第327話 悪魔の発想
新作はじめました!
「嫌われ勇者に転生したので愛され勇者を目指します! ~すべての「ざまぁ」フラグをへし折って堅実に暮らしたい!~」
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コメディ色強めになっております!
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「う~ん……」
要塞村市場をまとめるナタリー・ホールトンは悩んでいた。
原因は、要塞村地下迷宮でテレンスたち冒険者が持ち帰ったアイテムの処遇。
売り物になるのは即日完売するほどの人気だが、その一方で、商品になるかならないか微妙なラインのアイテムもいくつかあった。商品として出しても買い取り手がつくかどうか分からないが、しかしそのまま捨てるには勿体ない。そんなアイテムたちだ。
ナタリーはこれらアイテムをどうしたものかと悩んでいたのだ。
要塞村市場にあるナタリー専用の事務所。
夜になってもそこで頭を抱えていた彼女は、気分転換も兼ね、要塞村自慢の露天風呂に入ってリフレッシュしようと思いつき、共同浴場を目指して要塞内を歩いていた。
すると、
「なんじゃ、まだ起きておったのか」
現れたのはローザだった。
「ローザさんこそ、こんな遅い時間にどうしたんですか?」
「神樹の様子を見に来たんじゃ。と言っても、心配するようなことではなく、定期観察のようなものじゃ」
今や要塞村のご意見番というポジションに収まっているローザだが、元々は八極のひとりとして帝国を打ち破り、その後、帝国が管理していた神樹を調査する目的でこの屍の森に住んでいた。
その仕事は今も続けていて、現在はもっぱら能力を使ったとはいえ、なぜ神樹はあそこまでトアに力を貸すのかという研究テーマを掲げ、日夜観察を行っているらしい。
そのローザは、ナタリーの商人らしい悩みを聞くと、
「昔、ワシらが子どもの頃、近所のアイテム屋でやっていた《ガチャ》というシステムが役に立つかもしれん」
「ガチャ?」
聞き慣れない言葉に、ナタリーは首を傾げた。
「ワシはやったことがないのじゃが、同じ学園に通っておった者たちはよくやりに行ったらしい。なんでも、箱の中に外から見えないよう加工された数字入りの木札を取り、そこに書かれた番号のアイテムをもらえるという物じゃ。料金は一回二百ギールじゃが、景品の中には一万ギールを越えるアイテムもあったそうじゃ」
「へぇ……初めて聞きましたね」
だが、画期的なシステムだとナタリーは率直に感じた。
高価なアイテムを失うというリスクはあるものの、処理に困っていた微妙なアイテムを効率よく捌くには適している。
しかし、ナタリーには一点だけ気になることが。
「なぜ、そのような素晴らしいシステムが普及しなかったのでしょうか」
「ワシにも分からん」
商人であるナタリーからすれば、利用する手はないと即断できるくらい素晴らしい名案だと思うのだが、現代にいたるまで、そのシステムは世界のどの都市にも実装されていない。
だったら、この要塞村市場から発信しようと思い立った。
「これはビッグビジネスの匂いがするわ……」
先ほどまで唸っていたナタリーの表情は、みるみる明るくなっていった。
◇◇◇
数日後。
ついに実装された要塞村ガチャ。
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 世にも珍しい要塞村ガチャですよ!」
宣伝大使として選ばれたフォルが、威勢よくアピールを始める。
「また変な商売を始めたわね……」
「わふっ?」
「ガチャ? 聞いたことありませんね」
「私もだわ」
興味を示したクラーラ、マフレナ、ジャネット、エステルの四人が早速フォルからガチャの説明を受ける。
「わふっ! つまりくじ引きってことですね!」
「まあ、平たく言うとそうですね」
「わっ! こんなに景品があるの!?」
その品数の豊富さに、エステルが驚きの声をあげる。
だが、ジャネットは冷静に分析していた。
「確かに量は多いですが……ラインナップとしては……」
「微妙なアイテムの処理にもってこいじゃないですか。ゲーム感覚で楽しめて」
「ぶっちゃけるわねぇ……」
クラーラが呆れたように言う。
「ですが、クラーラ様たちにとって見逃せない景品もあるんですよ?」
「えっ? そうなの?」
「それがこちら――シャウナ様謹製の五分の一マスターフィギュア」
「「「「!?」」」」
フォルが手にした三十五センチほどの――トアを模した人形。手先が器用なシャウナの手製というだけあって、そのクオリティは素晴らしいの一言だった。
「で? ガチャはどこで引けるの? 値段は? 倍率は?」
「クラーラ様、財布をしまって真顔をやめてください」
全財産突っ込みそうな勢いのクラーラを制止するフォル。だが、他の三人も負けないくらいの迫力でガチャに挑もうとしていた。
「お、おい、確かに微妙なラインナップもあるが、結構いいのもあるじゃないか」
「あっ! あれずっと欲しかった剣だ!」
「こっちの盾も捨てがたい……」
他の村や町から来た客たちも徐々にガチャへと関心を高めていく。
「計画通り」
ナタリーはニタリと笑う。
ローザが昔見たというガチャは子供向けのため低価格だったが、今回は扱っている商品が商品だけに一回の挑戦料を高めに設定してあった。
「これでまた要塞村の財源は潤う……!」
静かにガッツポーズを取るナタリーだったが、ガチャが始まってから数時間経つ頃には状況が一変する。
「「「「「あと一回……あと一回やれば……」」」」」
うわ言のようにそう繰り返し、亡者のごときうつろな目をした客たち。
「こ、これが……ガチャの持つ魔力!」
「あと一回やったら欲しい物が出るかもしれない」――その恐ろしい言葉に踊らされた人々がたどる末路。
これにより、ナタリーは国家単位でガチャが禁止された理由を深く理解することになり、結局、要塞村ガチャはわずか数時間で永久禁止となったのであった。
――ちなみに、例の五分の一トアフィギュアは、エステルたち四人の共有財産として保管されることとなった。
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