第462話 招待状

 それは突然の来訪だった。


「おはようございまあああああああああああああああああああっす!!!!!」


 怒号のような挨拶が、早朝の要塞村に轟く。


「な、なんだぁ!?」


 市場の視察をしていたトアとフォルは慌てて声のした要塞村正門へと向かう。

 そこには全部で二十頭の馬と、それにまたがる騎士の姿があった。先ほどの大声は、その騎士たちのまとめ役を担っているらしい先頭の男が放ったもののようだ。

 

「い、一体何事だろう……」

「とりあえず、話を聞いてみましょうか」


 ふたりは恐る恐る騎士たちへと近づく。すると、先頭の男がそれに気づいた。


「やや!? そこにいる少年――君がトア村長ですね!!!!」

「そ、そうですが……」


 挨拶だけでなく、普通の会話もだいぶやかましい男だった。


「え、えぇっと……どちら様ですか?」

「これは失敬!!!! 申し遅れました!!!! わたくし、新たにセリウス王国騎士団副団長に就任いたしました、ダヴィドスと申します!!!!!!!!!」

「! セリウス王国騎士団……?」


 なんとなく察しはついていたが、本当に騎士団だったことに驚くトア。しかも、今はなしている相手が新しい副団長というのだからさらに驚きだ。

 と、そこへ、


「診療所にいても響いてくるそのデカい聞き覚えのある声……やっぱり、あなただったのね」


 村医ケイスだった。


「これはケイス王子!!!! ご壮健で何よりです!!!!!」

「相変わらずうるさいわねぇ……」

「お褒めに預かり光栄の極みです!!!!!!!」

「そのつもりはまったくなかったのだけど……」


 珍しく困り顔のケイス。

 副団長を務めている割に、あまりスムーズな会話ができなさそうなタイプだった。


「そういえば、さっき少し漏れ聞こえたんだけど……あんた副団長になったの?」

「はい!!!!!」

「じゃあ、前のモーガン副団長は?」

「モーガン前副団長は腰痛を悪化させてしまい、現役を引退しました!!!! それで、自分が後任として選ばれたのです!!!!」

「どういう選考基準なのよ……とはいえ、実力的にはそうなるかしらね」


 ケイスが認めるダヴィドスの実力――当たり前だが、ただ声がデカいだけの騎士ではないらしい。


「あ、あの、その副団長殿が今日はどのような件で……」

「そうでした!!!! この招待状をトア村長に渡すよう、バーノン王子に命じられておりました!!!!! わたくしの挨拶はほんのおまけです!!!!!」

「むしろそっちがメインになってなかった?」

「深く考えちゃダメよ、トア村長。彼とうまく付き合うには……何よりもフィーリングが大事なの」

「は、はあ……」

 

 副騎士団長としてそれはどうなんだ、とも思ったが、実力はあるようだし、それを補えるくらい優秀な部分もあるのだろう。


「こちらをどうぞ!!!!」


 相変わらずのボリュームで叫びながら、ダヴィドスは一通の手紙をトアへと渡した。


「この手紙は……」

「戴冠式の招待状です!!!!」


 バーノン王子は、トアを来賓として戴冠式に招待するつもりらしい。


「来週か……いろいろ準備しておかないとな」

「それでは!!!! 自分たちはこれで失礼いたします!!!!」

「えっ? わざわざこれを渡すためだけに?」

「それが任務でしたので!!!!」


 就任直後とはいえ、副騎士団長に対して何もおもてなしができないというのは心苦しい。そのため、トアは騎士たちに差し入れとして要塞村農場で栽培された野菜を手土産として持たせることにした。


「お心遣いに感謝いたします!!!!! ではでは!!!!! 戴冠式でお会いしましょう!!!!」


 最後までやかましかったダヴィドス副団長は、多くの部下を連れて王都へと戻っていった。


「戴冠式、か……」


 公の――それも、かなり重要な式典に呼ばれたトア。

 ダヴィドスが去り、静かになった正門前でたたずむ彼の心には、今頃になって途方もない緊張感が襲ってくる。


「だ、大丈夫なのか……?」


 青ざめた表情を浮かべ、口元をひきつらせながら、トアはそう呟くのだった。

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