第532話 トアたちの夏休み⑨ 旅の締めくくり

 リゾートの最後にちょっとしたトラブルがあったものの、十分リフレッシュできたトアたちは、予定通りに要塞村へと帰還した。

 ここからは秋の収穫祭を視野に入れつつ、村の運営に力を注いでいくつもりだ。



 島から戻ると、トアはまずシャウナへ礼を言おうと、要塞内部で地下迷宮へとつながる場所にある彼女の私室を訪れた。


「おや、戻っていたか」

「何じゃ。随分と早い帰りじゃったのぅ」


 部屋にはシャウナだけでなくローザもいた。


「もう一泊くらいしてきてもよかったのに」

「でも、やっぱり村の様子が気になっちゃって」

「職業病というヤツか。難儀なことじゃな」


 カッカッカッ、といつもの調子で笑うローザ。シャウナもそんなトアの真面目さに思わず顔がほころんだ。


「君のそういう真面目なところが、種族を問わずに愛される理由なのだろうね」

「そ、そんな……」


 かつて、世界の命運をかけて帝国と戦った英雄でもあるシャウナにそう褒められて、トアはどう返していいのか分からず困惑。

 その時、トアはハッとなって思い出す。


 それは、島で起きたある事件についてだ。


「あの、おふたりに話しておきたいことがあって」


 突然真剣な口調となったトアに、ローザもシャウナも何かよからぬことが起きたのだろうと感じ取って顔つきが真面目なものへと変化した。

 トアはそんなふたりへ、神鉱石を巡って男たちに襲撃されたことを話した。


「聖剣に新鉱石を探知する能力か……」

「そのような話をジャネットから聞いた覚えはないがのぅ」

「いえ、実際、ジャネットはそのような能力を聖剣に授けてはいませんでしたし、不可能だとも言っていました」

「だとしたら、どこかで誰かが話を盛った可能性があるな」

「話を盛った?」


 言葉の真意を掴み切れず、トアは思わず聞き返す。


「今や要塞村は世界にその名を轟かす存在にまでなっている。そこで、君の噂を聞いた誰かがさらにありもしない尾ひれをくっつけて別の誰かに話をすれば――」

「本来ならば不可能なこともやってのける存在にまで昇格されるというわけか」

「そ、そんな……」


 トアからすれば、いい迷惑だった。実際、明確な被害こそなかったが、複数の男たちに狙われているのだから穏やかな話じゃない。


「神鉱石については、恐らく君がすでにふたつ所有しているという情報も流れているんじゃないかな」


 シャウナの言う通り、トアはすでにふたつの新鉱石を手に入れていた。

 ひとつは人魚族の長である海淵のガイエルから友好の証として受け取ったシルバー・オーシャン。もうひとつは、ジャネットの母であるエマから譲り受けたパープル・マウンテン。


 いずれも、渡してくれた人物がトアの人間性を気に入り、託した物だ。


「目標の神鉱石コンプリートまであと二種類か……」

「……トア村長」

「なんですか、シャウナさん」

「前々から聞こうと思っていたんだが……神鉱石を四つ集めたら何をする気なんだい?」

「えっ!?」

「それはワシも気になっておった。その件でたびたび鋼の山へ足を運び、ガドゲルと何やら打ち合わせているようじゃが……」

「そ、それは四つ集まった時にお話しします! では、失礼しますね!」


 これ以上ここにいてボロが出る前に、トアはシャウナの部屋から退散した。


「……どう思う?」

「どうも何も、ワシらの思っていた通りのことじゃろうて」

「だろうね。――さて、それなら私も力を貸すとしようか」

「また情報収集か?」

「まあね。これでも伝手は多いんだ。とりあえず、エストラーダ王国とクレンツ王国とブランシャル王国の関係者には声をかけておかないと」

「相変わらず顔が広いのぅ……」


 呆れたように言いつつも、ローザはどこか嬉しそうだった。



 こうして、トアたちの夏休みは終わり、要塞村にいつもの賑やかさが戻ってきたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る