第473話 要塞村に吹く新しい風【後編】
ラウラに案内されて、トアたちは駅の建設現場へと向かう。
そこでは王国から派遣されてきた建築のスペシャリストたちと、要塞村のドワーフたち――さらに、
「あれ?」
現場にはドワーフがいる。
だが、要塞村に住む者以外も複数名存在していた。
彼らは鉄腕のガドゲルに弟子入りしている、鋼の山のドワーフたちである。
「こんにちは」
「おお! トア村長!」
「お久しぶりですな、村長」
「みなさんもお元気そうで」
トアは鋼の山のドワーフたちに声をかける。
この光景――数年前では考えられない構図だった。
ドワーフと人間は、ザンジール帝国との世界大戦以降、あまり接点がなかった。特に鋼の山に住むドワーフたちは、彼らをまとめる鉄腕のガドゲルが人間との接触を最低限に控えていたため、このような大掛かりな仕事に参加するなどまず考えられない――それが、今では率先して働いている。
これもすべてはジャネットをはじめとするドワーフとの関係改善に取り組んだトアの功績といえる。
もっとも、トア自身はそのような策などなく、ただ自然に「みんなと仲良く暮らしていきたい」という気持ちで接していた。それが、ドワーフたちに信頼される一番の要因となっていたのだった。
そのおかげで、バーノン王子の悲願である鉄道の開通が現実味を帯びてきた。
最初はこの計画を疑問視する動きもあったが、要塞村からの全面協力が約束されたことで計画は一気に進み、現在に至るのだ。
「そういえば――ラウラさん」
「なんでしょう?」
「要塞村が終点ということでしたが、そのひとつ前の駅はどこになるんですか?」
可能性としては鉱山の町エノドアか港町パーベルのどちらか。
――しかし、実際はそのどちらでもなかった。
「現在我々が想定しているのは、現在完成間近まできている新しい町を考えています」
「「「「「新しい町?」」」」」
トアだけでなく、エステル、クラーラ、ジャネット、マフレナの四人にも、その新しい町というのは気になったらしい。
だが、新しい町の存在については以前から耳にしていた。
「確か、物づくりの町でしたよね?」
「そうです。職人たちを集め、次世代の力を育てるための町づくり――それが、バーノン王の目指す新しい町の姿です」
相変わらず表情の変化は乏しいが、その声には確かな情熱が込められていた。
「物づくりの町ですか……」
やはり一番の反応を見せたのはドワーフ族の鋼姫ことジャネットだった。
小説書きが趣味であるジャネットだが、本職は鍛冶職人。要塞村の各施設やトアの聖剣などを手掛けた彼女にとっても、新しい物づくりの町は興味の尽きない場所となる。
「でも、その町がある場所って、ここからはかなりの距離じゃない?」
「そこまで線路を通すとなると……かなり時間はかかりそうね」
クラーラとエステルは、まだまだ先の見えない完成図を想像しながら、遠くの景色へ想いを馳せていた。
「わふっ! 完成が楽しみです!」
「確かにのぅ……」
「鉄道には前々から興味があったんだ。それを拝める日が待ち遠しいよ」
マフレナ、ローザ、シャウナの三人も、鉄道の完成を心待ちにしているようだ。
「ラウラさん、鉄道関係のことで何か困ったことがあったら協力をしますので、何でも相談してください」
「ありがとうございます」
こうして、要塞村駅は実現に向けて本格的にスタートを切ったのだった。
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