第510話 精霊議会② トアとアネス
ビセンテから詳しい話を聞くため、トアは場所を円卓の間へと移した。
「精霊議会ということですが……それに人間である俺が行っても大丈夫なんですか?」
「前例がないといえばないのだが、それ以外にもひとつ人間である君に来てもらいたい理由があるのだ」
「俺に来てもらいたい理由?」
円卓の間に集まったエステルたちやローザにシャウナ、さらに各種族の代表者たちもピンと来ないようで顔を見合わせている。
「実は、山の精霊たちが君と話がしたいと言っているんだ」
「山の精霊?」
まったく馴染みのない精霊の名に、トアは動揺を隠せない。これに関して、すぐさまビセンテから捕捉の情報が与えられた。
「山の精霊たちは霊峰ガンティアという山に暮らしているんだが、どうも最近になってそこに新しい領主が来たらしく、そこで友好的な関係を築き始めているらしい」
「なるほど。大地の精霊たちが他種族と仲良く暮らしているこの要塞村をつくりだしたトアから、そのヒントを得ようというわけじゃな」
ローザが自身の推察を述べると、ビセンテは静かに頷いた。
「以前ここを訪れた時からずっと思っていたのだ。――ここよりも精霊たちが生き生きと暮らしているところはないだろう、と」
「照れるのだ~」
大地の精霊たちを代表して参加しているリディスは満更でもない反応だった。
問題は、その精霊たちを束ねているアネスのリアクションだ。
「…………」
アネスは明らかに困惑していた。
最近はエステルがやっている学校で同じ子どもたちといろんなことを学ぶことに楽しみを覚え始めており、日を追うごとに自身が精霊女王であるという認識が薄れている。だが、こうして急に精霊女王としての立場が求められたことで、どうしたらいいのか分からない――それが偽りのない、率直な気持ちなのだろうとトアは思った。
自分を父と慕う彼女の力になりたい。そして、人間と友好的な関係を築こうとしている山の精霊たちの想いに応えるため、
「……ビセンテさん」
「うん?」
「俺――精霊議会へ参加しようと思います」
「おおっ! 決心してくれたか!」
トアの参加を喜ぶビセンテ。
円卓の間に集まった村民たちも、トアの出した答えに反対意見を述べる者はいなかった。
「さて、そうなると旅のおともに誰を連れて行くかという問題になるが……」
「そのことについてだが――」
ビセンテ曰く、今回の精霊議会に精霊族以外の者が参加するというのが異例の事態らしく、トア以外の人間を招くのには抵抗を持つ者が出ているらしい。
「じゃ、じゃあ、精霊議会にはトアとアネスのふたりだけで行くってこと?」
「その通りだ」
クラーラの心配は的中していた。
これまでは複数人で行動するのが当たり前だったトアたちにとって、あまり経験のないことであった。
「でも、まあ、危険地帯に飛び込むってわけじゃないんだし、心配はいらないと思うよ」
「その点については私も保証しよう」
ビセンテからもお墨付きが出たところで、早速明日にも議会の場へ向けてトアとアネスは要塞村を発つこととなった。
「パパ……」
「大丈夫だよ、アネス」
心配そうにしているアネスを安心させるため、優しく頭を撫でる。
果たして、議会はどこでどのように行われるのか――人間として初の議会参加者となったトアの興味が尽きることはなかった。
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