな」

 大きく頷いた骸骨。

 「後はワシが先陣を勤めよう」


 「わかった」

 骸骨が前に出るなら不意討ちも大丈夫だろうと頷いた男。

 

 と、その時。

 ダンジョンの入り口の方だろうか?

 ゴゴゴゴオウ……と大きな石を引き摺る様な音が辺りに響き渡った。


 何事が起こった?

 男は飛んでいる蜂達に確認を即する。


 そして、すぐに蜂達が連絡を返してくれた。

 左右に分岐していたティー字路の真ん中が開いてか、道が出来ているとだった。

 詰まりはティー字路が十字路に変化しているとだ。

 それを聞いて男は少しホッとした。

 最悪の状態……入り口が閉じて閉じ込められる事を想定していたからだ。

 そうなれば生きる術が無くなる。

 食料は……喰いたくは無いが、今まで倒した魔物が有る。

 ナメクジ。

 カタツムリ。

 ムカデにコウモリだ。

 死ぬ気に為れば……食えない事は無い筈だ。

 だが、酸素は?

 ここは狭い洞窟だ。

 奥もどちらも行き止まり。

 それらを少し考えただけでも背筋が凍る。


 しかし、新しい道が出来たのなら、まだ先に進めるという事だ。

 これは朗報でも有った。

 「行き先が出来た様だな」

 男は骸骨にそれを告げる。


 と、蜂達から追加の報告が届いた。

 その新しく出来た道から……白っぽい粘土の様なモノで出来た小さな子供サイズのゴーレムが出てきたと言うのだ。

 男はそちらを向くと、暫く後にそのゴーレムが側にやって来た。

 ボヤーッと光を放って、周囲を少し明るくしていたそれ。


 すわっ! 魔物かと身構える男とカエル達と蜂達。

 

 なのだが。

 そのゴーレムはペコペコと頭を下げて。

 「あのう……失礼ですが」

 寝ているコツメを指差して。

 「魂の勇者様ですか?」


 魂の勇者?

 男は自分が勇者の卵とは言われたがネクロマンサーの筈だ。

 しかし、ここには勇者と言われる者は他には居ない。

 恐る恐るとだが自分を指差した男。

 死者に仮初めの魂を吹き込むのがネクロマンサーなら……魂の勇者と言えなくもないと考えたのだ。

 「多分……俺だと思うのだが」


 「おっと」

 男の方に向き直ったゴーレム。

 「失礼しました」

 短い手足を揃えて、太い胴体を曲げてのお辞儀をして。

 「てっきり下僕だと勘違いしてしまいました」


 「うん! 失礼だ」

 そう見えたのは仕方無いにしても、それを口に出さなくても良くないか?

 男は何なんだとチビッ子ゴーレムを睨み付ける。

 

 しかし、そんな事は気にしないのか話を続けるチビッ子ゴーレムだった。

 「さて、魂の勇者様。我が主が様がお呼びです」

 今来た方向を指差して。

 「コッチ」

 そのままヒョコヒョコと歩き出した。


 やはり……何なんだコイツは!

 男は悪態を着きたく為るのを我慢してチビッ子ゴーレムを目で追う。


 そのゴーレム。

 男達が着いて来ないのを不思議そうに考えて。

 「早く早く」

 と、手招きをする。


 しかし、我が主様とは……。

 骸骨が言う答えを教えてくれる存在の事なのだろうとも想像が付く男。

 着いて来いと言うなら従う他は無いのか……。

 そう言えば骸骨は騒がないと不思議に思った男は。

 その骸骨に目を向ける。


 と、骸骨はコツメを背負い。

 「呼んどるぞ」

 と、ゴーレムの方を即した。

 そこには驚いた様子も無い様だ。

 ゴーレムの存在を知っていたのか?

 なぜそれを先に言わないと憤る。

 が、それを言っても、聞かなかったからじゃとそう答えるに違いないと諦めて大きな息を吐いた男だった。


 骸骨はそのままコツメを背負い、チビッ子ゴーレムに着いて進む。

 

 男達も慌ててそれに続いた。




 新しく出来た道に入ってすぐ。

 二体の槍を持ったスケルトンが立っていた。

 一瞬緊張が走ったが。

 「おう、久し振りじゃのう、元気でおった様で何よりじゃ」

 挨拶を交わす骸骨。

 どうも知り合いらしい。


 その槍のスケルトンがそのまま隊列に加わった。

 一応は警護の積もりらしい。

 チビッ子ゴーレムも何も言わない。


 だが、久し振りに会った骸骨三体は挨拶から、あの頃の話に、世間話にと花が咲いている。

 チビッ子ゴーレムの放つ光に下から照らされて、この世の世界とは思えぬ光景を造り出して居るのだが……。

 聞こえてくる話は、病院の待合室の老人の様な会話で……オドロオドロしいのは全くの見た目だけだった。


 骸骨の話すあの頃の話には少しだけ興味をそそられたが。

 今一良くわからん。

 昔に一緒に戦った上司と部下……そんな関係らしい事は理解できた。

 

 その間、チビッ子ゴーレムを先頭に、どんどんと下へ下へと地下深くに降りて行く。

 

 ボヤッと光るチビッ子ゴーレムのおかげで足元も明るく不安も無い。

 ランタンの明かり以上だと感心して居た男はふとその光に見覚えが有る事に気が付いた。

 男は腕時計に目を落とす。

 闇に光る文字盤。

 チビッ子ゴーレムと光かたが、強さは違うが同じに思う。

 蓄光? の強力版か?



 通路っぽい洞窟を抜けとても広い場所に出た。

 上の方は全く見えない。

 その何も無い闇から大量の水が落ちてきている。

 その水はまた、何も見えない崖下に消えていっている。

 そして、左右も見えなかった。

 何処まで続いているのかもわからない空間。

 それは落ちてくる水しぶきと霧で余計に視界を悪くしていたせいでも有るのだろう。

 この状態はスキルの夜目でも駄目なようだ。

 辛うじて見えるのは滝の側を通る石の橋だ。

 それも剥き出しで欄干すら無い平らだけの橋。

 濡れそぼって光る、その石の橋は滑って落ちれば確実に死ねるだろう事を教えてくれる。

 

 その橋を平然と進むチビッ子ゴーレムと骸骨達。

 男も着いて行くしかないと、腰が引けるのを押さえて進む。


 「きゃっ」

 骸骨の背中で目を覚ましたコツメが小さく叫ぶ。

 顔に掛かった水を拭いながらに夢うつつのままで骸骨の後頭部を凝視していた。

 そして……。

 「ギャー」

 しかし今回は気絶はしない。

 このギャーは、骸骨を見てのギャーと橋の下を見てのギャーとが混ざったモノらしい。

 ここで暴れたり気を失うと死ぬ。

 それらを合わせて理解してのギャー。



 橋を渡りきったのを何度も確認してから、骸骨の背中から飛び退いたコツメ。

 ゼーハーと荒い息を切らしながらに刀を抜く。

 もちろんその切っ先は骸骨に向けてだ。


 そんなコツメを窘める。

 「お前を助けたのは骸骨だぞ」


 渋々とだが刀を納めたコツメ。

 しかし目はソッポを向いていた。

 骸骨を見ても我慢が出来るんじゃあ無いか……男はボソリと呟いた。


 そのやり取りを横目にチビッ子ゴーレムは進んで。

 大きな扉の前に立つ。

 橋の袂から結構近くにそれは在った。

 

 そして振り向いて。

 「もうすぐに着きますよ。騒がないで下さい」

 そう言って大きな扉を押し開けたチビッ子ゴーレム。


 扉のその中から明かりが漏れ出ていた。

 

 中へと進む。

 コツメはブスッとした顔で最後に続いた。


 

 扉の中は……イキナリ景色が変わった。

 男にはとても見馴れた風景。

 白っぽい壁紙。

 リノリウムっぽい床の廊下。

 天井には蛍光灯。

 まるで何処かの病院の廊下だ。

 いや、まるで出はない……病院そのもの。

 古く成り掠れてはいるがそれっぽい文字も見える。

 何百年も経つ古い建物を綺麗に大事に使っている……そんな感じに見えた。

 

 男は元の世界に戻ったのかと一瞬、錯覚したが……そうでは無いと教えてくれる、すれ違うモノ達。

 白衣を着たチビッ子ゴーレムとはまた違うゴーレムに、ナース服を着たスケルトン達が此方を気にする様子も無くに行き来していた。

 そして何よりも違うのは臭いだった。

 見た目は病院なのに、その独特の消毒薬の臭いが一切しないのだ。

 それでも目に入る情報が一番に頭を支配しようとするのは仕方の無い事なのだろう。


 そんな動揺と驚愕の中で立ち尽くす男の背中を、後ろからコツメがつついた。

 振り向くと随分と先に進んでいるチビッ子ゴーレムを指差している。

 

 慌てて後を追う男だった。


 そして、幾つか在る扉の一つ。

 奥まった所に在るそれを横に引いて開いたチビッ子ゴーレム。

 「着きました。この部屋です」

 そう告げて、先に中へと入っていった。

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