第531話 トアたちの夏休み⑧ 神鉱石
神鉱石――それは、トアがある目的のために集めていた石でもあった。
その石が、この島に存在している。
もしかしたら、シャウナはそれを加味したうえで、自分たちをこの島へ行くように仕向けたのではないか。トアの脳裏にそのような考えが浮かぶ。
「……まさか、ね」
ただの偶然だと自ら否定するトアだが、相手はあの八極に名を連ねる黒蛇のシャウナ。もしかしたら、自分たちの想像が及ばないだけで、こちらの狙いを全部見透かされているかもしれない。
ともあれ、こちらへ襲いかかってくる男たちは神鉱石について知っている。
ならば――聞かないわけにはいかない。
「聖剣エンディバル――力を貸してくれ!」
トアの持つ聖剣が、黄金に輝きはじめる。
神樹ヴェキラの放つ膨大で良質な魔力をまとうことで真価を発揮する聖剣エンディバル。だが、この島にはその肝心の神樹はない。それでも、遠く離れた要塞村から、トアに魔力を届けてくれた。
「な、何だ、あの光は!?」
これまでに感じたこのない強大な魔力を前に、男たちの戦意は一瞬にして消し飛んだ。まさに戦わずしてトアは勝利をおさめたのである。
「まさに平和の光って感じね!」
「《大魔導士》のジョブを持つ者からすれば、あれだけの魔力を有する相手とはどうあっても戦いたくないものね」
「わっふっ! 凄いです、トア様!」
「さすがですね」
武器を手放し、茫然とする男たちを見て、クラーラたちも勝利を確信していた。
一方、トアは自分たちをこの場に連れ出した男のもとへと歩み寄る。当然、トドメを刺しに――来たわけでなく、神鉱石について話を聞くためだ。
「ちょっといいですか?」
「ひぃっ!?」
「えっと……怯えなくて大丈夫ですよ? 聞きたいことがあるだけで」
「な、なんでしょう……?」
「先ほどあなたが口にしていた神鉱石について教えてください」
「し、神鉱石……」
ガタガタ震えながらも、男は神鉱石について語る。
「あ、あなたの持つ聖剣に、神鉱石のある場所を示す場所があるという噂があって……」
「俺の聖剣に?」
トアは思わずこの聖剣を生みだしたジャネットへと視線を向ける。だが、当然ジャネット自身はそのような能力をつけた覚えはなく、まったくのガセ情報であった。
「残念ですけど、聖剣エンディバルにそのような力はありません」
「そ、そんなバカな!?」
「あ、あの、私がその剣を作った者なんですけど……トアさんの言う通り、そのような能力を持たせた覚えはありませんし、そもそもつけることは理論上不可能だと思います」
「う、嘘だ……」
どうやら、男もまた誰かに騙されていたようだ。
トアとしては、四つ存在する神鉱石のうち、すでにふたつ手に入れている。残りふたつを手に入れて四つとなった時、ある決断を下そうと決めていた。
その三つ目が手に入るかもしれないという淡い期待もあったが、どうやらそれは叶いそうになかった。
とりあえず、彼らは全員捕まえてセリウス騎士団に身柄を明け渡そうと思っていたが、試しにひとつ聞いてみることに。
「神鉱石については何も知らないんですね?」
「た、確かな情報は……あ、ああ、でも! 四つあるうちのひとつは、広大な平原に存在しているという噂を耳にしたことがあります!」
「広大な平原……」
これまで見つかったのは海と鉱山。
三つ目が平原というのは、確かにそれっぽさがある。
ひとまずその情報を胸に刻むと、全員に拘束魔法をかけて動きを封じ込める。
こうして、ひとつの事件の解決とともに、新たな目標も定まったのだった。
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