第373話 ヒノモトからの贈り物

 この日も、要塞村には遠方から村長のトアを訪ねてきたものがいた。


「初めまして、トア村長。拙者はヒノモト王国の商人でキスケと申します」


 ヒノモト出身の商人キスケは物腰柔らかな初老の男性だった。


「クラガ・タキマル様より書状を預かって参りました」

「タキマルさんから?」


 クラガ・タキマルといえば、これまで何度か要塞村と関わりを持ってきた、ヒノモト王国の重鎮である。

 書状によると、以前より話を進めていた、要塞村市場へのヒノモト王国の店舗出店について、その先遣隊として信頼を置くキスケを送ったと書かれていた。


「本日は出店に際し、我がヒノモトを代表する飲料がこちらの大陸のみなさまにもお気に召していただけるかどうか確かめたく、馳せ参じました」

「ヒノモトの飲料?」


 これまで、ヒノモトの食べ物は要塞村でも好評を博してきた。

 だが、飲み物となると初めてだ。


「へぇ、いいじゃない。面白そう」

「ヒノモトのなんだかほっこりする味、私は好きよ」

「わっふぅ! 私も飲みたいです」

「興味深いですね」


 クラーラ、エステル、マフレナ、ジャネットの四人も興味津々といった様子。

 一方、市場を管理するナタリーからは慎重な意見も出た。


「とりあえず、試飲をしてみない?」

「そうですね」


 ナタリーからの助言を受けて、トアは第一回多文化お茶会の開催を決定したのだった。


  ◇◇◇


 トアの発案によって始まった多文化お茶会。


 とはいえ、飲むのはヒノモト原産のものと、ローザのコレクションである紅茶。そして、セドリックが厳選した、エルフの森のコーヒー豆の三つである。


「ほほう、ストリア大陸の飲み物をいただくのは初めてですな」


 キスケも他国の飲み物に強い関心を抱いたようだ。


「それではまず、わたくしたちのお茶から召し上がっていただきましょう」


 そう言って、キスケはお茶の準備を始める。

 その際、見たことのない道具を用意しだしたので、特に飲み物絡みでうるさいローザとセドリックは興味を持ったようだ。


「これはなんという道具じゃ?」

「急須でございます」

「ポットと形状は似ていますが……いや、微妙に違うかな?」


 キスケの用意した急須をさまざまな角度から眺めて分析するふたり。そうこうしているうちに、最初のお茶が完成。


「どうぞ、トア村長。それにナタリーさんも」

「! 緑色の飲み物なんて珍しいなぁ!」

「果実ジュースみたいな色合いね」

「こちらは緑茶と申しまして、我が国でもっとも愛されている飲み物です」

「どれどれ……」

 

 トアとナタリーは淹れたての緑茶を早速飲んでみる。と、

 

「ほぉ~……なんというか、コーヒーとはまた違った苦みがありますね」

「えぇ。なんだか甘い物が恋しくなるような……」

「そうおっしゃると思いまして、こちらに特製のみたらし団子をご用意しました」

「「おお!」」


 お茶請けとして出されたみたらし団子は、緑茶の苦みとよくマッチする。これはまさに完璧なタッグと言えた。


「みなさんの分もありますので、是非!」

「やったぁ!」


 女子四人も喜んでお茶と団子に飛びつく。

 さらに、ローザとセドリック。

 フォルやケイスまで集まってきて、市場は大盛り上がりとなった。


 また、その一方で、キスケはコーヒーや紅茶といったストリア大陸の飲料にも注目。

 早速、いくつか試しに持ち帰ってみると瞳を輝かせていた。



 後日。

 要塞村に市場にヒノモト産の商品を扱う店舗――その名も《ヒノモト屋》が正式に出店。

 ストリア大陸とはまったく異なる、独特の文化をヒノモト産の商品は、要塞村だけでなく、エノドアやパーベルの民にも広まり、大人気となったのだった。

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