第465話 バーノン国王誕生

 盛大に行われたバーノン王子の戴冠式。

 その会場での主役は当然バーノン王子――のはずが、各国要人たちはトアたち要塞村のメンバーから目が離せなかった。


「枯れ泉の魔女に黒蛇に鉄腕……」

「あっちにいるのは大戦時にエルフ軍を率いたアルディか」

「銀狼族や王虎族までいるのか」

「おいおい、ケイス第二王子までいるじゃないか」


 そうそうたる顔ぶれを前に、緊張感が漂う。

 だが、


「この城へ来るのは初めてじゃったか?」

「いや……前に来たことがあるような……どうだったかな、ガドゲル」

「俺にそれを聞くのか」

「そうじゃ。そういうのはイズモの方が詳しいじゃろ」

「ヒノモト王国からの要人も来ているようだが、イズモの姿が見えないな」

「ヴィクトールたちについていったのか?」


 八極の三人は余裕のやりとり。


「……ゼルエル殿、アルディ殿」

「どうした、ジン殿」

「顔色が優れないようだが?」

「あそこにある酒や料理はまだ食べてはならないのか?」

「トア村長の了承が出るまで待つという指示だったろう」

「そ、それはそうなのだが……うまそうじゃないか……?」

「う、うむ……」

「確かに……」


 ジンとゼルエス、そしてアルディの三人はこの後に行われる晩餐会で振る舞われる料理と酒に目を奪われていた。


「あら~、ジェフリーにツルヒメ様もいらしていたの?」

「はい!」

「お久しぶりです、ケイス様」


 ケイスは戴冠式のため、ヒノモト王国からやってきた弟で元セリウス王国第三王子のジェフリーとその妻ツルヒメのふたりと談笑中だった。


「な、なんていうか……みんな場慣れしているわね」

「私たちも前に舞踏会で訪れているはずなのに……物凄く緊張します」

「わふぅ……私もです」

「奇遇ね。私もよ。……なんでパパは平然としているのよ」


 エステル、ジャネット、マフレナ、クラーラの四人はトアととともに会場の雰囲気に呑み込まれていた。

 表情を引きつらせるトアのもとへ、黒いとんがり帽子の小さな魔女がやってくる。


「なんじゃ。まだ緊張しておったのか」

「ロ、ローザさん……な、なんていうか、こういう舞台はやっぱりまだ慣れなくて」

「やれやれ。そんなことで――」

「だが、その素朴さにひかれてやってくる者もいる。あの要塞村の温かな空気は、まさに君のそうした内面を映し出しているようだな」


 緊張しているトアたちのところへ、王冠をつけたバーノン王が姿を見せた。

 その瞬間、周囲の空気はピリッと引き締まる。誰もが新たな国王の登場に緊張していたようだが、むしろトアたちにとってはその逆の効果があった。


「バーノン国王!」

「ふっ、元気だな、トア村長」

「あっ、い、いや、さっきから緊張しっぱなしで……」

「君にもそういう時があるのだな。村民のために要塞を改装したり、時には勇敢に戦ったりするものだから、この場くらい軽くこなせると思ったのだが」

「ぜ、全然空気が違いますよ」

「ふふふ、そうか」


 楽しそうにトアと会話をするバーノン王子。

 特に驚かれたのが、



「あ、あのバーノン王が笑っている……?」


 

 そこだった。

 自分に厳しいバーノン王は、ほとんどしかめっ面をしており、今のようにリラックスし誰かと話をすることなどほとんどないからだ。

 トアやバーノン王子は普段通りに接しているだけなのだが、図らずもその姿が要塞村の凄さを見せつける形となった。


「要塞村……トア村長……恐るべし……」


 この一日で、要塞村と村長トアの名は広く知れ渡ることとなったのだった。


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