第564話 クラーラの新しい力⑧ アルディ来訪

 ドワーフたちによるクラーラの大剣復活――それは想定以上に難しい道のりとなった。

 オーレムの森から戻って一週間が経過した今も、ジャネットたちは工房で試行錯誤を繰り返している。クラーラはクラーラで、自分のために頑張ってくれているドワーフたちの手伝いをしつつ、必要な情報を提供していた。


 心配するトアたちであったが、この日はそれに関連してある人物が要塞村を訪ねてきた。


「やあ、トア村長」

「あれ? アルディさん?」


 クラーラの父親であり、オーレムの森の長を務めるアルディだった。


「どうかしたんですか?」

「いやぁ……例の件がどうなったか気になってね。まだ完成はしていないようだが」

「そうなんですよ……」


 大剣の完成を心配し、訪ねてきてくれたようだったが――どうもそれだけが理由というわけではないらしい。

 詳しい話を聞くため、トアはアルディを円卓の間へと招待する。それから、あの日一緒にオーレムの森の奥に存在する巨木へと入っていったエステルたちも呼んだ。


「実は……君たちがあまりにもあっさりと神鉱石を持ち帰ってきたので、あれから我々も数人のメンバーを選出して調査に乗りだしたんだ」


 かつて、あの巨木のある一帯はオーレムの森に住むエルフたちにとって聖域と呼ばれていた場所。しかし、今回の件でトアたちが足を踏み入れ、謎に包まれた巨木からいとも容易く神鉱石を持ち帰ってきたことで、アルディは調査に踏み切ったらしい。


 それまでなかった人間たちとの交流を実現したり、アルディはこれまで一族が踏み込んでこなかった領域にも積極に挑み、オーレムの森にいくつもの新風を吹かせてきた。あの巨木の調査もその一環だろう。


 しかし、その結果はなんとも意外なものだった。


「我らが調査に乗りだした結果……君たちが神鉱石を発見したという空間を見つけだすことはできなかった」

「えっ!?」


 トアたちは一斉に顔を見合わせる。

 あの場所にたどり着くのにそれほどの苦労はなかった。むしろ想定していたよりもあっさりたどり着いたので、言い伝えはあくまでもあの地に人を近寄らせないためだけのものではないかとも考えていた。


 なぜなら――あの大木には神樹ヴェキラと似た気配を感じていたからだ。

 もしかしたら、神樹ヴェキラの魔力をまとう自分がいたからあの場所にたどり着けたのであって、他の者ではそもそも見つけること自体が不可能なのではないかとトアは推察する。

 アルディもまた、自分たちの調査が失敗した理由はその点にあるのではないかと睨んでいるようだ。


「この神樹ヴェキラの加護を受ける君だからこそ、あの場所へ踏み入ることができたのかもしれないな」

「ど、どうなんてしょうか……」


 困惑するトア――と、その時だった。


「「トア(さん)!」」


 円卓の間にクラーラとジャネットが駆け込んできた。


「な、何があったんだ、ふたりとも」

「すぐに工房へ来てください!」

「こ、工房に? どうして?」

「それはもう来れば分かる――って、なんでパパがここに!?」

「詳しい話はあとだ。それよりも工房へ急ごう」

「は、はい」


 トアとアルディ、それからエステル、マフレナ、フォルの五人はクラーラとジャネットが慌てている理由を知るため円卓の間をあとにする。

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