第461話 価値ある物とは?

「うーん……」


 要塞村にあるドワーフ族の工房。

 その中のひとつは、ジャネット専用のものとして使われている。ジャネットはここを第二の自室とし、時折一夜を過ごすこともあるのでベッドなどの生活家具も最低限設置されている特注の工房だ。


 そんな工房で、ジャネットは唸っていた。

 視線の先には、頭部と両手足を外された状態で机に置かれたフォルのボディがあった。


「いかがでしょうか、ジャネット様」

「恐らく……この辺に……あっ! ありました!」


 突然、歓喜の声をあげるジャネット。

 すると、そこへ、


「ジャネット? 今何か凄い声が聞こえたけど……」

「何かあったの?」


 たまたま部屋の前を通りかかり、ジャネットの声を耳にしたトアとクラーラがやってきた。


「ああ、いえ、たいしたことではないのですが……フォルのボディにずっと引っかかっていた異物をようやく除去できたので、思わず声が出てしまったのです」

「「異物?」」


 トアとクラーラは顔を見合わせる。

 これまで、そのような話を耳にしたことがなかったからだ。


「稼働に問題はありませんでしたから、報告をしていなかったんですよ」

「僕としても違和感なく動けるとはいえ、体の中に得体のしれない物が潜んでいるというのは気持ちのいいものではなかったので、なんとか除去できないかと以前からお願いをしていたのです」

「「…………」」

「? どうかしましたか、おふたりとも」

「いや……あんた、その状態でも喋れたのね」


 クラーラがそう言うのも無理はない。

 今、バラバラ状態のフォルは首だけがジャネットの使用しているベッドに置かれている状態――人間でいえば、生首状態だったのだ。


「これぞまさに旧帝国英知の結晶たる僕だからできる芸当!」

「あ、そう」

「とんでもない関心の低さですね」

「あんたの存在そのものが規格外なんだから、今さらその程度じゃ驚かないわよ」

「た、確かに……」


 トアもクラーラと同じ感想だ。

 驚きよりも「やっぱりできるんだ」という気持ちの方が先行していたのである。


「話を戻すけど、その異物とやらがようやく除去できたってわけね。

「そうなんですよ!」

「結局、その異物ってなんだったんだ?」

「これです」


 クラーラの問いかけに答えるよう、ジャネットは取りだした異物を掌に乗せてふたりに見せた。それは、


「これ……硬貨?」

「えぇ。どうやら帝国時代のものらしいですが……」


 百年以上昔の硬貨ということもあり、現在では使えないのだろうが、歴史的な価値はありそうだ。


「意外ととんでもないお宝だったりしてね」

「どうでしょう……ずっと昔のものとはいえ、かなり小さいですからね」

「希少価値は物のサイズで決まるわけじゃないさ」

「そうよ! 大きければ価値があるってわけじゃないんだから!」

「クラーラ様、何か別の情熱が働いていませんか?」


 そんな調子で騒いでいると、さらなる来訪者が。


「騒がしいのぅ。何かあったのか?」


 これまた偶然工房の前を通ったローザだった。

 それを見たトアは、長く生きているローザならば価値を知っているかもしれないと、早速その硬貨を見せてみる。


「ふむぅ……詳細は知らぬが、以前知り合った古銭商がザンジール帝国の硬貨を高値で取引しておったな」

「!? じゃあ、この硬貨も!?」

「恐らくは……まあ、十万ギールはするのではないか?」

「凄いじゃない!」

「驚きましたねぇ。そのような高価なお宝が僕のボディに挟まっていたなんて」


 大喜びのクラーラたちだが、その一方で、トアは複雑な表情を浮かべていた。

 なぜなら、前にエノドアで行われたお宝鑑定大会で、フォル自身が一億ギールというとんでもない超お宝であったことが発覚したからだ。


 よく考えたら、古銭よりもフォルの方がずっと価値があるんだよなぁ。


 そう思いつつも、喜んでいるクラーラたちを目の当たりにすると何も言えなくなるトアであった。




 ――ちなみに、要塞村市場を偶然訪れていた古銭商に鑑定してもらったところ、硬貨は最近作られた偽物であることが発覚。帝国時代からフォルの体に挟まっていたものではないことが分かったのだった。


「もしかしたら本当に高価な物が挟まっているかもしれないから、ジャネットに頼んでもっと細かくバラしてもらいましょう」

「勘弁してください……」

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