Operation:QUEEN EATER 祝福の"R"へ愛を込めて
木場のみ
プロローグ ひっでぇめざめ
ガラゴロ……、ガラゴロ……! ――――ゴトン!
緑深き森、その先にある崖にそびえるいくつもの廃墟。
その中でも一際大きく、他よりも原形を留めている施設の中から、連続した物音が響く。
その建物の奥の奥、破壊されたようにボロボロの状態で放置された機械。
その中でも巨大な装置のカプセルの中から、物音の主が這い出てきた。
「ウゲ……ごっふッ! おえぇえ!! おえええええええ! ゲホッ!」
物音から今度は苦しそうな咳、そしてふらついた足取りの靴音。
顔には銀縁眼鏡、羽飾りのあるグレーの中折れ帽子に、グレーのトレンチコート。
黒いネクタイにグレーのスーツ、手には黒い手袋をはめた銀髪の青年があまりの苦しさに顔を真っ赤にしながら外へと出ようとしていた。
「ごっふぉッ! うげぇ、ウゲェエエエッ!! ……どうじよ、ホコリいっぱい吸っぢゃっだ……ッ!! ゴホッ! ゲホッ!」
何度もむせ込みながらも、彼は建物の中を進んでいく。
差し込む光を頼りに外を目指した。
頭の中でかつての建物の内装が蘇っては消えてを繰り返す。
彼の心が、この場所を覚えているのだ。
だがどの記憶も朧気で部分的にしか思い出せない。
――――なにか大事なことを忘れている気がする。
そんなことを考えながら、青年は外へと辿り着く。
その頃には咳はおさまり、吹き抜ける風が彼に開放感をもたらした。
辺り一面に見えるのは廃墟の群れ。
崩れた建物に生い茂る草木が、長い時間の経過を嫌でもわからせる。
だが不思議と虚無感はない。
差し込む日差しに目を細めながら、かけていた眼鏡のズレを直す。
風に揺れる草木の音が穏やかに彼の耳介に響いていく中で、彼はあるものを見つけた。
古びた看板だ。
「文字が書いてある。……"ジャ……パ、リ"。ん~かすれて読めないね。だがここがどこかは理解した。そうだ、ここは【ジャパリパーク】だ!」
記憶のピースがひとつはまった感覚。
連鎖的に他の記憶もいくつか蘇った。
「だんだん思い出してきたぞ~。僕の名はルーカス・ハイド。小さい頃の記憶は、よし、大分戻ってるね。でも、大人になってからの記憶があんまりないな。ジャパリパーク、これは知っているんだ。僕は用があってパークにいた。……だけど、その用はなんだ?」
それだけではない。
この廃墟が元はなんだったのか、なぜこの施設らしき建物の中に閉じ込められていたのかすら謎のままである。
頭に引っかかる記憶の断片にルーカスは不安を覚えながらも、これからの行動を考えた。
そう、前へ進まなければならない。
自分の心がそう訴えている気がした。
「まず探索に当たってだが……持ち物をチェックしないとな。眼鏡と帽子以外になにかないかな?」
内ポケットなどを念入りに探ると、まさに"手掛かり"になりそうなものを発見した。
「流石は僕。こりゃ幸先がいい。どれどれ……うげっ!?」
一冊の黒いメモ帳に銀色のペン。
そして3枚の写真である。
これらはどれも血液らしきものがびっしりと付着してカピカピになっていた。
「ひっでぇなぁもう。……これ、誰の血だ?」
メモ帳には確かに文字が書かれていたが、血で滲んで読めない。
他のページも引っ付いていて開けられず、血が付いていない後半からは全くの白紙だった。
銀色のペンはまだ使える。
滑らかな書き味は健在だった。
「メモから過去を推察することは難しいようだ。じゃあ次は写真だ」
1枚目、4人の男女が並んでカメラ目線で立っている。
2枚目、2人の男性が笑っている。
3枚目、血がこびり付いていて良く見えない。
最後のは残念ながら見ること叶わず。
しかし、他2枚の写真を比べて見てみると、ある共通点があることに気付いた。
(写っている中のひとりって……これ僕じゃないか! まさか、彼等と知り合いなのか?)
1枚目の女性2人。
探検服で眼鏡をかけた女性と、白衣で長い髪を後ろでくくった女性。
そしてもう1人の男性からは、どこか堂々とした姿勢が見てとれた。
「美人2人、そして男が1人。……誰なんだ? なんだろう、心の中でなにかが騒いでる。忘れちゃいけなかったなにかが」
モヤモヤした気持ちを胸に、次の写真を見てみる。
親し気に写っているルーカスと、鍛え上げられた肉体を持つ軍人風の男性。
これを見たとき、なんともいえない感情が急に心を揺り動かし始める。
呼吸が少し乱れ、額から汗が。
「知ってるぞ。僕はこの人を知ってる。さっきの3人以上にッ! だが思い出せない。なんだ……なにかヒントはないのか」
そう呟きながら思考を巡らし、ふと写真を裏返すと文字が書かれていた。
目を見開きながら、朧げな記憶にその文字を照合してみる。
「と……お、さか。とおさか……すごく、懐かしい名前だ。でもこれだけじゃダメだ。他の写真にはなにか書いてはいないか」
他のも裏返すと、同じように文字が書かれていた。
だが、それは言語にすらなっていない出鱈目な文字列だ。
アルファベットと数字で形成された六文字。
それが1枚目、3枚目の裏に書かれていたものだった。
「この文字列は一体? なにを意味しているのだろう?」
じっと見つめながら考えてみたが、正解は見えてこない。
謎が深まる一方で、それは自分が進むべき道を示しているかのように思えた。
「……行こう。ここにいても始まらない。探そう、僕の記憶を。もしかしたら誰かに出会えるかも」
こうしてルーカス・ハイドの記憶を取り戻す旅が始まった。
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