第282話 プレストンの誤算

「無敵の万能要塞で快適スローライフをおくります ~フォートレス・ライフ~」ですが、本作の書籍第2巻が6月10日に発売されます! 


8万文字以上の大改稿!

WEB版とは違った展開で描かれる要塞村の日常!


さらに!


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お楽しみに~


…………………………………………………………………………………………………



「プレストン!?」

「ミリアちゃんまで!?」


 懐かしい聖騎隊の制服に身を包んだ、プレストン率いるオルドネス隊の四人。

 そのうちのふたりと面識があるトアとエステルは、思わぬ再会に大きな声をあげた。


「どうしてプレストンがここに!?」

「それはこっちのセリフだ。てっきり、パーベル近郊に住んでいるものだとばかり思っていたが……どうやってグウィン族に取り入った?」

「そういうつもりでここにいるんじゃないよ」


聖騎隊の制服に袖を通した、《槍術士》のジョブを持つプレストンは、ゆっくりと愛用の槍を構える。

 

「……戻ったのか、聖騎隊に」

「おまえに監獄へぶち込まれてからいろいろあってな。最初はパーベルでのリベンジマッチを挑むために戻ったが……今やフェルネンドはそれどころじゃねぇからな」

「セリウスへ攻勢を仕掛けるきだろ?」

「なんだ、知っていたのか」


 舞踏会の日の夜に、セリウス王国第一王子のバーノンから聞いた情報だ。

 フェルネンド王国が見せている怪しげな動き。そして、現在の情勢。

 プレストンが聖騎隊へ戻ったというなら、その辺の詳しい事情について何か知っているはずだ。それを聞きだし、バーノン王子へ伝えたら――



「それより! クレイブお兄様の居場所を吐きなさい!」



 張り詰めた空気を裂いたのはミリアの叫びだった。


「……おまえ、少しは任務を優先させろよ」


 プレストンは呆れたように言って、再び視線をトアたちへ戻す。


「エステル・グレンテスとは再会できたようだな。それに……あの時一緒にいたポニーテールのエルフはどうした? そっちの犬耳娘に鞍替えしたか?」

「わふ?」


 プレストンたちと面識のないマフレナはキョトンしているが――すぐに彼らがトアとエステルに敵意を向けていることを認識すると、


「トア様の……敵ですか?」


 大きなマフレナの目がキュッと細められ、銀色の髪と尻尾が一瞬にして金色へと変化する。

 銀狼族の中でもごくわずかしか存在しないと言われる《金狼》――そういう意味では、マフレナは伝説の中の伝説といえる。


 ――さらに、戦闘面ではもうひとり、規格外の存在がいた。


「フェルネンド王国の兵士か……トア村長とは遺恨がありそうだな」


 八極のひとり――黒蛇のシャウナ。

 かつて、帝国が誇る五千の兵をたったひとりで壊滅させたこともある獣人族だ。

 

「! 年上美人まで……おまえ、意外と節操がないな。あのエドガーだってそこまでじゃなかっただろ?」


 目の前の女性が、英雄だということも、ましてやその英雄がまさかトアが村長を務める要塞村の村民であることなど、プレストンやミリアの頭の片隅にもない。


「プレストン、彼らとは知り合いのようだけど……グウィン族と関係があるなら拘束する必要があるわ」

「フンガー!!」

「そんなことは分かっている。――ユーノ、ガルド、臨戦態勢をとれ。ついでにミリアもだ」

「とっくに準備万端ですよ、先輩!」


 リーダーであるプレストンの指示で、三人は武器を構える。


「ほぅ……我々とやり合うつもりらしい」

「わふぅ……」


 明確な敵意を向けられ、シャウナとマフレナ、そして存在を消されかけているフォル、さらにエステルも臨戦態勢へ――移る前に、トアが一歩前に出て鞘から聖剣を抜いた。


「みんな――グウィン族の人たちを避難させてくれ」


 そう告げて、トアは聖剣へと魔力を込める。

 遠く離れていても、トアに力を与える神樹の魔力――それが、聖鉱石を加工して作られた聖剣エンディバルへと注がれる。途端に、トアの全身が、金色の輝きを放つ魔力で覆われる。


「「「「!?」」」」


 大気を震わせるその強烈な魔力は、対峙する四人にも伝わった。 

 それだけでなく、


「な、なんという……あの芋虫モンスターと戦った時とは比にならない……」

「あれはもはや……人の力とは思えん」


 遠くから状況を見ていたグウィン族の戦士サージと長のダルトーも、トアの放つ魔力に唖然としていた。


「そ、そんな!? なんなんですか、このデタラメな魔力は!?」

「この私の鑑定眼をもってしても計り知れないなんて……」

「フガガ!?!?」


 ミリア、ユーノ、ガルドはトアの魔力を前に動揺する。


「くっ……」


 トアからもっとも近い位置――正面に立つプレストンは、他の三人以上にその魔力の強さを感じていた。


「バカな……ただの《洋裁職人》が……なんでこんなバカげた魔力を――」


 パーベルで敗北した時、プレストンは当初、トアのジョブが《洋裁職人》ではなく、もっと別のジョブなのではないかと疑っていた。しかし、神官がジョブを見間違えるとは到底思えない。

そう思った時、あの努力という言葉が擬人化したようなタイプのトアのことだから、聖騎隊を去ってからも鍛錬を怠らず、町のチンピラと化していた自分との間にあった差が埋まったのではと仮定するようになる。


だから、四対一というこの状況ならば、確実に勝てると踏んでいた。


 だが、目の前に立つトアの全身から迸る魔力の渦――それは、努力云々では超越できない領域に達していた。


「おまえ……本当に《洋裁職人》なのか!?」

「そうだ。――俺は《要塞職人》だ」


 トアの魔力が、ひと際大きく爆ぜた。

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