第386話 新天地へ⑫ 約束
クラーラとテスタロッサ。
師弟関係でもあるふたりは、この浮遊大陸で再会を果たした。
――だが、テスタロッサは禁忌魔法に手をつけ、故郷であるオーレムの森を永久追放処分となっている。
その後ろめたさもあって、テスタロッサはこれまでクラーラを含む他のエルフたちとの接触を断ってきた。
しかし、偶発的に起きたクラーラとの再会。
クラーラ側からすると、これを機にどうしても伝えておきたいことがあった。
「オーレムの森に帰ってきてください」
「……ごめんさない……私は……」
「森の長が父に代わったんです」
「アルディに?」
テスタロッサの顔つきが変わった。
「父は人口が減りつつあるオーレムの森のエルフを救おうと、純血至上主義から抜け出そうとしてさまざまな種族との交流を目指しています。私の住んでいる要塞村との交流もその一環です」
「…………」
必死に訴えるクラーラの言葉に、テスタロッサは黙って耳を傾けていた。
「父は追放処分を受けていた私を森へ戻しました。テスタロッサさんのことも、森に戻ってきてほしいと思っています」
「クラーラ……」
「私やパパだけじゃないです! ママもメリッサもルイスもセドリックも――みんながあなたに会いたがっています!」
「…………」
テスタロッサは沈黙。
どう答えたらいいのか――迷っているように見えた。
そこへ声をかけたのは、
「戻ってみたらいいじゃないか」
黒蛇族のシャウナだった。
「こんなにたくさんの人が君の帰りを待ち望んでいるんだぞ?」
「で、でも……」
「君が永久追放処分を受けてから何百年経ったと思っている? それに、君はその時の贖罪という意味も込めて八極に参加し、人々を救ってきたのだろう?」
シャウナの話を聞いていたトアは、ふと思い出す。
――シャウナ自身はどうなのだろう、と。
黒蛇族であるシャウナにも当然故郷は存在する。
だが、シャウナが家族と過ごしていた幼少期の話は聞いたことがない。というより、シャウナが八極に入る前というのは謎が多い。本人は語らないし、ローザたちも知らないという。
だからきっと、過去に故郷で何かあったんだ。
テスタロッサに語るその口調がいつになく真面目に感じるのはそのためだろう。
「お願い、テスタロッサさん……」
シャウナの後押しと、クラーラのダメ押し。
このふたつを真正面から受けとめたテスタロッサは、
「……分かったわ。ヴィクトールと同じように、この戦いにケリがついたら、私はオーレムの森を訪れる」
「!?」
クラーラの表情が一気に明るくなった。
「絶対ですよ!」
「えぇ。約束するわ」
テスタロッサの言葉を受けて、クラーラの喜びが爆発。すぐ横にいたマフレナに抱きついて喜びを溢れさせていた。
それから、天使リラエルの計らい(実際は神からの指示)により、トアたちは地上へと戻ることになった。
ヴィクトール、テスタロッサ、アバランチの三人は堕天使ジェダと消えた魔獣を追ってこれからも世界中を旅するという。
トアたちも、できる限りのサポートをしたいと申し出た。
「すべてが終わったら、その時は一度君とも戦ってみたいな、トア村長」
「俺もですよ、ヴィクトールさん」
トアVSヴィクトール。
今回は叶わなかったが、すべての厄介事を片付けた時、それはきっと実現するだろう。
「ほら、魔法陣を用意したからこっちへ来て」
リラエルに呼ばれて、それぞれの目的地に合わせて転移魔法を発動していく。
こうして、トアたち要塞村組は、ようやく地上へと戻れたのであった。
◇◇◇
「おおっ! 要塞村だ!」
魔法陣によって生じた転移魔法で、要塞村近くの森の中へと戻って来たトアたち一行。
見慣れた光景にホッと安堵したのも束の間、
「って、なんで私まで地上に降りているのよおおおおおおおおお!!!!」
なぜかついて来ている天使リラエルの絶叫が轟くのだった。
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