第341話 第3回要塞村収穫祭【準備編②】

 第三回要塞村収穫祭の準備は着々と進められていた。


 元々は村民たちの間でのみ行われていたが、今や一大イベントとして近隣の町に広まっていた。

 その背景にあるのは、バーノン第一王子とナタリーだろう。

 図らずも、次期国王最有力候補と凄腕商人という大物ふたりが関わることになり、その規模はこれまでにないものとなった。しかし、これについては、お祭り騒ぎが好きな要塞村の村民にとって喜ばしい事態でもあった。


「今年はこれまでにないくらい大きな祭りになるらしい」

「楽しみだな!」


 村民たちが作った木彫りのランプを取りつけながら、銀狼族と王虎族の若者が楽しそうに会話をしている。

 

「よし、この調子なら三日後の開催には十分間に合うな」


 神樹周辺の見回りを終えたトアは、要塞村特製のフルーツジュースを片手に満足そうな笑みを浮かべた。


 基本的に、村で行う行事に関してはトアが管轄し、市場でのイベントはナタリーが取り仕切っている。


「今年は凄いことになりそうね」


 商人たちの準備の様子を眺めていたトアの横にクラーラがやってきて、そんなことを言う。


「まあね。今年は参加者が増えたし……当日は獣人族の村とグウィン族も来ることになっているし」

「もしかしたら、将来的には人魚族や魔人族も収穫祭に参加するかもしれないわね」

「それもあり得そうだよ」

「おや、こちらにいましたか」


 そこへ、フォルも合流する。


「やあ、フォ――って、どうしたの、その格好!?」


 やってきたフォルの出で立ちはいつもとだいぶ異なっていた。

 長い金髪(ポニーテール仕様)のカツラをかぶり、大きな剣を背負っている。その姿はまるで、


「まさかとは思うけど……それ、私のつもり?」

「そうですが?」


 だからどうしたと言わんばかりのフォルだが、トアとクラーラからすればツッコミを入れたいところだらけで何から手をつければいいか悩むほどだった。


「一応聞くけど……なんでクラーラのマネを?」

「これは前夜祭の準備ですよ」

「前夜祭?」


 それは去年も行った、本番の前日に行われるちょっとした宴会。

 ただ、今年はその前夜祭も相当派手で賑やかなものになりそうだと期待していたトアたちだったが、フォルの今の姿はその前夜祭で披露するものらしかった。


「昨年、僕が声マネをやったこと、覚えていますか?」

「うん」

「あれは声マネというか……単に私たちの声を魔法でコピーして流しただけなんでしょ?」


 後々、ジャネットの手によって発覚したネタバレだった。


「ですから、今年はさらにバージョンアップをして、みなさんのモーションコピーまでしようかと思って」

「「モーションコピー?」


 聞き慣れない名に、トアとクラーラは顔を見合わせる。


「声だけでなく、動きのコピーですよ」

「動き、ねぇ……例えば?」

「それでは、最近の鉄板ネタである《クラーラ様回し蹴り集》から選りすぐりのネタを――」

「どこで何を披露してんのよ!」

「今また新たなネタが追加されました!」


 その回し蹴りの直撃を食らい、宙を舞っていくフォルの兜。


 ともかく、これはまた楽しくて騒がしい前夜祭になりそうだと思うトアだった。

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