第385話 新天地へ⑪ ローザの答え

 ヴィクトールからの突然のプロポーズ。

 テスタロッサとアバランチは事前に知っていたようで、「やれやれ、ようやくか」といった感じにため息をつている。

 天使リラエルは「きゅ、急に何を言いだすのよ」と困惑気味。

 その横ではトアたちが大騒ぎ。

 

「えっ? えっ? ローザさん、結婚するの?」

「お、落ち着きなさいよ、トア」

「そ、そうですよ。まだローザさんが了承するかどうか……」

「間違いなくOKするわ」

「エステルちゃんが凄く冷静!?」

「まあ、とはいえ、僕も間違いなくイエスって返すと思いますが」

「これは予想外の展開だなぁ……さて、ローザはどう答えるか、これは楽しみだな」


 シャウナのひと言で、全員がピタッと押し黙る。

 どんな返事をするのか待っているわけだが、肝心のローザは、



「…………」



 完全に思考が停止していた。


「ロ、ローザ?」


 心配したヴィクトールが声をかける。

 すると、


「……なんで?」

「えっ?」

「なんであなたはいつもそうなの!!」


 いつもの「のじゃ」口調ではなく、素のローザ・バンテンシュタインとなっていた。


「バカっ! 昔っからそう! なんでもかんでも私に相談なく決めて! 学園を辞める時だって、戦争が終わった後、突然いなくなったことだって! 少しは私に相談してから決めなさいよ!」

「あっ、す、すまん……」


 これにはただただ謝るしかないヴィクトール。


「ふふふ、この世界で勇者ヴィクトールにあそこまで言えるのはローザくらいね」

「まったく……情けない」


 テスタロッサは小さく笑い、アバランチは呆れたようにため息をつく。

 立て続けに繰り出されるローザの罵倒に圧倒され続けたヴィクトールであったが、それが止み、大きく息をつくと、ローザは左手をつきだす。


「でもまぁ……学園を辞める時、何もかも投げうってあなたにすべてを捧げると誓ったのだから……その……」

「えっ? それはつまり……OKってことか?」

「!? そ、そうよ! 悪い!?」

「い、いやいや! ……嬉しいよ、ローザ」


 ハッキリと明言したわけではなかったが、やはりローザの返事は「イエス」だった。ヴィクトールは早速指輪をつけようとするが、

 

「あぁ……ローザ?」

「何?」

「その姿のままだとつけられないんだ」

「あっ」


 そう。

 今のローザは幼い子どもの姿。

 なので、指輪のサイズが合わないのだ。


 それを受けて、ローザは姿を変える。

 魔女となり、老いることのない体となった年齢の姿へ。


「……これで文句ないでしょ?」


 現れたのは息を呑むほどの美人。

 大人になった――いや、本来のローザ・バンテンシュタインである。


「綺麗だ、ローザ」

「い、いいからさっさと指輪をはめなさい」


 照れ隠しなのか、そう催促するローザ。

 ヴィクトールもそれをわかっているので、ニコニコしながら指輪をはめる。


「「「「「おお~……」」」」」


 自然と拍手をしてしまうトアたち。

 他の八極三人も一緒に拍手をしていた。


「指輪を渡しておいてなんだが……俺はこれから魔獣討伐と堕天使ジェダを追うためにもう一度世界を旅する。おまえは……どうする?」

「私は要塞村であなたを待つわ」


 その答えにはトアたちも困惑した。

 寂しくはなるが、今の流れ的にローザも討伐へ名乗りをあげると思っていたからだ。


「……いいのか?」

「えぇ。あなたが望むままに」


 ローザは分かっていた。

 ヴィクトールが、要塞村へ残ることを希望していると。


「待つのは慣れているわ」

「……すまない」

「いいのよ。それより……」

「うん? ――っ!?」


 ローザはおもむろにヴィクトールの首へ手を回すと、唇を重ね合わせた。


「「「「「!?!?!?!?!?!?」」」」」


 ローザの大胆な行動に、トアたち要塞村組だけでなく、長い付き合いであるテスタロッサとアバランチも驚く。


「……あなたとキスをするのは何年ぶりかしら、ヴィクトール」

「百年ぶりくらい、かな?」

「そうね」


 完全に、ふたりは自分たちの世界に浸っている。

 一方で、


「ともかく、これで当初の目的は達成できたわね」


 死境のテスタロッサはそう言ってその場から立ち去ろうとする――が、当然このまま帰すわけにいかない人物がひとりいた。


「待って! テスタロッサさん!」


 同じオーレムの森出身で、実の姉のように慕い、剣の師匠としても心からテスタロッサを尊敬しているクラーラだった。

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