第326話 憧れの人
クラーラの逆鱗に触れた男たちは五分ともたず全滅。
騒ぎを聞いて駆けつけた自警団のエドガーやミリアがドン引きするほどの圧倒的な力差を見せつけられて、男たちは大通りに大の字を描いて倒れていた。
男たちは捕らえられ、自警団の地下にある牢へと入れられることになり、明日にはセリウス騎士団が身柄を引き取りに来てくれるとのことだった。
事後処理のため、店の清掃をしていると、シャウナとマフレナのふたりがやってきて事情を説明。
「私にそっくりな人間の女の子が?」
いきなりそんなことを言われても訳が分からないクラーラ。
しかし、彼女がわざわざエルフに似せるために変装していたことや、髪型をクラーラに合わせているところを見ると、何かしらの関係性があるのではないかとシャウナは睨んでいた。
「本当に身に覚えがないかい?」
「は、はい……」
「過去に捨てた女とか?」
「してません!」
シャウナは時折セクハラすれすれのボケをかましつつ、クラーラへ事情聴取。だが、やはりクラーラは覚えていなかった。
◇◇◇
要塞村へと戻ってくると、ナタリーから情報を聞いたトアとエステル、さらに工房で作業していたジャネットも駆けつけたと聞いたクラーラたちは急いで診療所へと向かう。
そして、診療所へ入ったクラーラが最初に目にしたのは、
「「あっ!」」
声が重なる。
ひとつはクラーラのもので、もうひとつは――すでに目覚めていたクラーラそっくりの少女だった。
そこからは、すでに少女から事情を聞きだしていたトアやケイスらによる解説が入り、事態の真相が浮き彫りとなっていく。
まず、少女の名前はシンシアと言い、ストリア大陸から離れたロッパ大陸の出身であることが判明するも、クラーラにとってはさらに謎が深まる事実となった。なぜなら、クラーラは一度もロッパ大陸になど行っていないのだ。
それでも、シンシアはクラーラを知っていて、やはりあのカチューシャやポニーテールの髪型はクラーラを意識していてのことだと告げた。
その詳細については、シンシア自らの口から語られた。
「実は……私はずっと病弱で、幼い頃からずっと治療をしてきたんです。なかなか治らない病気だと言われたのですが、このストリア大陸にいいお医者さんがいて、その方なら治せるかもしれないと教わりました」
「じゃあ、そのお医者さんに会うためにこのストリア大陸へ来て、その時にクラーラと出会ったってこと?」
「出会ったというか……一方的に私が憧れを抱いたんです。髪型や、エルフ族に少しでも近づけるよう、特製のカチューシャまで作って……」
「「憧れ……?」」
フォルとシャウナが怪訝な表情を浮かべるも、スルー。それより、どこで自分のことを知ったのか、クラーラはそこが知りたかった。
「どこで私を見たの?」
「パーベルの港です。ロッパ大陸からの船旅を終えて、下船した直後に……クラーラさんと囚人服の男の人が戦っている場面に出くわしたんです」
「「あの時!?」」
クラーラと、そしてあの時現場にいたエステルが声をあげた。
囚人服の男というのは、ローザやシャウナと同じ八極のひとりであり、生みの親でもあるリーダーの《伝説の勇者》ヴィクトール。
確かに、クラーラはそのヴィクトールとパーベルの港で戦った経験がある。ところが、その結果はクラーラの大惨敗。とても憧れるような要素はなかったはずだ。
「あの戦い……とても強い人が相手でしたけど、クラーラさんの怯むことなく挑んでいく姿勢に、私は強い感銘を受けたんです」
「そ、そう?」
真正面から褒められて、クラーラは照れ笑いを浮かべる。
「あの時、私はこちらで治療を受けるのが怖かったんです。でも、クラーラさんの戦う姿に勇気をもらって、ちゃんと治そうって決意できたんです。私が今、元気にこうしていられるのもそのおかげなんです」
「へ?」
「ここへ来たのも、もう一度あなたに会って、きちんとお礼を言いたかったからなんです! 本当に、ありがとうございました!」
クラーラの両手を取って感謝の言葉を並べるシンシア。
図らずも、ひとりの少女の命を救ったに等しいクラーラの功績だが、本人はまったく意識していなかったため、どうしてよいやら反応に困っているようだった。
その後、要塞村ではクラーラに憧れるシンシアの歓迎会が開かれた。
病弱だったシンシアはこのような大宴会は初体験らしく、盛大に盛り上がる村民たちの迫力に圧倒されながらも、要塞村特製の料理やフルーツ、さらにはお風呂などを体験してから故郷のロッパ大陸へと戻っていった。
――のちに、彼女は作家としてこの時の体験を自身の著作の中で語っているが、それはまた少し先のお話である。
ちなみに、例の男たちだが、ロッパ大陸では大変貴重なエルフの姿をしていたシンシアをさらって一儲けしようとしていたらしく、相応の刑に処されるという。
セリウス側としては、その背後に人魚族の島を襲撃した、カラスのタトゥーの組織が絡んでいるのではないかと、関係性について調査を行っている――と、手紙を通してバーノン第一王子から報告を受けたのだった。
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