第487話 新しい要塞村の名物(冬季限定)

 まだまだ厳しい寒さが続く中、今日も要塞村市場は活気に満ちていた。


「しかし、年が明けてからもう一ヶ月以上経っているのに暖かくなる気配さえないな」

「今日も雪が降りそうな天気だしなぁ」


 市場で店を出している商人たちは空を眺めながらそんな話をしている。

 その話を聞いていたトアは、すぐに要塞内部にある調理場へと向かった。


「おや? マスター?」

「まだ夕食には早いわよ?」


 そこでは村の奥様方とともに夕食の準備をしているフォルとエステルがいた。


「実は、夕食の前にちょっと用意してもらいたい物があって」」

「「用意してもらいたい物?」」


 不思議そうに首を傾げるふたりへ、トアは先ほどの市場の様子から思いついた案を放していく。


「寒い中、一生懸命働いている商人たちやお客さんたちに温かいスープを持っていこうと思ってね」

「なるほど。それはいい案ですね」

「ちょうど調理もひと区切りついたし、おやつ代わりにちょうどいいかも」


 トアの提案を受けたフォルとエステルはそれを了承。

 早速、大地の精霊たちが運営する農場から今朝収穫したばかりの野菜たちをみんなで刻んでいくことに。


「野菜をたくさん使った、要塞村特製の野菜スープだ」

「これはこれでいい名物になりそうですね」

「スープ専門店なんてオープンしてもいいんじゃないかしら」

「それはいいね」


 エルフ族のセドリックが運営している喫茶店ほど本格的なものでなくても、冬の寒いシーズン限定で小さな屋台風の店を構えてみてもいいかもしれない。

 思わぬ形で新しい要塞村のスポットが生まれたが、本格的に取り組むのは一旦後にしておくとして、今はスープづくりに集中する。


 使用する野菜だが、思ったよりも種類があったため、複数のスープを用意することにした。

 つくるスープは、

 

 カボチャスープ。

 ジャガイモスープ。

 根菜スープ。

 

 以上の三種類だ。


「僕とマスター、そしてエステルさんの三人で根菜スープを作りましょう」

「分かった」

「ふふふ、こう見えて料理はフォルから教えてもらっているから結構上達したのよ?」

「それは楽しみだな」


 そういえば、故郷のシトナ村にいた頃、エステルはよく母親の手伝いをしていた。特に料理に関心があって、トアの家にもお裾分けしたこともある。


 あれから十年以上経っている今でもその気持ちは消えていないようで、意欲的にチャレンジしているのだ。



 やがて完成したスープは、外で仕事をしている商人や村民、そして訪れた人々に振る舞われた。


「おいしい!」

「わっふっ! とってもおいしいです!」

「それに、体の芯から温まりますね」


 クラーラ、マフレナ、ジャネットからも絶賛されるスープ。さらに、商人や市場へ来た人たちからも次々と「おいしい!」の声があふれ出てくる。

 これは本当に目玉となりそうだ。

 そう踏んだトアは、翌日から冬季限定としてスープの屋台を設置。

 寒い冬の強い味方として、多くの人々に愛される店となったのであった。

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