第408話 姿なき脅威
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異変は突然訪れた。
「なんてことなの……」
驚愕に打ち震えていたのは、要塞村の村医であり、セリウス王国(元)第二王子のケイス。
今、彼はクラーラに呼ばれて村長室へとやってきていた。
理由は――村長トアを襲った謎の病を解明するため。
「はあ、はあ、はあ……」
呼吸するのさえ辛そうなトア。
しかし、不思議と熱はない。
だが、鼻水が止まらず、目も充血しているため真っ赤になっていた。
「ケ、ケイスさん……」
すがるようにケイスを見つめるエステル。
エステルだけじゃない。
クラーラ、マフレナ、ジャネットの三人も、不安な眼差しを向けている。
「…………」
ケイスは己の無力さを呪った。
この村で暮らすようになってからも、医療の勉強は欠かしたことがない。しかしながら、今のトアのような症状に該当する病はどこにもなかった。
おまけに、エステルやローザが治癒魔法をかけても完治しないときている。現在、フォルが原因をつきとめるため、ジンやゼルエスと共に要塞中を駆け回っているが、未だなんの報告も入ってはいない。
「くっ……」
ケイスはたまらず俯いた。
苦しんでいる患者の前で何もできない医者。
それは、恐れをなして戦えない兵士も同然だ。
結局、その日はなんの解決策も浮かばず。
せめてもの行動として、ローザはファグナス家に使いを送り、事態を報告しよう提案し、自身とシャウナがその役を担うこととなった。
――が、ローザとシャウナを見送った後、事態はさらに悪化することとなる。
なんと、エステルとジャネットのふたりがまったく同じ症状でダウンしてしまったのだ。さらに市場の商人たちや、彼らをまとめるナタリーも同じように寝込んでしまう。
「ど、どうなっているのよ……」
「わふぅ……」
「思わぬ事態ですね……」
打つ手なしで絶望するクラーラ、マフレナ、フォルの三人。
ケイスも必死に看病を続けるのだが、状態は悪くなる一方。
――その時だった。
「原因が分かったのだ~」
そう言って、村長室へと入って来たのは大地の精霊リディスであった。
「ほ、本当!?」
「原因は森にあったのだ~」
「わふっ? 森に?」
「北西の方角に進むのだ~。そこに、すべての元凶が根付いているはずなのだ~」
「根付く……ですか?」
今ひとつピンとこないが、とにかく北西に何かがあり、それを消滅させればすべて解決するとリディスは言う。
それを受けて、クラーラ、マフレナ、フォルの三人は村を救うために飛び出したのだった。
◇◇◇
屍の森北西部。
「こ、こいつが!」
「わふっ! 元凶ですね!」
「間違いないでしょう」
そこには、見たことのない紫色をした大きな木が生えていた。
「分析結果が出ました。この木は……《スーギー》と呼ばれる凶悪指定樹木です」
「凶悪指定樹木?」
「かつて、帝国が植林事業の一環で植えたものですが、あとから実はとんでもなく凶悪な花粉を有していることが発覚し、逆に根絶やしにする作戦が取られました。恐らく、あれはその時の生き残りでしょう」
「あんたんとこの帝国はホントにろくなことしないわね!!」
文句を言いつつ、クラーラは剣を抜き、マフレナは金狼へと姿を変えた。
「何をなさるおつもりで?」
「伐採に決まっているでしょ! 行くわよ、マフレナ!」
「わっふっ!」
村を混乱に陥れたスーギーの木は、要塞村が誇る武闘派のふたりによってあっという間に伐採された。
「まっ、こんなところかしら」
「わふっ! 木を倒すだけですから、簡単でしたね♪」
「女性ふたりがこんな短時間であれほどの大木を伐採するのは、断じて簡単などではないのですけど……」
「何か言った?」
「いえ、何も。おふたりの雄姿にただただ感動していただけです」
「……まあ、いいわ。とにかくこれで任務は完了。そろそろ帰りましょう」
「わふっ!」
「そうですね」
こうして、三人は意気揚々と帰宅。
その後、トアたちの容体は徐々に回復の兆しを見せ、要塞村に再び平和が訪れた。
「でも、どうしてクラーラとマフレナは平気だったんだろう」
「おふたりは森で生まれ育っていますからね。耐性があったのでしょう」
「なるほどねぇ」
美しい森に潜む花粉という魔物。
ある意味、モンスターよりやっかいだなぁと思い返すトアだった。
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