第553話 要塞村VS大寒波
年明け早々、要塞村に雪が降った。
雪自体は珍しいわけではないが――この年の雪は例年と違っていた。
「おかしい……」
要塞内部にある村長室の窓から外の景色を眺めながら、トアはため息交じりに呟く。
この辺りに降る雪は一日も経てば止んでしまう。
しかし、今年は今日で実に三日も雪が降り続けていたのだ。
おかげで、要塞村の看板とも言える市場は営業をやむなく停止。それどころか、まともに外を歩くことさえままならず、村民たちは全員要塞内部へと避難していた。
幸い、食料には余裕があったため、もうしばらくは外に出なくても大丈夫なのだが、それでもずっとこの状態というわけにはいかない。
「こんなに雪が降るなんて……あり得ない」
「そうでもありませんよ」
「えっ?」
鉛色の空を見つめるトアの呟きを聞いたフォルが、過去の出来事を語り始めた。
「まだ帝国が健在だった頃、今年のような大寒波に見舞われたことがありました」
「その時はどうなったんだ?」
「一週間以上雪が降り続き、経済に多大な影響を及ぼしました」
「い、一週間以上も?」
想定以上に厄介な事態に発展する可能性があると知ったトアは、ローザに依頼して領主であるチェイス・ファグナスと連絡を取ることにした。
「まだしばらくは問題なく生活できそうだけど……この状態が長く続くようなら、要塞村よりもエノドアやパーベルが心配だ」
「ここまでに入った情報では、エノドアで鉱山仕事が休止となり、パーベルの港も閉鎖状態にあると聞いています」
どちらの町も、まともに仕事ができず、買い物に出ることすらままならない。
エノドアではクレイブたち自警団が吹雪の中を一軒ずつ回って状況を確認するなどしているが、状況は要塞村よりも深刻だろう。
どうしようもできないもどかしさにトアが悔しさを感じていると、村長に近づいてくる複数の足音が聞こえた。
「トア、そろそろ夕飯ができるそうよ」
やってきたのはクラーラだった。
この状況にありながらも、その表情はどこか楽しげだ。
「何かあったの?」
「? どういう意味?」
「いや、なんだか楽しそうに見えてさ」
「あぁ……さっき、エステルたちと一緒になって夕食の準備をしていたんだけど……ちょっと懐かしくなって」
「懐かしい?」
これほどの寒波は要塞村で生活をするようになってから初めてのこと。なので、懐かしいという感情が出てくるはずがないのだが、なぜかクラーラはそれを感じているという。
その理由は――
「ほら、要塞村が大きくなってからはみんなで一緒にご飯を食べることってなくなったじゃない? それが、この大雪の影響で一緒に食べるようになって……昔を思い出したの」
「なるほど……そういうことでしたか」
これにはフォルも納得した様子。
クラーラの言う通り、無血要塞ディーフォルを村へと改装するようになった直後は、本当に十数人程度の規模だった。
それが、今では百人以上となり、市場には毎日村民の数以上の人が訪れるようになっている――そう思うと、クラーラの言う「懐かしい」の意味がよく分かった。
「確かに、凄く懐かしい感じがするよ」
「でしょ? それより、何かあったの? 悩んでいるようにも見えたけど……」
「うん……ちょっと悩んでいたけど、クラーラの話を聞いたら吹っ切れたよ。――明日、天候次第だけど、エノドアとパーベルへ可能な限りの物資を届けようと思う」
「っ! それは名案ね!」
「僕も同感です」
トアの申し出に賛同するクラーラとフォル。
こうして、三人は懐かしい思いに浸りながら夕食をいただきつつ、エノドアとパーベルへの遠征メンバーを決めるため、村長室をあとにするのだった。
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