第566話 クラーラの新しい力⑩ 秘めたる想い
大騒ぎになったクラーラの大剣。
それは無事に元通り――どころか、さらに強力になって再び彼女の手に戻ってきた。
「これが私の新しい力……!」
と言いながら、要塞の中庭で剣を片手に構えるクラーラ。
その周辺では村民たちが「おお!」と歓声をあげて拍手を送っていた。
「今朝からずっとあの調子ね」
「わふっ! 剣が戻ってきてとっても嬉しいんだよ!」
「とはいえ、もう七回目なんだけどな……」
エステル、マフレナと一緒にトアは浮かれまくっているクラーラを見つめていた。
今回の件で、クラーラはこれまで以上の力を手に入れた。それはトアの持つ聖剣エンディバルに近い性質で、オーレムの森にある大樹からの魔力で強化されていた。
聖剣との違いは、クラーラ自身が魔法を使えないという点のみ。ただ、クラーラとしては魔法よりも自身の持つ《大剣豪》のジョブを生かすため、このまま剣士として腕を磨いていくという。
「じゃあ、そろそろクラーラに仕事へ戻ってもらうよう声をかけてくるわ。いきましょう、マフレナ」
「わっふ!」
「そっちはふたりに任せるよ」
トアはクラーラのことをエステルとマフレナに頼むと、ジャネットが作業をしている工房へと向かった。
今回の件――トアはもうひとつ大きな収穫を得ていた。
「ジャネット、ちょっといいかな」
「トアさん? えぇ、大丈夫ですよ」
工房へ足を運ぶと、そこではジャネットが額に汗をためて仕事をしていた。どうやら近々完成する予定の魔導鉄道駅に関する作業中らしい。
「例の神鉱石なんだけど」
「ゴールド・フォレストですね? 依頼通り、いくつか保管してありますけど……何に使うんですか?」
「あぁ……それは最後のひとつが見つかってからみんなに報告するよ」
「? 分かりました」
トアの手元には、すでに四大神鉱石のうちふたつ――シルバー・オーシャンとパープル・マウンテンがある。今回のゴールド・フォレストで合計三つとなり、残った神鉱石はあとひとつなった。
四つすべてが揃った時、トアはある決断を下そうと思っていた。
それはまだ誰にも話していない秘密で、ローザやシャウナといった村の重鎮的ポジションにいる者たちでさえ知らない。
「いいですねぇ……マスターの秘密は僕も知りたいところです」
「うおっ!? フォル!? いつの間に!?」
「最初から工房にいましたよ?」
ジャネットから渡されたゴールド・フォレストを眺めていたトアのもとにフォルがやってくる。当然、彼もトアの狙いについては何も知らされていない――が、どうやらとても気にはなっているようだ。
「いやぁ、気になりますねぇ。あのマスターがエステルさんやクラーラさん、マフレナさんにジャネットさんにまで秘密としていることがあるなんて」
「……まあ、そのうち話すよ」
「えぇ~?」
わざとらしく大声と大袈裟なアクションで煽るフォル。
だが、こればかりは教えないというトアの固い決意が口を割らせない。
「さあ、それよりも仕事だ。今日もしっかり働くぞ」
「あっ! 待ってくださいよ、マスター!」
ジャネットに礼を告げてから、トアはフォルとともに工房を出る。
こうして、今日も平穏な一日が始まろうとしていた。
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